COWORKERS 〜上司部下〜
けなこ
〜上司部下〜
office.1 (January)
《
今日は年明け1発目の初日、1月4日で、同僚である
いつもより早めの出勤。初日だからではない。俺の両手にぶら下げたエコバッグの中には沢山のお菓子が入っていて、それを東雲のデスクに山盛りにするというイタズラを企てているからだ。
…驚くかな。喜んでくれるかな。…こんな事するの誰だろって俺に聞いてくるかな。そしたら俺は俺でシラを通して…けどお返しを催促するのにネタバラシしないとな。
通勤路である最寄りの駅から会社へ向かう道も正月飾りが至る所にあるからか、いつもと雰囲気が違っていた。すれ違う人達はどことなく寝不足そうに歩いているけど、俺はニヤける口元をマフラーで隠しながら歩いている。だって、めでたいもんな。お祝いだ。'明けましておめでとう'もそうだけれど、'誕生日おめでとう'だ。東雲の誕生日なんだから。
東雲は俺の2年後に入社してきた。何かの書類に誕生日が入力されていて、俺の誕生日と1日違いである事に気付いた。当然忘れられなくなった。
東雲は可愛い顔…?なのは俺の方か。女顔と言われる俺と違って、顔つきや身体つきがザ・男だ。歳下のくせに妙に落ち着いてるというか度胸があるというか…性格も男らしいと言いたいところだけど、小言が多い所があって…それもまぁ少し愛嬌があって可愛いところだ。
東雲の事を、俺は少しだけ後輩だと思っている。けど、同じチームの時に俺が主任になったりしたから、東雲は俺を上司と言い張り出した。かと言って不思議な事に先輩扱いされる事もない。…まぁだから俺も俺で、東雲にだけは同僚というより更に友達のような感覚に陥ってしまう…それが当たり前に許され、とても居心地が良い東雲との関係。
「…ッん、ん!ん!」
マフラーで口元を隠しながら、挨拶の為に声を出しやすいよう咳払いをした。俺のいつもの癖だけど、特に正月休みで何日も声を高めにするのを怠っていたから気を付けないと。…俺の声は低音過ぎて、引かれるからな。
会社の自動ドアを通ると、さっそく社内の人間とすれ違う。
「おはようございます!明けましておめでとうございます!今年もよろしくお願いします!」
数名とすれ違い、挨拶だけを交わし、東雲が出社する前にと先へ急ぐ。普段ならコーヒーを買うカフェや、時間があれば座って置いてある漫画を読んだりするお気に入りのソファ、1人でもつい手を伸ばしてしまうサッカーのテーブルゲームにも目もくれずに。…東雲のデスクの上にセッティングしたらコーヒーを飲もう。正月でいろいろ食べ過ぎたから、今日は甘さひかめえめで…
以前は東雲とチームが一緒だったけれど、俺が隣のチームに移動したから部屋も違ってしまった。俺にしたら古巣に戻るようだけど、運良く古巣のメンバーは誰も出社していないようだ。
こそこそと…けど時間の事を考えると大胆に…エコバッグをひっくり返し、無造作にお菓子の山を作った。
「暁さん!おはようございます!」
「あッ田中さん!おはようございますー!
明けましておめでとうございますー!」
…お菓子の山を作ったところを、東雲の隣の席の田中さんに見られてしまった。彼女は多分…俺の行動に疑問を持つだろう…お菓子のお土産的なモノを、なんで東雲にだけ?と思われてしまう。
「ねー、明けましておめでとうですー!
今年もよろしくお願いします。
…どうしました?東雲君探してるの?」
「あ、まぁ、出勤前に…
東雲、今日誕生日なんで、コレ置いてきますけど、シーーッでお願いします」
「え、東雲君誕生日なんだ。
シーーッ、ね?了解了解」
俺が人差し指を口元に当て、サプライズだと伝えたかったけど、なんとなく伝わっただろうか?
「…おひとつどうぞ。田中さんへお年賀っす」
「いやいいよー!東雲君にプレゼントじゃん」
「こんだけあるからひとつぐらい、どぞ」
お菓子の山からひとつ、田中さんのデスクに移動させ…さっき通り過ぎたカフェへ戻ろうと思ったけど、そうしたらあのお菓子の山を東雲が見る前に俺と会ってしまう。会ったら会ったでおめでとうを言いたくなりそうだから…自分のデスクで大人しく東雲が来るのを待つことにしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます