3-20
魔法力が枯渇しない。
ギリギリのところで、リパゼルカは強化を維持していた。
反動の激しい魔法の制御を一秒ごとに修正していく。
最適な動き、最適な強化。
一手を誤れば、即座に心臓が破裂しそうな圧力の中で最適を探す。
このわずかな時間で最低限、使えると思えるレベルに習熟し、リパゼルカは意識を前に向けた。
リパゼルカ以外の誰もが事前に用意していた切り札だと思ったが、突発的に編み出した対策を即座にリファインして実用化するその才覚は“化け物”と比較しても、なお化け物であった。
根底を支える無尽蔵の魔法力には、クソ不味いトッテマ謹製の補給食が寄与している。
常人であれば一口で意識を失ってもおかしくない劇物を、リパゼルカは持てる全ての量を口に含んでいた。
摂取した量のせいか、試験段階よりも多く、急速な魔法力を生み出している。
眠気、疲労、眩み、霞み……。
急激な魔法力の生産に慣れていない精神がどんどんと摩耗していく。
精神が疲弊するほど、大量に生み出された魔法力が惜しみなく強化に吸われていく。
予想外の幸運。だが諸刃の剣だ。
魔法行使の根幹には
そうなる前にゴールポイントを奪取する。
「――行く!」
気勢を整えて、リパゼルカが軽く路を蹴ると、時間が跳んだかのようにカテラリアとの距離が消える。
全力で駆けたらどこに飛んでいくか分からなくて、とてもいつものように地を踏むことが出来ない。
「ゼリー、しつこいっ!」
カテラリアが怒鳴りながらリパゼルカの進路を遮る。
第三区間であったザムとベベルの光景を再現するつもりか、と一瞬考える。
問題ない。
あの時と、今回の場面には大きな違いがある。
リパゼルカに瞬く間だとしても準備をする時間と心の余裕がある、ということだ。
「生身はしつこいぐらいがちょうど良いの!」
暴走リパゼルカは急には止まれない。
道行を塞ぐカテラリアに強化をマシマシで、両足を揃えて突き出す。
カテラリアの外装は特殊形態が強力な分、耐久力はさほど高くないと踏んだ。
「今度はカティが落ちる番!」
「そう簡単には喰らってあげられない」
カテラリアが外装を翻す。
斜めに構えられた滑らかなその表面が光を過剰に反射する。
到達した蹴り足がつるりと滑った。覚えのある感触。
「氷の盾!?」
「ここまでの道程でゼリーが
リパゼルカに時間があるのならば、カテラリアにも時間が与えられるのは必然。
選択を選んだ側には、さらにアドバンテージが与えられる。
迎撃を選んだカテラリアには適切な魔法を準備する余裕があった。
残りわずかな魔法力を加速ではなく、必要あるかないかも分からぬ
魔法力を切らしたと思い込ませる
蹴撃による勢いの方向が逸らされる。
滑らせた先は糸路から外れ、深い谷底へと向かう崖。そちらに落ちれば、今度こそリパゼルカは這い上がってこれない。
会心の反撃に、カテラリアは口の端を吊り上げる。
「これでゼリーはコースアウト……、――ッ?」
「足を弾いたところでッ!」
そして、コースの外にすっ飛ばされるはずのリパゼルカは、
「人には、まだ手が二本もある!」
カテラリアの外装の先端に指を引っ掛けて、その場に滞空していた。
外装をコーティングしている氷に、喰い込んだ指先から零れる血熱が染みていく。強化魔法を重ねていなければ、そのまま鋭い氷に指を切断されていただろう。
リパゼルカの弾丸キックの勢いを受け止める形になったカテラリアの体幹が揺らぐ。
バランスを崩すカテラリアを手放し、空猫のような身軽さでくるりと回転したリパゼルカはカテラリアの氷盾に着地した。
ここに至って、実況の妖精も、息を呑む観客も、そしてカテラリアも。
リパゼルカがどこかに足を着けることの意味を悟っていた。
すなわち――
『
――加速の前準備。
今度は足を滑らせることなく踏み切ったリパゼルカが、最終チェックポイント、【ジャイダ・シティスプリント・ペア】ゴールのテープを目にも留まらぬ速度で引き千切った。
その勢いで衝突したジャイダの鐘楼が鈍く揺れ、勝利を示唆する鐘の音がかすかに鳴り響く。
獲得ポイント合計七十一。
二位でゴールしたケイル・カテラリア組の七十ポイントをかろうじて上回り、リパゼルカは<暁天>での初勝利をもぎとった。
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