4昼休み②

「お前の姿を見ていたら、つい昔のことを思い出して」


 こいつも昔のことを言い始めた。私がいるクラスには、過去に黒歴史があった奴ばかりだというのか。いや、そうかもしれない。みな、容姿に何かしらのコンプレックスを抱えて、何かを試すことで克服した可能性がある。今日の午前中だけで、それははっきりとした。


「自分の昔のことを思い出したからと言って、私を教室から連れ出す理由にはなりません」


「すまない。ただ、オレはお前が彼女たちにいじめられているのかと思って」


「私に何を売りつけるつもりだったんですか?」


 改めてこの男の全身をじっくりと観察する。うん、こいつもまた、何かしら試している人間だ。女生徒たちと同じ甘い匂いが男の身体から漂っている。そして、彼もまた、腕には毛がなく、ツルツルと輝いていた。顔は、ニキビもシミも毛穴の黒ずみもない、ツルツルもちもちの肌をしていた。もちろん、髪はサラサラで天使の輪が頭の上で輝いていた。


「脱毛ですか?除毛クリームですか。はたまた、ダイエットサプリ?それともシャンプー?洗顔クリーム?私は貧乏なので、お断りですけど」


 畳みかけるように、私は先ほどまで女生徒に囲まれていた時に思いついた商品を口にする。おそらく、目の前の男子生徒はそのどれかを試したに違いない。もし違っていたら全力で謝るつもりだったが、どうやら図星だったらしい。目を見開いて、驚いた様子で口をパクパクさせていた。


「なん、なんで、わか、わかった」


「それだけなら、私は教室に戻ります。では」


「待って、平さんの言うことに間違いはないけど、僕は本当に君の身を案じて」


「結構です」


 ぴしゃりと言い切ると、さっさと空き教室から出て教室に向かう。男のせいで、貴重な昼休みを無駄にしてしまった。弁当も口にできないまま、昼休みを終えるのは苦痛すぎる。午後の授業を空腹に耐えながら受けろと言うのか。


 教室に戻ると、また女生徒たちに囲まれてしまった。しかし、私の食事を邪魔する生徒に容赦する必要はない。


「食事の邪魔をしないで下さい」


 そこまで大声で言ったつもりはなかったが、効果てきめんだったようだ。私が反論するとは思っていなかったのか、教室は一気に静けさを取り戻す。気まずい空気が流れたが、気にすることはない。


 私は自分の席について、開きっぱなしだった弁当箱の中身に箸をつけ、一人黙々と弁当を食べ始める。そして、何とか昼休み終了前までにお弁当を完食できた。午後の授業を空腹で受けることはなくなって、ほっとした。

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