第9話 九
そこで慌てて探し始めた私でしたが、いくら探しても見つけることが出来ずにいた為、一旦部屋へ戻ることにしたのですが、
その時、あることに気がついた私は、ふと立ち止まりました。
それは、彼女が愛用している白いワンピースが落ちていたことで、その側に手紙が添えられていたので、読んでみると、
――少し気分が悪くなったので、先に部屋に戻らせていただきます。心配しないでください。
と書かれていたので、きっと、疲れが溜まっていたのだろうと考えました。
なので、今日は早めに休ませようと思っていた矢先、部屋の扉が開き、そこから出てきたのは、彼女ではなく、メイドさんでした。
そして、その口から告げられた内容を聞いて、私は衝撃を受けることになり、しばらくの間、呆然としたまま動けなくなってしまいました。
何故なら、私が思っていた以上に、体調が悪化していたからで、今は自室で安静にしているため、
会いに行くのであれば、すぐに行くべきだと言われたからです。
だから、私は急いで着替えると、すぐに部屋を出て、足早に歩き始めました。
そして、たどり着いた先で目にしたのは、ベッドの上で横になっている姿でした。
そんな彼女に近づき、声をかけようとした私だったけれど、何故か言葉が出てこなかったの。
だから、ひとまず深呼吸してから、改めて呼びかけてみた。
すると、反応があったので、ホッと胸を撫で下ろしたけれど、その直後、突然、抱きつかれてしまった。
しかも、かなり強く抱きしめられてしまったせいで、息苦しくなってしまい、おもわず咳き込んでしまった私。
でも、それでも離そうとはしてくれなくて、しばらくされるがままになっていたの。
しばらくして、ようやく落ち着いたらしく、私から離れて、謝ってきたので、気にしていないことを伝えると、
今度は逆に、こちらから話しかけてみる。
「具合が悪いのに、無理させちゃってごめんなさいね」
そう言うと、彼女は首を横に振った後、こう答えてきた。
「いえ、むしろ、来てくださって嬉しかったですよ。
だって、私は一人じゃありませんから。
こうして、いつもそばにいてくれる人がいますから、寂しくなんかないんです。
それに、こんなに素敵な旦那様にも出会えて、私は幸せ者だと思います」
それからも、私達は色々な話をしたわ。
もちろんその中には、お互いの家族の話もあったのだけれど、その話の中で一番盛り上がったのは、
やはり子供の話題だったわね。
でも、その時に一つだけ気になることがあったので、聞いてみることにしたの。
その疑問というのは、子供が出来たと知った時、どうしてすぐ私に打ち明けてくれなかったのかというもので、
そのことについて訊ねてみると、彼は気まずそうな顔をしながらも教えてくれたわ。
その理由というのが、子供が出来たことを知れば、おそらくは命を狙われる可能性があるからだと言われて、
その可能性については私にも心当たりがあったため、納得せざるを得なかった。
だからこそ、子供が生まれた後は、極力外出を控えるようにしていたんだけど、ある時、彼が公務で忙しいから、
代わりに子供を見に行ってくれないか、という話をされたことがあったの。
正直、乗り気ではなかったのだけど、彼から頼まれては断ることも出来ず、渋々と承諾することにしたの。
そして、当日、子供を連れて街へやってきた私は、早速、その子と一緒に買い物を楽しんでいたのよ。
ただ、子供を連れていると、どうしても目立ってしまうようで、周囲から好奇の目で見られていることに気づいて、
内心では居心地の悪さを感じていた私だったけど、そんなことはおくびにも出さずに、笑顔を崩さないように心掛けていた。
だが、それでも限界というものがあって、とうとう我慢出来なくなった私は、
近くの喫茶店に入って休憩を取ることにしたので、店員に案内されて席に着くと、すぐに注文を済ませた。
それから数分ほどで飲み物が運ばれてきて、それを口にしながら、一息ついていた私だったけど、
そこで彼を見かけると見つからないようにしているも、彼に見つかってしまい、彼と共にお茶をすることになる。
「こんにちは、聖羅」
笑顔で話しかけられた私は、挨拶を返しながら席につく。
すると彼は嬉しそうに話しかけてきたので、話を聞いているうちに段々と楽しくなってしまって
笑顔になる私と彼もまた笑顔を見せながら会話を続けていた。
しばらくすると彼は思い出したように話を切り出すと、こんなことを提案してきたのだった。
「実は最近、巷では奇妙な病が流行っているらしいのです。なんでも感染力が高くて、
人から人へとどんどん広がっていっていて、このままだと大変なことになるそうです。
ですから、一度診療所へ行った方がいいかもしれませんよ?」
その話を聞いた私は、彼の気遣いに対して嬉しく思いながらも、その申し出を受けることなく断ったの。
だって、彼の話を疑ってしまったからというわけではなく、単純に医者嫌いだっただけなのよね。
なぜなら、過去に何度も嫌な思いをさせられていたものだから、出来ることなら二度と行きたくないと考えていたほどなのだから。
しかし、私の考えとは裏腹に彼は引き下がろうとせず、しつこく勧めてくるため、
ついに根負けしてしまった結果、仕方なく行ってみることにしました。
