office.2 (January)

東雲しののめ. job》


今日は年明けてからの初出勤日。1月4日。で、僕の誕生日。

年末年始は実家でのんびり気ままに過ごし、通勤は電車に乗りたくないからバイクで会社に通いやすいようにと始めた一人暮らしの部屋へ昨日戻り…睡眠だけとって会社へとバイクを走らせている。

ただ、早く、あの人に会いたくて。

毎日会っていたのが当たり前だったから、冬休みの間は会えないのが不思議なくらいで。…くだらない話をして笑うあの人の笑顔が見たくて…こんなこと思うとか、恋人でもあるまいしとか思うけど。

あかつきさん、僕の2歳だけ年上の上司。仕事が出来て他の先輩方と比べて群を抜く出世頭。実力重視な社風でもあるし、社内の人間からの信頼度も高い。それが評価にも繋がっているし…何より人気者なんだよなぁ…ちょっとヤンチャっぽい雰囲気だけど、コミニケーション能力抜群だし、完璧なのに気取ってなくて…

可愛い顔してるし…背は僕と同じくらいで高めだけど華奢で…声が低いっていうカッコイイ所もまた……


バイクを停め、会社に入り、暁さんの姿を探す。まだ出社前だからか、いつものカフェやソファに暁さんの姿は無い。


「あけましておめでとうございまーす

今年もよろしくお願いしまーす」


社会人として繰り返される挨拶を僕も繰り返していると、暁さんに会わずに自分のオフィスまで辿り着いてしまった。


「……あ、」


僕のデスクだけお菓子が山盛りになっていて、その違和感で同じオフィスの仲間から少しだけ視線が集まっていた。


「東雲!明けましておめでとう!」


「部長、明けましておめでとうございます。

今年も宜しくお願いします…」


「ああ、今年も宜しく。…どうしたんだソレ」


どうやら部長も初めてみる光景だということは…初めて新年を迎えた新人に対するイタズラではないようだ…


「……えっと、僕、今日誕生日なんで…」


「おお!そうか!おめでとう!

じゃあ今日昼メシ行くか!?」


「…いや。いいです」


「なんだよー奢ってやろうと思ったのにー」


「いいですいいです。

お昼は暁さんと食べるんで。

あ、それならコーヒー2つ奢って下さい」


「ああ、はいはい」


お昼は何か用事が無い限り、いつも暁さんと食べている。暁さん…このお菓子の山は絶対暁さんだ。

入社当時、暁さんが部署毎の研修時に僕の担当になってくれた。朝が弱い僕は、やっぱり実家から通える会社のほうが良かったのかな…なんて当時モヤモヤしていたけど、暁さんと出会って、暁さんのような居心地がいい人がこの会社にいるなら、一人暮らししてまでこの会社に通う価値があるな…なんて思えたんだ。


休憩中、いろんな書類をチェックしている時、カフェのコーヒーを奢ってくれた。


『砂糖ナシで、ミルク多め、とかどう?』


『ベストです』


『一緒だーー

でも俺、夕方とか疲れてる時は気分で

つい甘くしちゃうんだけどねー』


『わかります。甘いの飲みたくなります』


『だよねっ!砂糖じゃなくて、

チョコかメイプルシロップ足しオススメ!』


『それめちゃくちゃ好きです』


『ああ?わかる?今度飲もうな』


…にっこりと顔を綻ばせる優しい笑顔が可愛くてビックリして。


『…お?東雲くん、1月4日、誕生日?』


『はい』


『へぇー…絶対忘れない日だ…』


『え?なんでですか?』


『ん?なんでもない…』


何故か嬉しそうに含み笑いをしていた暁さん。

その時、暁さんの誕生日を聞きたいと思ったけど…先輩にそんな事聞くのも微妙だし、人に誕生日を聞いたことがない僕はスマートに聞く事が出来なかった。一緒にいればいずれ分かるだろ、なんて油断もあり、結局ずっと知らないままだ…


「暁さんですね…」


「ああ。ソレ?確かに暁はやりそうだな」


「まだ始業時間じゃないですよねッ」


「ああ…ていうか会議までに戻ればいいぞー」


走って暁さんのオフィスへ向かった。

聞かないと。すぐに。

自分のオフィスのドアを出てすぐ近くにある暁さんのオフィスへ…出勤してきた人達とすれ違いながら挨拶しないといけないのに疎かになる…申し訳ないけど僕急いでいるので。急用なので。軽く会釈だけして暁さんのデスクへ進んだ。


「暁さんッッ」


「はい!!」


デスクに座ってはいるけど、ミーアキャットのように首を伸ばして目を見開いてこっちに返事をする暁さん。そんな暁さんに、ずっと聞きたかった事を…


「暁さんの誕生日、いつですか?!

ッお菓子山盛り作るから誕生日いつですか!」


「……お菓子山盛り…」


「暁さんだよね?」


「……やっぱりバレたか」


……悔しげな様子はなく、可愛く笑う暁さん。


「そりゃ……僕の誕生日、

忘れないって言ってくれてたし…」


「ああ…運命感じてたから」


「え??」


「じゃあ、明日、お菓子山盛りヨロシク」


「え、えっと、だから、

誕生日を聞きたいんですって!

…誕生日はいつ?!」


今こそ…ちゃんと知りたくて、僕、ガラにもなく必死になっている気がする…

近くにいる同僚の方々は、こいつら何話してんだって顔してるけど…


「だから、明日だっては」


「え……明日……?それは運命。

確かにこれは運命だね」


「……なんか東雲が運命とか言うとエロいね。

東雲、絶対ムッツリスケベだろ」


「エロいとか心外だけど。

まぁムッツリだけど」


「やっぱり」


…必死になってた自分が、なんだか恥ずかしい気がするし…'運命'ってワードが、暁さんとだからか、冗談に出来ないというか更に恥ずかしいというか…

照れを隠して…早々に自分のデスクに戻ることにした。


「暁さん、明けましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします」


「ああ…東雲、誕生日おめでとう。

今年もよろしくお願いな」


「はいッッ」


……背中を向けながら振り返って挨拶した僕に、小さく手を振って挨拶を返してくれる暁さんが可愛くて…ニヤける顔を隠しながら自分のオフィスへ急いだ。こんな顔を見られずに済むから、オフィスが別で良かったって今だけは思った。

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