フェン

共和国に帰ると共に受付嬢の所に行き、北の盗賊の討伐依頼完了の報告を済ませた。

「依頼お疲れ様でした!」

「ああ」

「そういえばヒルさん。最初来た時と雰囲気変わりましたね!何かありましたか?」

確かに雰囲気は変わったと俺は思う。ただ進化をしすぎたせいか雰囲気よりも身体が大きくなったため雰囲気が変わったと表現したのではないかと俺は感じた。


「気のせいじゃないか?」

「そうですか〜」

「あ、そうだ。今日から少し依頼を休ませてもらうよ」

「わかりました!たくさん休んで元気になってから来てくださいね」

俺は受付嬢に手をヒラヒラ振りながらギルドを出た。


俺はそれから共和国から出て南の町の近くにある森へと歩みを進めた。


最近は俺たちに絡んでくる冒険者もいなくなったため快適に過ごすことができる。


しかし、俺たちが森へ着くと大量のアンデッドが俺たちを待ち構えていた。

俺たちに近い所には普通のアンデッドがおり、その奥には騎士の格好をしたアンデッドがいる。


「グゥアアアア」

1番近くのアンデッドが襲いかかってきた。

バン

パンチしてそのアンデッドを吹き飛ばす。

しかし、その後につられた様に次々とアンデッドが動き出した。


「グァアアアア」

「ウアアアア」

周りのアンデッドが俺を襲われる。

『やるか』

“パチン”

騎士たちの後ろから手を叩く音が聞こえた。

スタスタスタスタスタスタスタスタ


そしてアンデッドの騎士の間を抜けてネクロが来た。

「主様。お待ちしておりました」

「久しぶりだな。準備はできたか?」

「はい。幹部クラスが10体、騎士が300体、アンデッドが500体です」

 

『まずいな』


帝国は一般兵士が5000人いるらしく、それとは別に幹部がいるとためこれだと圧倒的な戦力差となる。


「それと主様が暮された村にいま帝国軍の兵士、100名がいるとの報告を受けましたので幹部の実力をぜひとも主様にお見せしたいと思うのですがよろしいですか?」


「いいぞ」

「ありがとうございます。フェン」

「クゥン」

フェンと呼ばれたアンデッドはネクロの声と共に俺たちの前に出てきた。

その容姿はケルみたいな犬でたくさん進化をしたからなのだろう。

毛がモフモフしている。


「グルルルルル」

それに対してケルが威嚇しているがフェンは全く相手してない様子で凛とした立ち振る舞いをしている。


「主様。フェンの上にお乗りください」

俺はフェンの上に座る。もふもふで気持ちがいい。


「ガァルルルルル」

ケルがフェンに対して怒り狂った様に威嚇をしている。がフェンは全く相手にしない。


「では主様。後は私にお任せください」

『え?フェンって話せるの?』


「ああ。頼んだぞ」

「任せてください。おい、そこの犬っころうるさいぞ」

「ああん?お前、主様に乗られたことでいい気になるんじゃねぇぞ」


え?お?ん?

ケルとフェンの会話が聞こえる。

「ケルお前話せたのか?」

「はい!最近よく脳みそを食べていたら話せるようになりました。ただいつ話そうかすごく迷っていたのです」


「そうかそうか良かった良かった。じゃあお留守番頼んだぞ!」

「わかりました⤵︎」

ケルがシュンとした顔で返事をしたが今回は幹部の実力を見るためなのでケルとバルには留守番をしてもらう。

俺はフェンの上で仰向けになり村に向かった。


たまに考えることがある。

人間とアンデッドのどちらが強いのかと。

アンデッドの良い所は多少の怪我をしても戦えるということだ。

アンデッドは左手が無くなろうと右足が無くなろうと首さえ斬られなければ戦うことができる。


ただ人間の様に自分で考えて行動することができないため、戦術を使うことができない。


しかし、ネクロやケル、バルの様に一定以上の人間を使って作られた人間もしくは人間の脳みそをたくさん食べたアンデッドは知性が身につけて自分で考えて戦うことができるためアンデッドの方が有利だと個人的に思う。


進化をしても肉しか食べていないアンデッドは身体能力的には強くなるが組織的に戦うことを苦手とするため複数の人間との戦いでは苦戦を強いられる。


しかし幹部たちを増やすことができるのであれば最強の軍隊を作れるのではないか?

