母の背中を夢見て

第2話 少女

 私は捨てられた



 そんな考えが頭の中をよぎる。


 まるで悪魔のささやき。

 これを思うたびに体力が減っていくのを少女は感じていた。



 空虚な心には、その言葉は残酷なほどよく響く。

 埋められない悲しさと、残酷な現実が少女の狭い心の中で反響しあい、その悲しみの度合いはますます大きくなる。


 そして次に続く言葉は、なんで?だ。




 少女は母に捨てられた。その理由が分からなかった。

 自分が捨てられた理由を一つずつ挙げる。



 お腹空いたから母のご飯を勝手に食べちゃったから私を捨てたの?でも、母は私が成長するならばと私を許してくれた。



 私が母の言いつけを守らずワインを舐めちゃったから?母は怒ったけど大人になったら一緒に飲みかわそうねと許してくれた。



 貧乏だったから私を捨てたの?でも、母はどんなときでも私を守ってくれると誓ってくれた。

 少女には分からなかった。その理由が……………だから、




 なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?

 なんで!?


 子供の心は繊細だ。

 分からないことがあれば大人に疑問を投げかける。だが、この寂びれた駅にその問いに答えてくれる大人は誰一人いない。




 少女は泣いた。

 子供の心は繊細で、分からないことがあれば泣いてしまう。それでも、誰も助けてくれない、誰も答えてもくれない。


「なんで…?」


 少女は呟いた。

 空虚な駅には、その呟きは残酷なほどよく響く。悲しみをのせた声は反響して、まるで鏡の部屋に閉じ込められたみたく声を多重に写す。やがて呟きも闇に葬られ、少女は一人になった。




 雫がシトシトと空間に鳴り響く。


 少女は落ちる水滴を見る。それはまるで水晶のように輝き、少女の過去の記憶をうつしだす。

 水滴の中にはあの懐かしき母との思い出がうつる。



 少女は思い出す。

 母と少女との生活は決して楽なものでもなかった。

 ご飯は一日二食で、そのご飯というのも粥ばかりでいつも腹は空いていた。だが、それでも母は少女を楽しませようとして、少女もまたそれに答えた。

 毎日が笑顔に満ち溢れていた。それが今や…



 なんで…?



 水滴が地面に着くと、その水滴はパリンッと砕け散る。

 これで何度目の疑問だろうか。



 少女は悲しみとも怒りとも言える複雑な感情を持っていた。

 ただ、もう一度母と会えるならば、自分を捨てた理由を聞きたい。話がしたい。

 そんな願望を胸に抱いて、うずくまり、少女はまた明日の夢を追う。


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