office.4 (January)
《
それは、暁さんに肩を組まれながらお昼を食べに行こうとした際。ただでさえ整った綺麗な顔が近い。そんな綺麗な顔のパーツの1つである口が発した言葉が可愛くて衝撃を受けた。
残業しないと宣言した暁さんに、ランチをテイクアウトして食べながら仕事するかと提案すると…
『え!ヤダ。ちゃんと東雲と食べたい』
…'ヤダ'だけでも可愛いのに、'ちゃんと僕と食べたい'って…
小悪魔というか、天然たらしというか、彼の性格のこういう所、ほんと困るのだ。
ただでさえ回りから愛されるキャラな暁さん。他の人にも平気でこういう事を言うんだろう。
…分かってはいるけど、自分だけに向けられた言葉と思い歓喜してしまう。しかも、ナチュラルに発せられた低音ボイスが耳に響く。
数秒後、それはちょっとした勘違いで、ちゃんと"昼食"を食べたいって意味だったけど…
またその数秒後に、'東雲と食べられない時はそんな時もあるかもな'なんて言うから、僕とでなければ昼も適当に仕事しながらなのか…なんてちょっと喜んでしまったり…
「ねぇ?聞いてる?何食べたい?」
近くにあった暁さんの顔がさらに近づいて、キスでもされるんじゃ?ってほどの距離で睨まれた。睨まれてるのに、低い声なのに、可愛いいしかないのはなぜだろう。仕草?と顔?と…性格?が滲み出ているからだろうか。
キス…されるわけないのに。近い…キス?チュウ?……
「ッ…ちゅ、」
「ん、なんだよッ」
「ちゅ……う……から(中辛)に挑戦しようかな」
「中辛?あのカレー屋の?誕生日に?
いつもは小辛なのに?」
「いつもは小辛だけど…
暁さんあそこの中辛カレー食べたくない?」
「食べたい…アレ大好きだけど…」
「じゃあそこ行きましょ」
よく行くカレー屋でランチした。暁さんが言う'ちゃんとした昼食'なはず。デザートまで奢って貰ったし。
僕は辛いのは少し苦手だ。美味しいカレー屋があると初めて連れていってくれた時に、辛いのが苦手だと白状すると小辛を勧められた。勧められた通り食べた小辛が美味しくて、ずっと小辛を食べ続けていたけど…今日食べた中辛もギリギリ食べられる辛さだったな…
『…ちゅ…う…から…』つい口走ってしまった'チュウ'をどうにか誤魔化したくて言った事だけど、食べられて良かった。暁さんがいつも食べているものを食べられて良かった。
午後はお腹いっぱいで眠気に襲われつつ、どうにか今日中に済ませたい業務が片付きそうになってきて、時計を見たら定時の18時ちょっと前だった。
「今ちょっと暁さんのところにいたんだけどさー」
「ああ、田中さん、暁さんチームと共同業務…
進み具合どうですか?」
「うん。順調だよ。それでさ、
'今日は年明け初日だけど、
みんな残業なしで帰るぞー!'
って息巻いてたよ。暁さんが」
「…フッ…息巻いてました?」
想像してニヤけてしまう。可愛すぎるだろ。
「うん。面白い勢いで仕事片付けてた。
で、私も定時で帰りますので。
東雲くんも、ね?」
「はい。出来るだけ、早めに帰ります」
定時で帰った人、帰る用意をする人たちの中、パソコンと睨めっこを続けていた最中…暁さんがやって来て、すぐ後ろで僕の様子を見守るように静かに座った。
「……」
「…まだ終わらない?」
「もう少し」
「………」
「残業せずに帰るんじゃないんですか?」
「…うん。定時にあがった」
「?あーあがれそうですね」
「……東雲は?まだ?」
「もう少し………
暁さん、今日予定あるんじゃ?」
「東雲こそ。誕生日だし…予定…」
「別に無いです」
「え?そうなの?腹減らない?あ、
ビール飲みたくない?ここで飲んじゃう?」
「どうぞ。僕、バイクで来ちゃったんで」
「えー?俺1人でー?あ、ケーキ食べる?
何ケーキがいい?買ってこようか?」
「…ちょっと黙って貰えますかね。
僕だって早く帰りたいから集中してるし、
ケーキはもう暁さんの誕生日になるから
暁さんの好きなの僕が買うし、
酒もうちで飲めばいいし、
泊まっていってもいいし」
「……」
「……」
静かになったから振り返ると、なぜか驚いた顔で少し戸惑っている暁さんと目が合う。…僕の言い方、キツかったか?…
「そうやって女の子持ち帰るんだ?
東雲。さすがムッツリ」
「な…え?持ち帰…る?
泊ま……る?」
「泊まる」
…暁さんが予定ないなら…そしてビールが飲みたいならうちで…と思った。一緒に過ごせるなら一緒に過ごしたい。これが、'女の子を持ち帰る'ような行動なのか。
ムッツリ??……下心なんて無いのに。
そうだ。下心なんて無いから、泊まって貰ってアリなのだ。
下心……ナイ?
暁さんがうちに泊まるとなったら、変な緊張感が自ずと発生しだした。
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