office.5 (January)
《
俺は宣言通り残業せず、東雲も残業無しで帰れるか…いつものように帰り際、東雲のもとへ向かった。ちょっと様子を見守っていた。…東雲は東雲で予定があるだろうし…なんて思っていたら、予定は無いらしい。
心の中でガッツポーズ…くらいちょっと嬉しい。
『ちょっと黙って貰えますかね。
僕だって早く帰りたいから集中してるし、
ケーキはもう暁さんの誕生日になるから
暁さんの好きなの僕が買うし、
酒もうちで飲めばいいし、
泊まっていってもいいし』
パソコン画面を睨みながら、両手の指はキーボードを連打していた。…俺に引けを取らないタイピングの速さで、いやそんな事はどうでもいい。カッコイイと思ってしまった。サラッと俺に優しい言葉をかけてくれる後ろ姿が。ほんとコイツは可愛いヤツ。
そして俺は『泊まる』と即答していた。
「あーけど明日会社だしなんか…
暁さんの服とか…」
「Tシャツ貸して?」
「え、それはいいんだけど、明日、
誕生日でしょ?いいの?」
「そんなの東雲もじゃん。
いいじゃん、誕生日2人でお祝いしようよー」
「…ちょっと待ってね。
ホント今すぐ仕事終わらせるから」
言葉の通り東雲もすぐ仕事を終わらせ、酒など買い物をして、ホールケーキを抱えて東雲の部屋へ到着した。来てしまった。
仕事仲間とはプライベートで深く関わらないようにしていたから、仕事終わりに飲みに行くことはあっても家に上がるような事は初めてだ。もともと仲が良かった東雲でさえ、変な感じがする。ちょっと照れ臭い。
「あ、スリッパとか無いです」
「え、別にいいよ。
っていうかお前急に自分の部屋だと潔癖?
洗面所で足とか洗った方がいい感じ?
え、え!凄い綺麗にしてんじゃん!」
東雲の後ろから部屋を覗くと、意外と広くてシンプルな男らしい家具が並んでいた。家具の下にゴチャゴチャと服やタオルが転がっている所がだらしない…というか男らしい所だろうか。
「そんな洗えとか言わないし。
…手は洗わなきゃだけど」
俺が持っていたケーキを受け取ろうとする東雲。素直に渡すと東雲はすぐ近くだった洗面所の電気を付けた。
スムーズに手を洗うと、今度はその辺にケーキや荷物をちょっと置いて東雲が手を洗う。
そして俺がケーキを持って運び、そのケーキを覗く。
この流れるような連携は俺と東雲だから。
「ねぇ、バイクの後ろで
ケーキの原形保ったまま運んだ俺凄くない?」
「……ああ、ほんとだ。
そんなに必死だったんですか」
「結構必死だったけど…
東雲が買ってくれたから美味しく頂かねば」
「…味は変わらないっすけどね」
「そうだけど!見た目も大事だろ!
高けーケーキなんだから!
あ!Happy Birthdayってプレートもある!
可愛いねー?プレートもチョコかな?」
「…小学生みたい…」
「ん?!なんか言った?!」
「いやいや…可愛いなーと思って…」
「こんな低い声で騒いでる20代後半の
どこが可愛いんだよ!」
「ハイハイ。まぁ僕の運転技術のおかげで
ケーキが無事なんですけどね」
「…っていうか、部屋広くない?
ソファまである。本当に一人暮らし?」
「ずっと1人暮らしだよ」
「東雲、育ち良くない?俺も育ちいいけど。
あ、けど何処でも寝れるから
東雲はいつも通りベットでのびのび寝て…
え、ベッドデカくね?ホント一人暮らしかよ」
「一人だってば。
だれか泊まりに来たのも久しぶりだし。
ハイ、どれ飲む?」
2人でくっつくように話しながら台所へと移動していて、東雲は買ってきたものを並べるように広げてビールやチューハイの缶のどれを飲むか聞いてきた。
「ビールだね。
っていうかお前チューハイ飲むの?」
「暁さん飲むでしょ?」
「あー…まぁたまに、後半飲むけど…」
…かなり酔っ払ってしまうと、ビールを飲み続けるのが少しツラくて。楽しく飲み続けたい時にチューハイを飲む事がある。
そうなっているのが、東雲と一緒の時に多い…?
「ハイ。グラス」
「え?グラスいらないよ?」
「じゃあこのままで…とりあえず乾杯!」
東雲がササッと2つの缶ビールを片手で開け、1つを俺の目の前に差し出す。
すぐに受け取り、東雲が持つビールと合わせると東雲はビールを勢いよく飲み始めた。
俺も乾いた喉を一気に潤す。
「なんか、いちおう、暁さんを'おもてなし'?
丁寧に、とか思って…」
「え?で、スリッパとかグラスとか?」
「暁さんがベット使って」
照れたように話し始めた東雲に対して、俺も照れて冗談のように返すと…急に真っ直ぐ強い口調になった。
俺は今日?明日?俺の誕生日?
東雲のベットで寝るらしい。
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