第7話 七
もちろん即答でOKしたのは言うまでもないことだが、どこに行きたいと訊かれた私は迷わず収穫祭と答えてしまう。
なぜなら、彼が前に好きだと言っていた場所だったためです。
それに、ここならば一緒に楽しめそうだと考えた末の選択でもあったわけで……。
ただ、それを聞いた時の彼の表情がどこか寂しげにも見えたのだが、
その理由がこの時はまだ理解できなかった私は気にせず話を進めていき、あっという間に当日を迎えたのだが、
朝早くから待ち合わせをした私達は、目的地へ向かって歩き始めたのです。
それから数時間ほど経ってから目的の場所に到着した私達が、屋台の料理を食べたり、演劇や音楽などのイベントを観て楽しんでいたその時、
事件が起きたのは唐突のことだった。
それは、殿下が飲み物を買ってきて戻ってきた時に、ちょうど女性とすれ違った際の出来事で、
その女性の髪飾りが壊れたことに気づいた私は、急いで拾おうとするとその女性が奪い取るようにして持っていってしまったのです。
それを目撃した殿下が、怒りに任せたまま走って追い掛けたところで彼女とぶつかり転ばせた後に立ち去ろうとしたので追いかけたところ、
人混みの中へと消えていったため、探し回ったあげくに見つけたのは路地裏だった。
そこでは、彼女に乱暴しようとしている場面を目撃し、咄嵯に飛び出そうとした矢先に背後にいた人物により阻まれると同時に首筋に手刀を食らい、
意識を失うのであった。
気がつけばそこは見知らぬ天井で、ベッドに寝かされていることに気づき困惑しながらも上体を起こすと、
近くに居て介抱してくれていたのか、メイド姿の女性が現れた。
彼女は私の傍まで歩み寄るなり、安心させるかのような笑顔を見せてくれると、水を差し出してきたのでありがたく頂戴することに。
私は水を飲んだ後にお礼を言いつつ、ここはどこなのか、と質問を投げかけることにする。
そして教えてもらった内容によると、どうやら私は攫われたらしく、誘拐犯によって監禁されそうになったところを間一髪のところを
助けてもらって今に至るらしいの。
そのことについて説明を終えると、彼女は名乗って改めて感謝の意を伝えてくれて、
さらには自分が護衛していたはずの人物が犯人だったということを謝ってきた。
その事に関しては、そもそも彼女の責任ではないのだし、こうして無事だったことが何よりだ、
と思いつつも慰めの言葉をかけていると、ドアの方からノック音が響いた。
すると、彼女が入室の許可を出して扉が開かれると、殿下の姿が見える。
そして彼は開口一番に、大丈夫か!? と声をかけてきた為、とりあえず問題ないことを答えた私。
そして続けて、なぜここに居るのか、との問いに答えるべく、これまでの経緯を説明する。
それを聞いていた殿下の表情がみるみると変わっていく。
その変化を目の当たりにしたことで不安を覚えた私だったが、どうやら取り越し苦労だったようで、
殿下は怒ってはいないどころか、寧ろ逆に嬉しそうな様子を見せるとともに抱きしめてきて、
思わず呆然としてしまった私だったのだが、そこへすかさず割って入ってきた彼女の存在のおかげでどうにか平静を取り戻すことができ、
その後は、無事に解決したという知らせを聞くことができたので、ほっと一息つくと、帰り支度をする為に一度別れたの。
そうしていると再び、彼が迎えに来てくれたため、一緒について来てもらうことになり、
そのまま玄関ホールへと向かうの。
すると、そこに一人の男性が立っているのに気づいたため、声をかけてみた私だったが、何故かその男性は固まってしまった。
そんな男性の様子を見て、まさか私を知っていたのでは、と思ったけどそれはただの勘繰りに過ぎず、
彼はルシアスのことを知らなかったみたいで、そのまま私達はご挨拶をするのでした。
「初めまして、僕はこの国で宰相を務めている、ロダン・アスターといいます。以後、お見知りおきを」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
お互いに自己紹介を終えた後、立ち話をするのもなんだということで、 応接室へ移動することになったので、皆で向かうことに。
そうして到着した先で、私はソファーに腰掛けると、殿下と向かい合う形で座ることになり、
隣にはソフィアちゃんが、その後ろにヴァリアちゃんが控える形で席に着いた。
「殿下、ソフィアとヴァリアがいるのですけれど、そのね、ここでキスして欲しいなって」
「えっ!? ここでか!? まぁ、いいが……」
そう言って恥ずかしそうに頬を染めながら、目を瞑った彼を見て、私も同じようにすると、
お互いの顔が近づいていき、やがて唇が重なる。
そうしてキスをしていると、突然後ろからヴァリアちゃんが、手を伸ばして私達の肩を掴むと、引き離すように引き離してしまった。
「んっ、ちょっとヴァリアちゃん、何をするのよ」
抗議の声を上げる私に構うことなく、ヴァリアちゃんはそのまま続ける。
「申し訳ありません、聖羅様。ですが、これは私からのささやかな贈り物です。どうか受け取ってください」
「は、はい、ありがとうございます」
おずおずと受け取り、お礼を言う私。
そのやり取りを見ていた殿下は、不思議そうに首を傾げていたのだった。
それから、しばらく雑談をしていたのだが、やがて帰る時間となったので、
見送りの為に殿下と一緒に玄関へ向かうと、そこには馬車が用意されており、その周りには使用人達が並んでおり、
その中には先程の男性、ロダンさんもいた。
そこで私は、彼に近づき、お別れのご挨拶をするために話しかけたの。
そこでまず最初に、助けてくれたことに対する感謝の言葉を述べた。
すると、彼は照れくさかったのか、顔を背けてしまった。
そんな彼の様子に思わず笑みがこぼれてしまった私。
そこで、ふと、ある疑問が浮かんできたので、訊いてみることにした。
何故、私がここにいると分かったのか、というものです。
その問いかけに対して、彼は、たまたま見かけたので、もしや、と思って追いかけて行ったら、
案の定、捕まっていた、とのこと。
そして、その後の経緯についても教えてもらい、さらに、ここへ来た理由なども話してくれたので、とても助かりました。
なので、私はお礼の意味を込めて、持っていたお菓子を手渡すと、また会いましょう、と言って、
その場を離れることにしたのだった。
それから、私達は馬車に乗り込み、お城へと戻ることになる。
その際、殿下が御者を務めると申し出てきたので、お言葉に甘えることにする。
そして、走り出したところで、おもむろに声をかけてきた。
その内容は、例の件についての返事を聞かせて欲しい、というもので、
私は、その質問をされた瞬間、すぐに答えられなかった。
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