4-12
次いで、低い声の妖精が相槌を打つ。
『今回の星駆けは人族の国に住むわしらにとっても興味深い! よって十人体制で準備した! いつもよりもダイナミックな映像をお届けできるはずなので期待してほしい』
『大盤振る舞いですよ~! さて~! レースが始まる前に、さらっとレース概要を説明しますよ~! 今回のレース形式は『
『そして禁止事項は……なんと『
ちゃっかりと宣伝している姿に笑いが漏れる。
観客からの笑いが収まり、再びの注目を集めたところで妖精たちは顔を見合わせてから、それぞれが所定の位置に着いた。
『それでは……テンカウントからの号砲で星駆け開始となります~!』
『わしらのカウントに合わせて、一緒にやるぞ!』
『いっきますよ~! ……10、9、8、7!』
『6、5、4』
妖精の声に、観客の怒声にも近い大音量が重なり、地面がビリビリと震える。
『『3、2、1ッ!!!』』
そんな歓声を全てかき消す号砲が、天で花開いた。
スタートだ。
当初の予定通り、ゆっくりと全員でまとまって浮き上がる。まずは相手の出方を見る、という話になっていたからだ。
さて――、と『DPS』として参加しているマルニアの背を踏み台に、一番身軽なリパゼルカが先だって高度を上げ視界を取る。
見下ろした世界の中で、レネルチア・チームはスタート地点から一歩も動いていない。
「……? 同じくダイナーの出方を見てる……?」
それが勘違いということは、すぐに判明した。
レネルチア・チームの足元からいくつもの魔法陣が光を放つ。
「儀式魔法ッ! 街中で!?」
『星彩協定を初っ端から無視か、レネルチア・チーム!? わしらも危険じゃ、観客も今すぐここを離れろ!』
妖精の呼びかけを受け、堰を切ったように観客が暴走した。
合計で七つもの魔法陣が回転しながら浮かび上がる。フードローブが激しくはためくほどの圧力があった。
「
「ンなこと言われてもよ……!」
リパゼルカの警告にザムが顔を強張らせる。
しかしながらさすがの面子、動きは早かった。誰も儀式魔法を受けたいだなんて思わない。上下左右に散り、狙いを乱すと共に街からの脱出を目論む。
この街中で儀式魔法が炸裂した場合の被害はとんでもないものになる。街に着弾させてはならない。
「狙いはわたくし……で当然よねえ!」
ララキアが大声で所在をアピールする。
もちろんレネルチア側の大目標はエースの撃墜で間違いないであろう。
三つの魔法陣がララキアを追う。
そして残り四つの魔法陣は明らかに別のモノをターゲッティングしていた。
ダイナクルスの街である。
暗黙の了解として禁じ手に認められる行為。街や観客を人質に取る手段。躊躇なくそれを選ぶ外道。
【
「リーゼ! 何しとんねん!?」
ミレイズの声を振り切り、リパゼルカは天頂を蹴り砕き、空を真っ逆さまに下る。
儀式魔法は一人では行使不可能なほど膨大な魔法力や制御パワーが必要な技術だ。それが成功した時、二倍や三倍では利かない効率の大魔法が発動する。かつて世界を壊しかけたのも、儀式魔法の一種であると言えば、その脅威は理解されるはずだ。
弱点はいくつもある。
発動に至るまでの壁がいくつもある。熟練の行使者が複数必要なこと。魔法の行使に耐える媒体も人数分。単純に魔法の難易度が高い。
そしてこの場においては、連携している行使者の集中力を乱し儀式魔法の成功率を大きく落とすこと、それが最も重要な要素として挙げられる。
行使者を一人でもハッ倒せば暴発、あるいは不発に陥らせることも可能ではないか。
「くっ……、街中で撃ちたくはなかったわねえ!」
リパゼルカの特攻を見て覚悟を決めたララキアもまた、“銀弾”を魔法陣に向かって放つ。
降り注ぐ“銀弾”をいつの間にか張られていた魔法障壁が弾く。
虹色にたわむそれを、三重に強化したリパゼルカの踵落としが粉々に打ち砕く。
「クソがあ……遅いわッ! 者共、【
ノイズがかったダミ声が響き渡り、魔法陣から出でし金色の雷槍が一斉に放たれる――
「させるかぁっ!」
雷槍の先端にリパゼルカは拳を叩きつけた。
まだ未発動の状態であれば、
その予想に違わず、リパゼルカの拳は千切るようにして雷槍を裂く。
飛び散った雷が全身を細かく灼いた。
「うあああああぁぁぁッ! 一つッ!」
「何をしておるかァ! さっさと消し炭にしろクズ共がッ!」
「ハッ!」
降ってきた“銀弾”が他の魔法陣を破壊し、紅炎がレネルチア・チームを炙る。
リパゼルカは魔法陣を破壊されてグラつく男の肩を蹴り、二つ目の魔法陣に飛びついた。
【
「う、ぐ……ぐっ!」
ついに儀式魔法が完成してしまった。
あと少しで壊せそうだった魔法陣から膨れ上がった魔法力の圧に吹き飛ばされる。地面を転がりながらも、手足を引っ掛けて土煙を立てながら姿勢を整えた。
そして視界に映る雷槍の先端に、血が凍った。リパゼルカに狙いを付けている。
その長大な槍の表面で、バチバチと雷が跳ねる。
【――
金色の雷槍が放たれる。
巨人族を殺した逸話を持つ比類なき破壊力を持つ、有名な
いくら三重魔法を使えるとはいえ、儀式魔法に対抗できる強度ではなかった。
避けるしか、リパゼルカに生き残る道はない。
――そこでつい背後を確認してしまったのは、何らかの予感がしたからか。
逃げ損ねている見慣れた姿と恥ずかしい横断幕を目にして、それから迫りくる【
「……予行演習にはちょうどいい。来なよ、巨人殺し」
リパゼルカは充填の終わっている五つの核の内、三つを首元のリングに固定した。
一つずつの使用をトッテマには厳命されていたが、無論、それどころではない。スタート直後に言いつけを破る形になって申し訳ないが、例え異常値が出たとしても自壊はさせないでほしいと切に祈る。
核を一つ扱うだけで困難な制御を要求されていたにも関わらず、一気に三つの結晶核を解放したことで濃密な魔法力がリパゼルカを圧し潰す。
「黙って……言うことを、聴け――!!!」
力業で無理やりに制御を掌握。リパゼルカの両手両足や顔面等から血管が浮かび上がり、ぷつりぷつりと寸断されていく。
リパゼルカはわずかな時間で打開策を考えた。
強化魔法ではダメだ。破壊特化の儀式魔法に対して、強度が足りずに打ち破られる。
通常使用している防護魔法を重ねがけするのでもダメだ。飛翔用にカスタマイズしているので、余計な機能が多すぎる。今から調整は不可能。
いくつもの魔法を思い浮かべてはバツを付ける。
「リーゼ、避けぇや!」
身動きしないリパゼルカにミレイズが怒鳴った。
刹那、思い出す。
――ああ、そういえば、彼女に攻撃を防がれたのは【氷の盾】だった。
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