第8話 八
何故ならまだ決めかねているから……。
だって私は……彼のことが好きなんだもの!
でも、このままズルズルと関係を続けるわけにはいかないわよね?
だから、今日、彼の想いを受け入れるかどうか、きちんと伝えることにしたの。
でも、いざとなると緊張してしまって、上手く伝えられるか心配だけど、やるしかないわ。
気合を入れて臨んだ私だったけれど、彼は私の予想を遥かに上回る発言をしてきてしまったの。
その内容というのが、結婚を前提に付き合って欲しい、というものだったの。
正直、驚いてしまったわ。
どうして私なんかが、とも思ったし、どうしてそんなに想ってくれるの、と、訊きたくなったけれど、
まずは落ち着いて考えてみると、今までの言動を思い出した結果、納得できる点がいくつもあったから、
きっとそういうことだったんだろうな、と思うと、自然と受け入れることが出来ていた。
だからこそ、今度は彼が真剣に伝えてきた言葉に対し、私なりの誠意を示すために、 はっきりとした口調で言う。
―――はい、喜んで! こうして私達は恋人同士になったの。
それからというもの、デートを重ねていく中で、 彼からプレゼントをもらう機会が増えたのだけれど、
その中でも特に、指輪をもらった時は、本当に感動したわ。
それを見た彼が、婚約の証として贈ったものだと聞いて、ますます嬉しく感じたもの。
もちろん、今も身に着けていて、大切に保管してあるの。
もちろん、普段から肌身離さずに持ち歩いているわけで、 デートの時にはいつも指に嵌めているため、
すっかり馴染みのものとなっている。
でも、時々、彼がいない時に眺めるのが好きだったりするの。
まるで、彼の温もりを感じられているような気がしてしまうから。
でも、さすがに外に持ち出すことはないから、安心してほしい。
そんなことをしたら、誰かに盗まれてしまうかもしれないから。
それだけは絶対に嫌だったから、気をつけないといけないと思っている。
それと、もう一つだけ付け加えておくことがある。
実は、私は今、妊娠しています。
つまり、彼の子供を授かっているということなの。
その事実を知ったのは、つい最近のことで、 彼がなかなか打ち明けてくれなかったものだから、
内心ではかなり不安になっていたの。
しかし、ようやく伝えてくれるようになったものの、彼が躊躇っていた理由は、
どうやら、私達の間に子供が出来ても、育てられる自信がなかったかららしい。
それも無理もない話で、彼の両親は既に他界しており親戚付き合いもなくて、兄弟がいるという話を聞かないため、
育て方を学べる人が誰もいなかったの。
そのため、彼は子供が出来たと知って、最初は戸惑っていたが、
それでも産んでほしい、と頼んできたので、私は承諾した。
そして現在、彼は毎日のように私に愛情を注いでくれています。
そればかりか、家事全般をこなしてくれ、更には公務もしっかりとこなしてくれ、
今では立派な国王陛下となり、民からも慕われる存在となっています。
私はそんな彼を誇らしく思いながらも、そんな彼と結ばれることが出来た幸せを噛み締めていました。
これから生まれてくる新しい命のためにも、もっと頑張らないと、と決意を新たにする私でした。
そんなある日、私は出産すると可愛らしい女の子で私にて、とても良い子で彼も喜んでくれるの。
ただ、その子には、私と彼との間に生まれた娘だということは秘密にしているの。
なぜなら、もしこの子の存在が公になれば、間違いなく命を狙われてしまうと思ったからよ。
だから、このことは誰にも知られないように、慎重に行動する必要があると考えたわけね。
その後、無事に産まれてから数ヶ月が経過した頃、私は、無事に退院することができ、家族三人で幸せな日々を過ごしていたの。
「お父様!」
小さな手で、懸命に彼の服を掴みながら、笑顔で話しかけてくる娘の姿を見ているだけで、
心が満たされていくのを感じていた私だったが、そこへ私の母が近づいてきて言った。
「あらあら、あなたったらデレデレしちゃって」
茶化すように言ってくる母に対して、言い返す彼だったが、その顔は満更でもない様子だったので、
微笑ましく思った私は思わず笑みをこぼしてしまったのだった。
そんなやりとりをしていると、娘が何かに気づいたようで、指をさしながら叫んだことで、
そちらへ視線を向けると、そこには一羽の鳥がいた。
それを見て、彼は嬉しそうにしていたが、次の瞬間、驚きの行動に出たため、私も母も目を丸くしてしまっていた。
というのも、なんと、その鳥に向かって、人差し指を差し出してきたの。
すると、その鳥が指先に乗り、そのまま空高く飛び立っていくのを見て、さらに驚愕してしまった私達だったけど、
その様子を見ていた彼は得意げな表情を浮かべていたのだった。
そんな様子を見ていた母は苦笑いしていたけれど、その表情からはどこか嬉しそうな様子が窺えた気がしたのだった。
「ねぇ、お母様」
「なぁに?」
「最近、お父様が変なんです」
「あら、そうなの? どんな風に変なのかしら」
「えっとですね、お外で遊んでいても、急に私を抱き上げたりしてきたりとかしてきますし、
この間なんて、一緒にお風呂に入ろうと言ってきたんですよ!?」
そう訴えかけるように話す娘に一瞬、固まってしまった私だったけれど、すぐに気を取り直して問いかけることにしたの。
「……そっ、それでどうしたのかしら?」
若干上ずってしまった声で質問を投げかけた私に対して、娘は淡々と答えた。
「それはもちろん断りましたよ」
「……えっ!? 断ったの!? あのような状況なのに!?
というか、そもそも何で断っちゃったのよ!? そこは普通に入るところでしょう!?
だって、相手はあなたの父親なのよ!? 」
(それにあなたはもう16歳なんだから、そろそろそういう経験をしてもいい年頃だと思うのよね)
などと思いながらも口にはしなかったのだが、彼女の心情を読み取ったかのように彼女は答える。
それがたとえ実の父親であっても、裸体を見られるのは恥ずかしいから嫌です、ときっぱり言われてしまい、
反論の余地もなかった私は、仕方なく諦めることにしました。
それから数日後のこと。
その日もいつものように庭で散歩をしていたのですが、ふと気がつくと、
いつの間にか隣にいたはずの彼女の姿が見当たらなくなっていたのです。
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