4-13

 【巨人殺しの雷霆ティタノマキア】を受けたダイナー・チーム、及びダイナクルスの街は酷いことになっていた。


『なんということでしょう~! あまりにも卑劣なレネルチア・チームの奇襲により、スタート地点が半壊しております~!』

『ダイナー・チームも……脱落者が続出しておるな。わしら妖精も新人が余波で離脱するハメになった。なんとかダイナー・チームには勝ってもらいたい気持ちが増したが、果たしてすぐに追えるのか!?』


 レネルチアは儀式魔法を放つなり、その結果も見ずにスタート地点を飛び出していった。“銀弾”等に被弾して動けなくなった者は捨てられている。


 一方、ダイナー側は酷い被害を受けている。

 特にダイナクルスを拠点とする空駆者は軒並み脱落と言ってもよかった。


 リパゼルカと同様に街に放たれた【巨人殺しの雷霆ティタノマキア】をその身で防いだのである。


 ここに集まってきた観客のほとんどは、魔法に習熟していない一般人だ。

 空駆者や魔法使いと違って、魔的防御など持っていないも同然。余波が当たっても瀕死に至り、建物の崩落に巻き込まれたら生きては戻れない。


 ダイナクルスで過ごしてきた者たちにとっては見逃せない暴挙だったのだ。


 空に向かって撃たせようと散開していたが、街に放たれると同時におおよそ十人が近くの雷槍における射線を切った。


 地表を奔る一本に触れるのは難しい。

 だが、背の高い建造物を狙う二本は防ぐ。


 全員が外装を高出力ハイパワー、あるいは特殊エクステンション形態に移行させ、槍の前に順番に並ぶ。魔的防御の高い壁をいくつも並べることで、威力を減衰させる。


 即席の魔法盾に数人で力を注いだところで、正しく発動された儀式魔法には敵わない。

 その認識が肉壁による防御を選ばせた。


 いくら巨人を殺す魔法だとしても、外装を装備した空駆者を数人も殺した後で真価を発揮できるものなら見せてみろ。


 そう自身を奮い立たせた選手をまとめて串刺しにし、広がる建造物をも貫いて【巨人殺しの雷霆ティタノマキア】はその射線上に破壊を振りまいた。






 ダイナー・チームのエースたるララキアにも二本の雷槍が襲いかかった。


 天空を舞う空駆者に直撃を狙うのはいかに【巨人殺しの雷霆ティタノマキア】といえども難しい。

 巨人殺しの逸話は、巨人族が俊敏さに秀でていないこと、また的となる巨人族自身の大きさが仇となったのが底にある。


 街を背にしていなければ避けることは容易い――


「と思っていたわたくしが浅はかだったようねえ! この二本だけ追尾してくるのは聞いてないわよお!」


 わずかな時間差を付けて射出された【巨人殺しの雷霆ティタノマキア】がララキアを追う。上下左右に激しい機動をしようとお構いなしで、ララキアを抜き去った先で孤を描き戻ってくる。


 当たるまで追いかけてくる術式の付与。


 四人儀式カルテットをあれだけ用意した上に、難易度の高い魔法に術式付与を行う使の存在。

 レネルチアのぼんくらバズマに手配できる勢力ではありえない。


 想定外の後ろ盾がある。


「それを推測する前にこちらをなんとかしなければね……!」


 ララキアは唇を噛んだ。


 場所が悪い。


 追尾魔法の最も簡単な対処は、自身の代替物に魔法をぶつけてしまうこと。それに尽きる。

 今回の【巨人殺しの雷霆ティタノマキア】であれば、上空から急降下を行い、地表にぶつけるのが効果的であろう。


 だが、眼下に広がるのはララキアの街であるダイナクルス。

 街の外に向かおうにも二本の槍がララキアを中心にして、円を描くように囲っている。抜けられない。三本目の魔法陣を破壊出来ていなかったらどうなっていたか、ゾッとする。


「腕か足を片方捨てれば……いけるかしら」


 代替物が用意できないのであれば、自身で受けるしかなかった。

 追尾の術式がララキアに触れることで解除されるのであれば、末端で受ければ被害は最小限で済む。ララキアが死ぬまで追い回す術式である可能性は考えないようにする。


「いいわあ! 左腕ッ、持っていきなさいっ!」


 雷に由来する熱や痺れ等、嵐の中を飛翔する際の防御魔法に切り替えて最低限の対策を行う。


 ララキアは一本目を大きく避けた後、二本目の心臓を狙う雷槍をギリギリまで引き付け、直撃する寸前で軸をズラした。その場に置いていかれた左腕が【巨人殺しの雷霆ティタノマキア】と接触する。


「アァッ、ゥグッ!」


 触れた肘から先端が瞬時に焦げた。

 雷が腕から流れ込み、視界が明滅する。


 ふとララキアは気付くと、逆さまに落下していた。


 ほんの短い間気絶してしまっていたようだ、とすぐに察する。

 雷槍の行方を探す。一本は空の彼方へと消え去り、残りの一本が彼方よりララキアの心臓を穿つべく飛来する。


「あと一本なら……ぐっぅ……っ!」


 再び飛翔しようとして、全身に酷い痛みが奔る。ララキアの意思に反して、身体が言うことを聞かない。強烈な電撃による麻痺だ。


 魔法もなかなかうまいこと操ることが出来ない。魔法力を練ろうとすればするほど痛みが跳ね上がる。

 間近に地面が迫る。

 普段であればなんてことのない落下距離だが、魔法の使えない今は不味い。


 ――死ぬ。


 地面で身体の中身をハジけさせる直前、


「お嬢!」

「ザム……」


 泡立つ外装を投げ捨てたザムが煙を吹きながら、ララキアを掬い上げた。


「あなた、街の守りに行かせたじゃない」

「さーせん、無理だったっす。なんとか威力減衰させて、南が半壊ってところっす」


 ザムは【ジャイダ】の時と違って、重量級のシールダーに向いた外装を装備していた。

 だからこそ直撃を受けておきながらもなんとか生きているのだが、代わりに外装は全損。もう星駆けに付いていくことは不可能だ。


「……仕方がないわ。わたくしが機能回復するまで時間を稼いでちょうだい」

「はっは、お嬢。……そいつは無理な相談だなァ」


 軽い口調で言って、ザムは口の端から血を流した。だんだんと高度が落ちていく。


「実はもう浮かんでるだけで精一杯なんだな、これが」

「ザム……! 何をするつもり!?」

「エースを守るのがオレたちの仕事っすよ。アレは何とかしとくんで、先に行ってくれっす」

「身代わりはよしなさい! わたくしはもう飛べる、離しなさいッ!」


 あの【巨人殺しの雷霆ティタノマキア】は代替物に当たれば、追尾を止める。


「お嬢の強がりも、久しぶりに聞いたな。……そんじゃあ、後はよろしく、っす」


 ザムはララキアを投げ捨てた。

 エースの腕を奪っただけで腹立たしいのに、そのまま命を狙う?


「へっ……、そんな、こと、させっか、よ……」


 そして、ララキアを追ってくる【巨人殺しの雷霆ティタノマキア】をその身に受ける。


「ザムッ!?」

「行けぇ! まだ、星駆けレースは、始まったばっかだろうが!!! 追えッ!!!」


 魔法障壁と雷槍をわずかに拮抗させ、ザムは最期にそう怒鳴った。

 数秒の拮抗の後、金色の雷槍はザムを魔法障壁ごと貫いて、ダイナクルスの地表に長い軌跡を描いた。

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