北の盗賊

『今回も上出来だったな』

俺の元には商人や冒険者から奪った大量の食料と武器がある。


「ボス。今回も上手くいきましたね」

「だろ!任せとけって」

また大量の金が手に入る。だから盗賊はやめられねぇよな。


「ボス。またこちらに来ている冒険者がいるとのことです」

「そうか。じゃあいつも通りにやるか」

「えへへへへ。わかりました」

そう言うとシルトが部屋から出て行った。


俺たちは冒険者を狩る準備をした。

戦い方としては俺たち全員で相手を襲う。

そのため圧倒的な戦力差の前に戦意を喪失させて一方的に殺すことができる。


「準備できたか」

「もちろんです」

「冒険者の人数は?」

「2人と犬が1匹です」

2人と犬が1匹?随分と少ないな。

いつもは冒険者が8人と商人が2人みたいな組み合わせだからこちとら30人くらいで襲うがまぁいいか。


全員でやった方が楽だろ。


「全員でやるぞ!血祭りだ」

「わかりました」

そう言うとシルトは部屋から出て行った。

シルトは主に指揮が得意で巧みな戦術を使って相手を翻弄している。

まぁ今回は出番がないと思うが。


俺たちは街を少し出た所で待ち伏せをしている。


すると前方から犬と冒険者がやってきた。

「あれか?」ボソッ

「あれです」ボソッ


仮面を被った冒険者は随分とボロボロの服を着ている。

それと引き換えに騎士の方は高級そうな鎧を着ているな。


それに犬は随分と筋肉質で普通の犬より少しデカいがまぁ気にする必要はないか。


「当たりだな」

「そうですね。あの鎧、高く売れますよ」


「いまだ」

俺たちは一斉に茂みからでて奴らの前に姿を現した。

『我らを恐るがいい。そして跪け』


相手の様子を伺うが全く動じた様子はない。

へへへ

すぐにその化けの皮を剥いでやる。


「行け!」

会津と共にシルト含めて10人で切りにかかる。


いくら冒険者だからと言ってこの人数は無理だろう。

シャキン

と剣で切った音と共に

ドタドタドタドタドタドタドタドタ

「雑魚が…なぜだぁ?」


しかし、倒されてのはシルトたちだった。

「貴様!!何をした?」


「答えると思うか」

そう言い仮面の男が左手に持った何かを食べ始めた。

グチャグチャグチャ

「美味しい」


ボソッとだが美味しいと聞こえた。俺は左手にあるものが何かを確認すると

「え、心臓?」

真っ赤な心臓をその仮面の男が食べている。

それに犬もシルトたちの死体を漁り始めた。


「おお前らは冒険者じゃないのか?」

俺はこの得体の知れない者たちに問う。


「フハハハハハハ」

「ながおかしい?」

「いやいや。冒険証でも見せて欲しいのか?

