3夢の中①

「ここは」


 私は気づくと、白い何もない空間にいた。辺りを見渡すが、誰も見当たらない。


「よく来てくれました。私の可愛い主人公」


「ええと、あなたは」


 しばらく、自分の今の状況を考えていたら、突如、目の前に私以外の存在が姿を現した。そして、まるで私のことを前から知っていたかのような口ぶりで、気軽に私に話しかけてくる。こちらは彼女とは初対面のはずであり、自分以外の存在を見つけて安堵した気持ちはすぐに消えてしまう。


「いきなり、自分の書いている物語の主人公にそんな口の利き方したら、警戒されるに決まっているでしょう。まったく、変なところでコミュ力を発揮しないでください」


「だって、自分が作った小説の中の人物に話しかけるわけでしょ。他人じゃないんだから、緊張するはずがない。それに、私がこうやって話しているのも、実際に話しているわけではないからね。今現在、『私』という存在が、パソコンの前で必死に会話を妄想して打ち込んでいるから存在して」


「そこまでにしてください。そうだとしても、この物語の主人公は、そんな作者の事情なんて知らないでしょ。作者のぶっちゃけた話なんて、聞きたくないと思いますよ」


「でもさ、この話なんて、そもそも現実の『女性の価値観』について考えさせられるように作りたかったわけじゃん。だったら、とことん、読者の皆さんに作者である私の言葉を正直に届けるのが、大切だと思わない?」


「いやいや、それだと小説になりませんよね。いろいろ、設定が破綻しますよ」


 女性が現れたかと思ったら、今度は男性が白い空間に突如姿を見せた。そして、今の状況を理解できていない私の目の前で、謎の口論を繰り広げ始めた。作者とか小説とか言っているが、いったい何の話をしているのやら。放っておけば、私をそっちのけで延々と話が続きそうだった。


「あ、あの!」


『何?』


 最初の私の問いかけは華麗にスルーされたので、今度は少し大きな声で、謎の二人の男女に声をかけてみる。すると、二人は私の存在を思い出したのか、息の合ったハモりを見せて、私に視線をよこした。じっと私を見つめる視線に耐え切れず、視線をそらしてしまったが、今いる現状把握のために勇気を振り絞って質問する。


「あの、まずあなたたちは何者ですか。あと、ここは一体」


「自分の名前は言える?」


 質問したのは私だというのに、なぜか相手の女性は私の質問を無視して、私に名前を問いかけてきた。隣の男は呆れたように頭を抱えていたが、女性の言葉に口をはさむことはせず、私の反応をうかがっていた。


「平和子(たいらかずこ)ですけど、それがどうかしましたか?」


 「見ず知らずの初対面の人間に名乗る名前などない」と言ってもよかったが、相手はすでに私のことを知っている様子だった。ここで名乗っても名乗らなくても、状況が変わるわけでもないと思ったので、仕方なく名乗ることにした。


「やっぱり、この名前は失敗だったかな。今時、『和子』なんて、古臭い名前にしすぎた感が否めない……」


「名前を付けるときに、もっと考えなくちゃ。どうせ、話の内容的に『平凡な感じの名前がいい』とか思ったんでしょ。でもさ、この子の名前って、確実にいじめにあう名前だと考えなかったの?」


「ああ、それは考えたよ。でもさ、それもありかなって。『平和子』で『へいわこ』なんてね」



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