5放課後②

「あの、あなたは2年生に転校してきた人ですよね?」


「一目見て、気になっていたんだ。まるで、私の昔をみているよう」


「どうか、私に任せて、イメチェンしてみませんか?」


 どうしたことか。いったい、私の容姿の何がいけないのだろうか。そこまで私の容姿は世間的に見て、やばい類に入るのだろうか。


「結構です」


 そうは言っても、彼女たちの言葉に従うつもりは毛頭ない。とにかく、今は家に帰ってゆっくり休みたいのだ。次々に遅いかかる制服姿の女子生徒の口撃を交わしながら、何とか電車に乗って、最寄り駅までたどり着く。


「平さんだ。久しぶりだね」


 最寄り駅を使う生徒は少ないと思っていた。そもそも、転校先の学校は全校生徒の80%が自転車か徒歩で通学する生徒だと聞いている。そんな中で私は電車通学をしている。だから、電車にさえ乗ってしまえば安心だと勘違いしていた。いや、そのはずだった。だって、私は親の都合で引っ越しをしたために、学校を転校したのだ。それなのに。


「あ、ああ、久しぶりだね。どうして、こんなところに。ええと」


 突然、電車から降りたところで、聞いたことのある声がかけられる。しかし、声の主を確認するが、まるで覚えがない。目の前には、新たな制服姿の美少女クローンが立っていた。私の通う転校先の制服とは別だったので、そこはひとまず安心である。


「私の姿に驚いた?驚くのも無理ないよ。だって、私の中学の頃の姿はひどかったからね」


 くすっと笑われてしまったが、そんなことを言われても、中学の頃の原型をとどめないほどの何をしたのだろうか。茶髪のショートボブをサラサラとなびかせ、瞳はカラコンを入れているのか。二重の中の瞳は妙にキラキラと人工的な輝きを放っていた。肌はもちろん、以下略。


「私だよ。あなたの幼馴染だった」


「ううん。わからん」


 中学の同級生だということは会話から察せられるが、幼馴染と言われてもピンとこない。そもそも、私に幼馴染がいたとは驚きだ。引っ越しばかりしていたので、幼馴染などいなかった記憶があるのだが。


「ひどいなあ。でもまあ、和子って、人の名前を覚えるのが苦手だったから仕方ないか。それにしても、相変わらず、和子は変わらないね。今時、そんなに変化がないのは、和子くらいだよ」


 私の名前を呼び捨てするくらいの仲らしい。思い出せないほどの整形をしているのかもしれない。いや、整形ではなく、彼女たち同様、美容にお金をかけている可能性もある。この件もまた、家に帰ってから考えることリストに加えておこう。


「では、私はこの後、予定があるからこの辺で」


「じゃあ、連絡先を交換しようよ。その制服、あそこの有名な進学校でしょ。私はその隣の県立高に通っているから、会うことも多いだろうし」


「結構です」


 このセリフを言うのは、本日何回目になるのかわからない。とはいえ、便利な言葉だ。一言ですべてを拒否することができる。


 私は謎の幼馴染の返事を聞かずに、再度全速力で駅のホームの階段を駆け下りる。そして、これまた全速力で自転車をもりこいで家に到着するのだった。

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