……まぁ、どうせ風邪かなにかだろうと思っていたら案の定、ただの風邪だったみたいで、
症状が軽く済んだこともあって、大事には至らなかったみたい。
でも、せっかくお見舞いに来てくれたというのに、ろくに相手をしてあげられなかったのは少し申し訳なかったかもしれない。
(後日、謝罪の言葉とともにお礼の手紙を送ると、彼だけでなく、他の子達からも色々と返事をもらえて、ちょっと恥ずかしかったかな)
それから数日後、今度は子供達がやってきたかと思えば、手料理を作ってきてくれたみたいなの。
それも、どれも手が込んでいて、とても美味しかったので、あっという間に平らげてしまいました。
そんな時に彼が来てくれて、こう言われます。
「聖羅、キスしようか」
最初は何を言っているのか理解できませんでしたけど、すぐに理解すると同時に顔を赤くしちゃいましたね。
それで戸惑っている私を見て彼は優しく微笑んでくれたかと思うと、顔を近づけてきました。
私は目を閉じて待っていましたけれど、なかなか触れてこないので目を開けてみると、
そこに映ったものは、目を閉じた彼の顔で、そこでキスをされるのだと悟ったのですが、
いざされると頭が真っ白になってしまいましたね。
その後のことはあまり覚えていませんが、気がついた時には自室のベッドで寝ていて、
あれは夢だったのだと気づきましたが、妙にリアルな感覚だったので今でも鮮明に思い出せてしまいます。
それだけではなく、あの時の感触までも思い出すことができるんですよね……。
それほどまでに強烈なものだったようです。
「あぁ~、もうっ! なんであんなこと言っちゃうかなぁ!? 絶対引かれたじゃん!」
などと、
「はぁ……」
とため息をつきながらも後悔の念に駆られていると、突然扉がノックされ、返事を待たずして扉が開かれたことに驚きつつも振り返ると、
そこには見知った顔があったので、思わず安堵のため息を漏らしてしまう私だったが、そんな様子を見ていた彼女は笑みを浮かべながら問いかけてきた。
「あら、どうしたの? 何か悩み事でもあるのかしら?」
そう問いかける彼女に答えるべく口を開きかけたのだが、ふと我に返ると慌てて口を噤んでしまった。
というのも、ここで素直に打ち明けてしまえば、からかわれることは目に見えていたからである。
だから、なんとか誤魔化そうと試みることにしたのはいいものの、何を話せばいいのかわからずにいると、
彼女の方から話しかけてきて、
「もしかして、彼と喧嘩でもしたのかしら?」
そう言われた瞬間、ビクッと肩を震わせてしまった私を見た彼女はニヤリと笑みを浮かべると、さらに続けてこう言った。
「……どうやら図星みたいね。その様子だと、かなり深刻なようだけど、もしよかったら相談に乗ってあげましょうか?」
その言葉を聞いた瞬間、彼女の目を見つめながら考えていた私は、やがて意を決すると、ゆっくりと頷いてみせたのだった。
(――えっ!? 本当にいいの!? いや、もちろん冗談で言ったつもりだったんだけど、
まさかここまですんなり受け入れてくれるとは思いもしなかったわ。てっきり断られると思っていたのに、
あっさりと了承してくれるなんて思わなかったけれど、これはこれで都合がいいのかもしれないわね)
「相談お願いします!」
私はそう言って頭を下げると、すぐに彼女が口を開いた。
その内容は、要約すればこういうことだそうで、
・何故、喧嘩しているのか?
「聖羅、どうして貴方の愛する彼と喧嘩しているの?」
いきなりそんなことを言われてしまい、一瞬言葉に詰まってしまったものの、すぐに気を取り直して返事をすることにした。
だって、このまま黙っていても何も解決しないと思ったから。
だから、まずは誤解を解くことから始めようとしたのだけれど、私が口を開くよりも先に相手が言葉を発したことで遮られてしまい、
さらには質問をされてしまったせいで余計に混乱してしまうことになってしまったのです。
それでもどうにか落ち着きを取り戻すことに成功した私は、一呼吸置いた後、改めて話し始めた。
そして、全てを話し終えたところで、彼女はこんなことを言い始めたのである。
それはまるで私を試すかのような言葉だったが、その真意を測りかねていた私には、
それがどういう意味なのか理解することができずにいたのだけど、その直後、突然、抱きしめられてしまって驚くことになる。
しかも、何故か頭を撫でられているうえに、耳元で囁かれたことによって顔が赤くなってしまうほどの羞恥心に苛まれることになってしまう。
なので、何とか離れようともがいてみるも、ビクともしないばかりか、逆に強く抱きしめ返されてしまった挙句、
身動きが取れなくなってしまったことで焦りを覚えてしまう私だったけれど、それでも必死に抵抗を続けた結果、
ようやく解放されることが出来たのでホッと胸を撫で下ろしつつ、再び彼女の顔を見ると、そこには笑顔を浮かべる彼女の姿があった。
それを見て安心したのか、緊張の糸が切れた私はその場に座り込んでしまうことになったが、
そんな彼女に手を差し伸べられながら言われた言葉を聞いて、おもわず首を傾げてしまう。
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