そんなことを聞いているのではないだろう」

「何が言いたい?」

「この仮面の下の顔が知りたいのだろうと言うことだ」

そう言うと仮面を外したが、仮面の下は眼帯をしている普通の青年だった。


『なんだ。普通の人か。』

しかし、男は逆に違和感を覚える。

『なぜ普通の人間が心臓を食べていたのか。それにあの強さは何から来ているものなのか』

俺は考えたが答えが出なかった。


ただもう一つの疑問が芽生えた。

あの眼帯の下はどうなっているのか。


「その眼帯も外せないのか」

すると青年は眼帯を外した。その瞬間見えたものは

「うああああああああああ」

目があるはずの部分には何もなくただただ

空洞があった。


『目がない』

目がない人間なんてこの世にいるのか。なんで目の中が空洞なんだ。


俺は考えたが答えが出なかった。目の空洞を除けば外見は人間でありモンスターとは全然違う。それにアンデッドのような自我のない生物ということもなく、会話もできている。


こいつはなんなんだ。

「もう聞きたいことはないか?」

青年が話しかけてくる。

「ああ」

俺は疑問に思ったことを聞いてみた。


「なんで俺たちに仮面の下を見せた?」

「それは、まぁお前たちがここから生きて帰ることはないから見せただけだけど」


『なんだと』

まだこんなにも人数差があるのに

「俺たちはあと50人いるんだぞ。それに引き換えお前たちは2人と1匹だ。それで何ができると思っている?」


「お前らなんか弱すぎる」

「なんだと!やっちまえ」

俺の合図と共に魔法で攻撃をする。


「フリーズ」

「フリーズ」

「アイス」

ドカーン


「口ほどにもないわ」

「へへへ。雑魚が」


嫌な予感がすると俺の本能が言っている。

「ボス帰りかえりましょう」

「まだだ」

「え?」

「まだ終わってないぞ」

「何言ってるんですかボス。あの攻撃をもろ喰らったら生きてませんよ」


その言葉を部下が言い終わるか終わらないかのところで土埃の中から声が聞こえた。

「俺たちがなんだって」


奴らの周りから埃が無くなり視界がクリアになると無傷の2人と1匹が姿を現した。

「うそ!」

「無傷だと」

「そんなバカな」


やっぱり奴らは強い。

俺は剣を持ち青年に襲い掛かる。


「やぁっ!」

カキン

しかし攻撃を流されてしまう、

カキンカキンカキンカキンカキン

全然青年には攻撃が届かない。

ならば

「ナパーム」剣での攻撃を弾かれたと同時に超至近距離から魔法を放った。


ナパームはファイアの上位互換で至近距離からだと絶大な威力を発揮する。

辺りには煙が立ち込める。

「どうだ!」


「ナパームには誰も対応できませんよ」

「余裕でしたね」

「雑魚が!ボスの力を見たか!!」

しなし、視界が晴れるとそこには無傷の青年が立っていた。


「スイフト」

青年はボソッとつぶやいたあと恐ろしく速いスピードで次々と仲間の首を斬り落として行く。


「うわーーー」ザシュ

「や、やめてくれころ」スパッ

「くそー」サクッ


この生物はなんなんだよ。仲間が次々と殺られていく。

ただ俺では全くあいつの姿を見つけることができない。


『ならば、先ほどから動いていないあの騎士を殺してやる』

「やぁー」

俺は騎士に斬りかかる。

カキンカキンカキンカキンカキンカキンカキンカキンカキンカキンカキンカキンカキンカキン


俺がいくら攻撃してもこの騎士には全く届かない。

『なんだよ。こいつも強いのかよ』


「ナパーム」


「グウォォォォォ」

騎士から人間とは思えないほどの声が出たと同時に騎士の鎧が傷ついた。

『これならやれるぞ!』


俺は接近するために近接戦に持ち込む。

カキンカキンカキン

『まだ防ぐのかよ。だかお前の弱点はもうわかってる』

「ナパーム」

「ウォーター」

しかし、騎士は水の魔法を繰り出しナパームの攻撃を打ち消した。


『なんだよ。魔法使うのか』

タッタッタッ

騎士との距離をとるために後ろに下がる。


「スイフト」

ザシュッ

『なんだと』

空けたはずの距離をいつの間にか詰められ斬られた。


『くそったれ』

「ヒール」

俺は回復魔法で斬られた傷を癒す。


サクッサクッ

「いたっ」

左肩と右太ももに痛みを感じたので確認してみると針のようなものが刺さっていた。


ブチッブチッカランカラン

俺は針のようなものを引き抜き捨てた。

『なんだよこれ』


「こっちは終わったよ」

「クゥン」

この声の主を想像するだけで冷や汗が出てきた。

俺は恐る恐る声がした方を振り向くとそこにはあいつと犬がいた。


なんだこの状況は。考えただけで頭が痛くなる。それよりも俺の仲間を全員倒したとでも言うのか。

そんなことがあって良いはずがない。

俺たちは今は盗賊だが前まではギルドでゴールドやプラチナだった奴らがうじゃうじゃいるのだ。


そんな簡単に負けるはずがない。それに俺は元ダイヤだぞ。


こんな奴らに負けるはずがない。

「俺の仲間から逃げてきたのか?」

俺はあいつに聞いてみた。

「はははは。何言ってんの?」

なんだこの毅然とした態度は。何故笑っている?

「何がだ?」

「皆殺しにしたに決まっているだろ」

「はは。そんな冗談は信じないぜ」

「信じなくていいよ。どうせお前も死ぬんだし」

はぁ!?なんだよこいつ。

「舐めてんのか。このガルド様を!」

「舐めてないよ。事実だし」

「わかった。お前だけは命乞いしても絶対に殺す」

「嘘をつくな。全員殺す気のくせに」


『殺す』

はぁ!

俺は斬りかかる。


カキン..グサッ..カキン..グサッ

押されている。この俺様がこいつに…こんなやつに押されているだと。


カキン..サクッ

左手が斬られた。

なんだこいつはなんで俺はこんなやつに押されているんだ。


『こうなったら』

俺はポケットに入れていた小瓶を取り出して飲む。

ゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクプハッ


「えへへへへへ。力が漲ってくるぜ」

ブチブチブチブチブチブチブチ血管が切れた様な音と共に身体が少し大きくなった様に感じる。

ビリビリビリビリビリビリ

洋服が破れ始めた。


「グワーーーー」

俺は絶大な力を手に入れた。溢れんばかりの魔力が身体中から漏れ出している。


「こいつ美味そうだな」

「へ?」

「クゥン」

「そうですね主!」

『え?今こいつなんて言った?美味そうだと』

ふざぁぁけるなよぉぉー

俺の左手も元に戻ったことだし

「死ね!」


ドン..サクッ

俺はあいつを叩き潰したはずだった。

「うぁああああ」

いつの間にか俺は両手首から先を切られていた。


再生

俺は両手首を元に戻した。

『ふざけるなふざけるなふざけるな』

「死ね」

スパッン


コロコロコロコロ

目の前がグルグルしている。

あれ、いま俺の目の前には筋肉がモリモリの首から上が無い身体が立っていた。


『なんだこれは..どうなっているんだ』

首から上が無い身体から大量の血飛沫が舞う。

あれば俺の身体。

『俺は死んだ..ああああああああああああああああああああ』

バッと目の前が真っ暗になった。


くちゃくちゃくちゃくちゃくちゃ

盗賊がいた街には最後の居住者であった盗賊たちも居なくなり廃墟となった。


「グァアアアア」

廃墟となった街に男の叫び声が響き渡る。

「ハアハアハアハアハア」

「久しぶりの進化だ」

「グゥゥウ」

その男の隣には先ほどの面影がないほど筋肉質で大きくなった犬と鎧が何でできているかは分からないが物凄くカッコいい騎士がいた。


「戻るか」

「はい」

「ガウ」

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