3-6
【ジャイダ・シティスプリント・ペア】。
種目は『リレー・ペア・ポイントアップ』という、なかなか珍しいと言える部類のもの。
ベベルから聞いていた物にポイントアップが追加された形でいいだろう。
性別を問わず二人組での参加が必須であり、交互にチェックポイント間を飛翔する形だ。ここまでならば希少でもなんでもないが、ポイントアップを絡めると途端に数が少なくなる。
ポイントアップとは文字通り与えられるポイントを奪い合い、ゴール時に最も多くのポイントを取得していた者が勝利となる種目だ。
ポイントは目に見える形で与えられる場合もあれば、仮定的に付与される場合もある。前者なら魔法戦闘で奪うことも可能だが、今回は後者である。
どのような基準でポイントが与えられるかというと、コースのいくつかの地点を指定し、そこを通過した順番に付与されることが多い。一位通過が一番多く、十位ぐらいまではポイントを取得可能だ。
今回のコースでは七つのポイントが設定されている。
まず、それぞれリレーで入れ替わるチェックポイント。各々で二回ずつ飛翔する形なので、三回の交代が発生する。
ここで三つのチェック、最大でそれぞれ十五ポイント。
それから特別ポイントがそれぞれのコースの中に設定されている。スプリントポイント、ライジングポイント、そしてシティスプリントポイントの三つ。各々、最大で十ポイント。
特別ポイントはポイントを稼げるだけでなく、特別賞として別口で表彰があるので、ここだけを狙う者もいる。
そして最後にゴールポイント、二十ポイント。
合計七つのポイントで競ることになる。
ポイントアップの要点は、必ずしも一番最初にゴールした者が優勝、というわけではないことにある。
全ての地点を二位で通過したとしても、一位のポイントが全て違うペアに入れば十分勝利を狙える。
無理に競って
どこで順位を上げるのか、どのポイントを取りに行くか、そういった高度な読み合い、戦略が問われるレースになる。
もう一つの重要な要素であるレース規則であるが、『
遠距離攻撃魔法の使用禁止、かつ近接における魔法戦闘はお互いが触れる範囲に入ってから一秒のみ許される。相手を撃墜するつもりならば、初手で殴り合えということだ。それでダメなら素直にデッドヒートを繰り広げるしかない。
基本的には真っ当にレースをしてほしい、ジャイダの運営本部の願いが込められた規則に思える。
戦闘自体を禁じてしまうと接触した時点で規則違反になりかねないので、最も接触しやすい場面を想定した形だろう。
そして今回、この規則は空駆者の善性と良識によって、遵守される。
後々揉めることがないよう、祈るばかりである。
最大の懸念材料だったコースレイアウトについても、細かな説明が成された。
コースの大幅な逸脱は失格、外縁に関しては地上にルートガイドとして二本のロープを張っているのでその間から出ないように注意。
スタートは上街の広場から。
糸路をすり抜けて山頂の鐘楼まで辿り着き、そこから一気に山を下る。
中腹まで下ったところで山を回り、ジャララ連峰側に広がる断崖絶壁の谷底を飛翔。ここで谷の最奥にスプリントポイントが設置されている。
スプリントポイントの先にある洞窟を通り、ジャイダの地下へ到達。そこで第一チェックポイント、交代となる。
曲がりくねった地下道を道なりに進むと、下街の最下層に出る。
最下層は灯りが少なく、人工的に作られた路がほとんど故に曲がり角の予測が難しい。速度を極力落とさずに下街の上層へと向かう形だ。
迷路のような下街においてのみ、ルート指定がない。規定の出口から外縁に脱出すれば、どのようなルートを通っても良いことになっている。ルート選定が肝になる。
脱出した外縁を直線的に滑り降り、そこで第二チェック、再びの交代。
第一チェックポイントで飛びきった選手は休むことなく、こっちまで移動して待機しなければならないなかなかハードなリレーである。もちろん、相方がゴールするまでに辿り着けなければ、その場で待ちぼうけだ。
ほとんど麓まで降りてきた第三区間はジャララ大森林からのスタートになる。
第三区間の特別ルールとして、木々の上に出てはいけないという、飛翔高度の制限がある。ひしめく大森林の木々を避けつつ、山を螺旋状のガイドに従い改めて登らなければならない。
六合目、森林が途切れて現れるジャイダの入口にて、第三チェックポイント。
第四区間は激しい争いが予想された。
ゴールに加え、特別ポイントが二箇所も設定されている。全て一番最初に通過すれば、そのまま優勝も見える。
まずはジャイダの入口から下街へと侵入する。
先と同様に複雑な迷路となっているが、ここに関してはガイドロープが設置されているようだ。それに従い、上街へ向かう。
上街に入ると低層にある星駆管理組合へと進路を切る。上街の商店街と呼称して良いのか、その辺りにはみなが買い物に訪れ、数多の店舗が並んでいる。
つまり、大人数が行き交うことの可能な大通りがある。
ここでシティスプリントポイント。複雑なコーナーの数々を真っ先に抜けた者がポイントを得る。運営側の想定として、もつれるようにして大通りへと雪崩込み、横一線になってシティスプリントポイントを競るというものがあるに違いない。
ここなら観客が生でレースを観戦するのに事欠かないので、力を入れるポイントになるだろう。
そして、すぐさまライジングポイントが迫る。
大通りを抜けて、街の反対側に出ると、山肌に沿っての急登がある。スプリントで大量の魔法力を使用した直後に急上昇を行うのはかなりキツい。
外装なら魔法力の問題は解消されるが、直登を行うことが得意な外装は存在しない。基本的に浮力は自らの魔法力で生むのが主流だからだと聞いている。そして角度をつけて飛翔することで、少しずつ高度を得ることに慣れている。
姿勢制御を上手くやれば真上へブースターを噴かすことも可能だが、非常に重い消費が推測された。重量のある外装をブースターの力のみで持ち上げる手法はメーカー保証外だ。
山肌を登りきったところでライジングポイントが得られる。ゴールを捨てて、ライジングポイントを狙うのであれば、消費を気にしない可能性はある。
ライジングポイントの先は再び上街に戻るルート。しかし、今度は高層の糸路を行く。
つづら折りになった糸路を登って行き、最後は鐘楼の前にゴールラインが設定されている。ゴールの勢いをパンチでもキックでも鐘にぶつけてもいいとかなんとかで、鐘が鳴ったらレースとは別口でお祝いしてくれるそうだ。
リパゼルカとベベルはレースの全容を把握し、差し当たってスタートはベベルが切ることで合意した。
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