そんなことを考えていると村についた。

フェンは魔力を使わずに2時間ほどで着いてしまった。

「フェンお疲れ様」

俺はフェンにねぎらいの言葉をかけて頭を撫でる。

「ありがとうございます主様!寝やすかったですか?」

「もちろん。ベッドよりもフワフワで寝やすかったぞ」


フェンを降りると俺たちは息を潜めて村があった場所を観察する。

「おーい。はやくしろ」

「帰るぞ」

「こっちを手伝ってくれ」

そこには報告通り100人ほどいる兵士が野営の撤去作業をしている。


魔力だけで判断すると1人だけ周りと明らかに違う魔力を有する人間がいる。


ただ今回はフェンがどれだけ使えるかを確認するためなので俺は一切口出しをしない。


「主様、もう行ってもよろしいですか?」

「ああ、良いぞ」

「では」

タッタッタッタッタッタッ


言葉を残しフェンは森の影へと消えていった。



僕はフェン。ネクロ様の配下だワン。

あのケルとか言う犬っころに負けてはならないワン。


いま目の前に大量のご馳走がある。

ボタボタボタボタ

『うわっ』

大量の涎が落ちてきた。

「なんだ。誰かそこにいるのか?」

兵士達が複数人近づいてくる。


『や、やばい。バレてしまう』

ここは兵士にバレない様に小さくなろう。


ガサガサガサガサガサガサ

「なんだ。キツネか」

「かわいいなおまえ」

「ンン」

首を横に振り

「ワン」

「なんだお前キツネではなく犬なのか」

どうやら伝わったようだ。

そう言われて僕は抱き抱えられていった。


フェンが小さくなって兵士に抱き抱えられていった。

『さて、どうするか』

まぁ時間はあるから気長に待っておくとしよう。

俺は兵士たちが帰るまで寝ることにした。


ガタガタガタガタ

兵士たちの鎧が動く音がする。

さっきまでは散らばっていたから分からなかったが100人は結構多いと感じる。


『ようやくか』

俺はフェンの魔力が放たれているを見るとそこには何かをたくさん食べて満足そうな顔をした犬もといフェンが寝ていた。


「はぁ」

結局のところ、幹部がどれくらい使えるのかわからないままで終わりそうだ。

俺は兵士たちがこの場所を離れたのを確認してフェンの所に向かった。


「フェン」

「あ、主様」

フェンの顔からワクワクした感情が伝わってくる。

「何を食べたの?」

「沢山のお肉を食べました」

満面の笑みで言った。

「そうか。で、お前が人間から可愛がられることはわかったが実力はわからなかったな」

「す、すみません」

シュンとした顔で俺を見た。


「怒ってないよ」

なでなで

俺はフェンの頭を撫でた。

俺が行こうとするとフェンが質問してきた。

「主様。どこに行かれるのですか?」

「後始末をするだけだよ」

「後始末?はっ、まさかあの人間たちを殺すと言うのですか?」

フェンが鋭い剣幕で睨みつけてくる。


「もちろん」

フェンが元の姿に戻り、魔力を大量の魔力で圧力をかけてくる。

「なぜそこまでして帝国を憎んでいらっしゃるのですか?」

フェンには言ってなかったか。

「それは帝国軍が王国を滅ぼして村を襲ったからだ」

「帝国軍が王国を滅ぼした?」

フェンは俺から出た言葉に戸惑っている様に話した。


「そうだ。俺が生前に住んでいた地域は帝国に攻められたのだ」

フェンは困惑した様でこの様なことを聞いてきた。

「それは本当のことですか?」

「そうだとも。何を言っているのだフェン」

「いえ、王国は滅んでいません。むしろ帝国と共和国そして大陸外国の敵として今はあります」


どういうことだ?王国が滅んでいないだと。

俺は確かに王国がある方から帝国軍の兵士たちが進軍してきたことを覚えている。


「主様。それでは王国が滅んでいないということを確認しに行きませんか?」

「そうだな」

と俺が言うとフェンは魔力を収めた。

俺はフェンの背中に乗りながら王国がある方向へと向かっている。

て言うことはなんだ。俺たちの村は王国に見捨てられたのか?

