4-18
燃えて煙を吹くバズマの怒声が戦場に響き散らす。
「やってくれたなあああ……どカスがァァァッ! 撃て撃て撃てッ!!! 地上のゴミ虫を殺せぇ!!!」
その号令と共に、レネルチア・チームが地上を這うリパゼルカに雷の矢を降らせる。幾百もの雷を、リパゼルカは地を蹴り、踊るように避けた。
「させるかい! 全員、根性振り絞ってリーゼを援護しいや!!!」
ダイナー・チームも敵に攻撃をさせっぱなしではない。
ミレイズの指示を受け、地上に意識を向けていたレネルチアに襲いかかる。
いくつもの魔法弾が放たれ、横合いからレネルチアの選手を撃ち抜く。
そちらの対処に回さざるを得ず、リパゼルカへの圧力が減った。
リパゼルカはその隙に速度を上げ、レネルチア平原を抜けるとその先に広がる森へと身を隠す。
それを見届けると、今度はダイナー・チームがレネルチア・チームとゴールとの間に立ち塞がる。決戦の開始とは逆の立場になった。
サギッタがミレイズにささやく。
「驚いたな……、てっきり最初でやられたと思っていたよ」
「ウチはちゃんと見とったからな。鉛色の魔法障壁……マジモンの盾みたいなんで、上手いこと後方の空に受け流すトコ」
「倒れて動かなかったのは?」
「そら一人で受けて、あんだけぶっ飛ばされたら気絶ぐらいするやろ。やけど、四肢が無事やったから起きれば飛べるだろう、ってな」
威力よりも数を用意して魔法弾を連射する。
吶喊してきた相手には“銀弾”が刺さった。
魔法を放つサギッタは呆れたように言った。
「彼女が間に合わなかったらどうするつもりだったんだい?」
「そりゃあ……姫さんが言っとったやろ。敵の真ン中に突っ込んで、ヤッちまうしかあらへん」
「雑すぎる話だ……ほとんど賭けじゃないか」
「勝算はあったんよ。【青い鳥】を飛ばしまくって、確認したから」
最終的にリパゼルカから返事があったのは、夜が明ける寸前。バズマの首を捻り折る方向に踏み切る、ギリギリのタイミングであった。
精一杯の時間稼ぎの上、命懸けで奪取した魔宝石の受け渡し。
その何もかもが打ち合わせナシの出たトコ勝負。
ミレイズがリパゼルカに伝えたのは、平原で決戦すること、そしてゴールに向かう役目を任せることの二点のみ。
どうにかして決戦に到着を間に合わせて、どうにかして都合の良い場面で乱入して、どうにかして魔宝石を受け取って、どうにかしてゴールしろ。そういうめちゃくちゃな
そんな指示とも言えない指示だとしても、どうにかしてみせるのが
リパゼルカは純粋な加速勝負ではなく、得意とする機動力の勝負を仕掛けた。
八点をリパゼルカが保持している以上は、リパゼルカから魔宝石を奪い返さねばレネルチア側もゴール出来ない。誰かがリパゼルカを捕捉しなければならなかった。
追うのを諦め、先回りしてゴール前に壁を作ってしまうのが手っ取り早い。
誰もが思いつく手段だが、それはララキアが、ミレイズが、ダイナー・チームが全力で阻止する。
森から追う分には止めないが、先回りしようとする輩には容赦しない。徐々に後退しながらも、足止めを続ける。
森はゴールの領都レネルチアの間際まで続いている。
仮に抜けた少人数が壁を築いたとしても、リパゼルカならば不意を突いてゴールに飛び込める。機敏さは参加選手でも随一のはずだ。
「懸念が一つある」
「急になんや?」
「僕の魔法が通る」
サギッタの言葉にミレイズは顔をしかめた。
それが意味するところは――、
「あの子は入り組んだ場所を飛ばせたら早いわよお……! 追いかけなくていいのかしらあ」
血の気が失せた顔で、しかし的確に“銀弾”を障壁の薄いところに撒くララキアが煽る。
バズマもまた自身の致命傷になりうる物だけを選んで、魔法障壁で正確に弾く。ここまでの戦闘で魔法力は確かに削られていた。
――だが、バズマの余裕は崩れない。
「フン! まずは貴様ら羽虫を駆除して、それからあのゴミ虫にゆっくりと歯向かったことを後悔させてやる……。備えはこちらにもあるからなァ!」
遠く。
森の方で何かが光り、そして爆風と共に木々が吹き飛んだ。
◆ ◆ ◆
リパゼルカの眼前から森が消えてしまった。
天空から一本の赤い線が落ちてきて、眩い光と爆風を撒き散らし……気が付けば周囲を覆っていた、全く手入れのされていない森が丸裸となっている。
ずっとリパゼルカに着いてきている妖精がぼそりと呟く。
「まさか……【
「それは違う」
似ている光景ではあったが、これは【
しかしながら森を伝ってゴールまで向かうつもりであったが、こうなっては潜んでいられない。
リパゼルカが覚悟を決めて森から上空に飛び出すと、それを待ち受けていたかのようにフードローブが飛翔を遮った。
「ふむ。バズマの指示で念のために待機していたが、おれが鍛えたやつらから点を奪うとはな」
「不意打ちしないと敵の数を減らせもしない面子なのだから、当然の話じゃない?」
「そうかもしれん。人族に期待をするのが間違いか」
「あなたは、おしゃべりをしたい人? それなら、この妖精を置いていくから好きに話していて」
「え゛っ」
リパゼルカの煽りを気にした様子もなく、フードローブの男は淡々と言う。
「先ほどの【
「……あれが【
「そうだ。おれはヴァディーグ――竜人族の戦士だ」
男……ヴァディーグはそう言って、深く被っているフードを剥ぎ、ローブの前を開く。
他の空駆者と違って
濃い緑色の鱗に覆われた肌が目立つ。刺々しさはなく、いっそ滑らかさに太陽が煌めいていた。
竜族のような桁外れの体格は持たないが、姿かたちは似ていなくはない。
竜が人の姿を取った時、こうなるのではないか。そんな風に思わせる容姿をしていた。
「滅多に人族の里に来ない、竜人族がどうしてこんなところに……。リパゼルカさん、ピンチですよ!」
実況をしないから暇なのか、それとも緊張から言葉を発さずにはいられないのか、やたらと妖精が話しかけてくる。
「なんで?」
「竜人族は、竜族の血を引いていると言われるだけあって、あらゆる面でトップクラスの種族です。人族のリパゼルカさんじゃあ、足元にも及ばな……ぐえっ!」
「失礼な」
ベシンと妖精をはたき落とすリパゼルカに、ヴァディーグは再度問う。
「その妖精の言う通りだ。おれにはレースでも魔法でも、人族では勝てない。それでも、おれに挑むつもりか?」
「もちろん、押し通る」
リパゼルカは一瞬たりとも躊躇わずに言った。
「あんなものを【
「ふっ……」
ヴァディーグは頬まで伸びた口角から笑いを零し、
「その侮辱、残り僅かな生の全てで後悔しろ」
風のそよぎと一体化するように戦闘態勢を取った。
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