12保健室に行って早退したい①

「……らさん。平さん、具合が悪いのなら、保健室に行った方がいいよ」


「平さん、そろそろ次の授業が始まるから、起きて」


「おーい」


 何やら私の周りが騒がしい。何を騒いでいるのかと、目を開けるとそこには、私を心配そうに見つめる複数の視線があった。


「ええと、今何時で、私はどうして囲まれているのでしょうか……」


 寝起きで、つい敬語で返事をするが、特にそのことについて触れられることなく教室で寝ていたことを言及される。

 

「やっと起きたあ。5時限目の体育に出席していないから、みんな心配していたんだよ。体育教師はサボるやつは放っておけって言っていたから、教室まで見に来れなかったんだよ。まさか、教室で寝ているとは思わないしね」


「教室にいたなら、連絡してくれればよかったのに。連絡先は教えたよね」


 私が目覚めたとたん、矢継ぎ早に「心配した」と言われるが、元はと言えば、お前たちが私にストレスを与えるから、今の状況に至っている。


 お前らのせいだー!


 ここで、思い切り教室中に響く大声で叫ぶことができたら、気分爽快だろう。しかし、小心者の私にそんなことができるはずもなく、黙ってニコニコと話を聞くのみだった。



 さて、私はまた授業中にがっつりと寝てしまったようだ。昨日と言い、今日と言い、真面目で通っていた転校前とは大違いの不良娘になりつつある。転校二日目の身としては悲しいばかりだ。前の高校ではそんなことは1日に1時間くらいだったのに。


 あれ、そう考えると、昔も今も、授業態度が良くないのは同じだった。いやしかし、授業をさぼったことはなかった。授業中に寝てしまってはいたけれど、ちゃんと授業に参加していた。今回は、がっつり授業をさぼってしまった。


 私は不良娘にでもなってしまったようだ。今が反抗期なのかもしれない。


「はい、授業がもうすぐ始まるので、席について準備するように」


 5時限目の体育が終わり、着替えを終えたクラスメイトが続々と教室に戻ってきた。そして、クラスメイト全員が教室に入る頃、次の授業の教科担任が教室に入ってきた。




「ねえねえ、平さん。私たち、体育で結構汗かいたんだけど、汗臭くないと思わない?」


「これ、とってもオススメノ制汗剤なんだよ。汗のにおいを消して、爽やかなミントの香りが全身に香って気分もいいし」


「私はラベンダーの甘い香りかな」


「ラベンダーよりもシャボンとかの方がいいよ。甘い匂いよりも自然だよ」


 いついかなるところでも自分のオススメノ美容商品の宣伝は忘れない、彼女たちの頑張りに完敗である。とはいえ、無臭派の私にとって、この空間は地獄である。5時限目の体育はサボってしまったが、次の授業は本気で体調不良で保健室に行きたくなってきた。


「あら、平さん、顔色が悪そうだけど、大丈夫?」


「やっぱり、具合が悪かったみたい。ほ、保健室に行ってもいいかな」


 そして、そのまま教室に戻らず、直帰したい。


 しかし、それを実現するためにはカバンを保健室まで持っていく必要がある。直ちに帰宅しなければならないほど顔色が悪く見えているのなら、それは可能だ。ちらりと周りの反応を確認すると、なぜか呆れたようなため息を吐かれてしまう。


「保健室にはいかない方がいいよ。平さん、保健室に行くまでもなく、相当具合が悪そうだから、このまま帰宅した方が」


「私もそう思う。保健室に言ってまた教室に戻って早退とか、二度手間でしょ。ねえ、先生もそう思うよね?」


 そういえば、先生がすでに教室にいるのだった。それなのに、なぜ、私の周りの女子たちは席に戻らないのだろうか。

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