そう思うと必然的に憎悪が込み上げてきた。


「フェン。さきほどは殺気を出して悪かったな」

「良いですよ〜。主様でも知らないことがあるのですね」

「ああ。でも俺は本当に王国が滅んだと今でも思っているからな」

「まだ見てないからですよ。それと王国に近づくと魔力が抑制されるので気をつけてください♪」

「わかった」


フェンはいつも通りテンションが高めでルンルンに歩いている。


少しすると魔力が制限されたように感じる。これは確か南の盗賊団を討伐しにいった時に感じたものとよく似ている。


「フェン。俺をここで降ろしてくれ」

「わかりました〜」

俺はフェンから降りる。

俺は機械がある方向を調べようとするが魔力が制限されているため力を使うことができない。


なので仕方なく徒歩で探すことにした。

しばらく歩くと街が出てきたので俺は入ることにした。


街の中には商売をしている商人と数多くの人たちがいた。またしばらく歩くと柱の頭頂部に緑色の光を放つ機械があった。

『あの町にあったものと同じだな』


その後も街を探索すると数多くの機械を発見した。俺は街から外れて森の中を歩いて王国を目指すことにしたがまだ制限がかかっているので森の中も探索することにした。


「主様。あっちから人間の匂いがします」

フェンがこの森の中に人間がいると言う情報を教えてくれた。しかし、なんでこんな山奥に人間がいるのだろうか?


『まぁ答えは1つだろうがな』

俺はフェンが言った方向に歩く。


「いたな」

「ですね♪」

そこには開けた場所と2種類の人間たちと緑色の光を放つ機械があった。


2種類の人間とは盗賊団と王国軍の兵士である。

これで王国が滅んでいないと言う証拠はもう上がった。

それとなんでこんなにも王国に商人が多いのかもわかった。


「全員殺すか?」

「もちろんそうしましょうよ。主様」

フェンもヤル気満々だ。

「ニード」

俺は4つある機械全てを壊した。すると魔力の制限が解除されたと同時に大量の人間がこちらを凝視している。

「開戦だ」


俺の声と同時にスイフトを使った俺とフェンが敵に突っ込む。

ドォォゴゴオオオオン

王国軍の兵士と盗賊たちが宙に舞う。

「ウヒャッヒャッヒャッヒャッ。ヒャッハー」

フェンが奇声を上げながら宙に舞う人間たちを切り刻んでいく。


ドンドンドゴォンドンドンバンバン

それに引き換え俺は静かに地面にいる人間たちを殴っていく。

殴られた人間はその部分が弾け飛び即死。

「なんなんだよこいつら」

「このでかい犬と仮面の人間強すぎるだろ」

「おい、すぐに応援を呼んでこい」


2人兵士が王国の方へ走っていったが応援が来る分にはなんの問題もない。


バキバキドゴォンドンドゴォンドン

ザクッザクッザクッザクッザクッザクッ

王国の兵士は俺たちが近接戦しかしてないことに気づき遠距離から魔法を放ってくる。

「フ、ファイア」

パスッ

片手で魔法を消す。

「そんな弱い魔法が効くとでも?」

「そ、そんな化け物が」

「アイス」「ファイア」「ファイア」「ファイア」

複数人が一斉に魔法を放ってくる。

『面倒だな』

範囲攻撃魔法を使うか。

「メテオ」

そう唱えると岩石が大量に兵士たちに降り注いだ。

ブチブチブチブチブチ

グチャッグチャッグチャッ

兵士たちが岩石の下敷きになる。

「うぁああああ..」ブチ

「死にたくない死にたく..」グチャッ

「化けも..」グチャッ


さっきまでうるさかった森に静けさが戻った。

「全部やったな」

「はい!余裕でしたね〜」

「そうだ。援軍が来るみたいだからそれまで腹ごしらえしといて」

「わかりました!!」

俺は岩石を消してフェンに食い場を譲る。


「フェン!敵が来たら教えてくれ」

「了解ですぅ〜」

俺は茂みにある死体を食べる。久しぶりに心臓以外の食事をする。

バキバキバキバキバキバキバキバキ

グチャグチャグチャグチャグチャ


脳みそも久しぶりに食べる。

今まではアンデッドの脳みそしか食べたことがなく新鮮な脳みそを食べたのは初めてかもしれない。


この脳みその持ち主だった者の記憶が俺の中に入ってくる。

『まさか。そんなことが』

俺は今まで復讐の相手はフィマン帝国だと思っていたがどうやら本当の相手はガルド王国だったようだ。


ただなんでライト村が襲われたのかはこの記憶の持ち主は知っていなかった。

その後も死体を食べ漁ったが決定的な決め手となる記憶はなかった。

ただここにいる兵士や盗賊の記憶には帝国が村を滅ぼしたのではなく王国が村を滅ぼしたと全員がわかっている。


「ああ、あああああ、ああああああああああああああああああああああ」

今まで溜めていた感情が声に出る。

この声に驚いたのかそれとも俺の魔力が急激に高まったために驚いたのかは見当がつかないがフェンが真っ直ぐこちらを向いてきた。


俺は手を振り大丈夫だと伝えて寝ることにした。

『それにしても戦ってる時のフェンはちょっと怖かったな』

思い出しただけで少しだけ口角が上がったような気がした。

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