12保健室に行って早退したい②
「まったく、先生に話を振らないでください。ですがまあ、保健室に行かないという意見には賛成ですね。平さん、今日はもう、早退していいですよ。私と今から職員室に来なさい。早退の手続きをしますから」
具合が悪くなったら保健室。
普通はそう考えるものではないのか。やはり、この学校はどこか常識が狂っている。とはいえ、このまま早退できるのなら願ったりかなったりである。私は気分が悪い中、心の中でガッツポーズをして、急いで帰り支度を始めた。
「保健室に行きたいと、二度と口にしてはいけませんよ」
授業は私のために中断されてしまったが、私の足取りは軽い。授業中で静かな廊下を先生と二人で歩いていると、急に声をかけられた。
「保健室は具合が悪い人が行くのではないのですか?」
「顔が悪い人はお断りの場所なんですよ。何せ、あそこには」
「ああ、小花(こはな)先生、ちょうどよかった。少しお話ししたいことが。あれ、その生徒は?」
「ああ、琉生(るい)先生。先生が気になさるほどのことはありません」
「ええ、気になるなあ。あれ、この子もしかして」
「それでは先を急ぎますので」
急に腕を引っ張られて、小花先生が走り出した。今日初めて名前を知ったが、ずいぶんと可愛らしい名前だ。そんな可愛らしい名前が台無しなほど私を引っ張る力は強く、背中からは鬼気迫るものを感じた。
「待ってよ」
いや、これはもしや、『この人は私のものよ』展開だろうか。私はそんなことを微塵も望んじゃいない。小花先生は女生徒たちと同様に美少女クローンの大人版だ。容姿を説明するのも面倒なので、あのパターンの色気増しバージョンを想像してほしい。
男の方も大体似たようなものだ。そういえば男子の美のクローンの説明をしていなかった。まあ、女性の髪を短くして、肌の色を多少黒くして、顔とか腕、骨格を多少太くしたら完成だ。琉生とか呼ばれているこの先生も同様の容姿だ。いわゆるイケメン枠の容姿である。
「待ちません」
保健室に行くなという話の直後に出会った白衣の謎の先生。これは間違いなく保健室の先生だ。あまりにもずさんなフラグ回収の仕方だ。
そう言うことなので、この男と関わらない方がいいことはわかった。ということで、さっさとこの場から退散するとしよう。幸いにして、腕は小花先生に掴まれたままだが、男は声をかけてきただけで、もう片方の腕は自由である。
「ああああああああああああああああ!」
とりあえず、叫んでみることにした。これでも、大声が出るということに関しては右に出るものはいない。喉が丈夫にできていて、声も相手に響くちょうどよい高さでよく響くらしい。私の大声が廊下中に響き渡る。
突然の私の奇声に驚いた二人が身体を硬直させた。その隙を狙って、転校してから使いっぱなしの全速力で廊下を駆け抜ける。そして、私は無事に家に帰ることができたのだった。
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