十四

「アメリア、アメリア……どうしていなくなってしまったんだ?」


 アメリアが叫んだと同時に大きく森が揺れ、その反動なのか宙に放り出されたアメリアが強い光と共に姿を消した。

 光が消えて元の暗闇に戻った時、どこを探しても何度名を呼んでも、もうどこにも彼女はいなかった。


 ほんの束の間の出会いだった。けれど初めて見たその時から自分の運命を変えてくれる少女だと分かった。確信した。だからずっと一緒に居たいと伝えた。だがアメリアは消えてしまった。


 気が遠くなるほど永い間ここで一人で生きて来た。それが当たり前で、この先もずっと続くのだと思っていた。

 何の変化も無ければ、きっと耐えられただろう。だが人と出会い、言葉を交わし、名を呼んでもらえた喜びを知った今となっては、もうこの無明の孤独には耐えられそうになかった。


「アメリア、どこに行ったの? 会いたいよ、また会いたい。そして……」


 シンは鳥が翼を広げるように両腕を広げ、真っ暗な天を仰いだ。


◇◆◇


 森から出たアメリア一行はそのまま真っすぐ北へ向かった。半日ほど移動したところでルーン村という小さな村に到着した。

 小さいがコランダム地区の入り口にあたり、鉱山に出入りする人々が必ず通過するため活気のある村だった。


 当然サイモスもクラウスも来たことがある。そしてオリビエも最近立ち寄り、その時に魔物の噂を聞いて引き返してきたのだった。

 その時のことを思い出しながら、オリビエは村の入り口を見遣る。


「まだ誰も中には入れないでいるのかな」

「どうだろうな、聞いてきた方が早いだろう」


 フットワークの軽いカルロスが荷物を託すと村人達の方へ走って行った。


「すいません、俺たちコランダムに行きたいんですが、道はこっちで合ってますよね」


 突然現れた身なりの良い青年に村人は驚く。そしてコランダムへ向かう、という言葉に更に驚いて顔を曇らせた。


「なんでコランダムに行きてえんだ?」

「えっと、実は人と待ち合わせていて……。あっちも旅をしてきて、コランダムで落ち合おうってことになってるんです」

「やめときなよ」

「そうだよ、その人たちだってコランダムに行くならこのルーン村に立ち寄るはずだ。ここで待っていたほうがいいよ」


 暗い表情で口々にカルロスを止める。オリビエが言っていた噂はまだ無くなっておらず、ということは本当に魔物がいる、または村人はその存在を信じているということが分かった。

 カルロスは空とぼけて首をかしげる。


「でもまだ夏が終わったばかりで気候もいいですし、雪も降ってませんよね?」

「雪なんか……。そうじゃないよ、兄さん、あの噂知らないのかい?」


 カルロスは人好きしそうな無邪気な顔で頷く。


「コランダムのプラント山はメラルド一番のミスリル鉱が眠っているから掘り出そうとする人は後を絶たない。でも誰一人帰ってこない……。みんな魔物に食われちまってるって話さ」

「魔物、って」


 カルロスはあえて全く信じていない風を装って笑った。だが村人の顔は厳しくなる一方だった。


「本当さね。昔にも同じようなことがあって、その時には大きな龍が暴れて山が崩れて村が押しつぶされそうになったって言い伝えもあるんだよ」

「龍、ですか……」


 カルロスは急に真面目な顔になる。魔物と一口に言っても色んな種類があるだろう。だがそれが龍となると、おいそれと近づけないのも納得がいった。


 カルロスが笑いを引っ込めて眉をひそめたことで、何故か村人の口が軽くなっていく。信じてもらえた、と思ったからだろう。


「ほら、この近くで少し前に伯爵さまや王様が襲われただろう。あれだって龍の怒りに触れたからだってもっぱらの噂なんだから」


 カルロスはぎくりとして思わず息を飲む。村人にとっては龍と同じくらい遠い存在の国王だろうが、カルロスにとっては家族同様に近しい存在だ。


「なぜ……龍が怒るんですか?」

「そりゃあ、決まってるじゃないか」


 居合わせた村人が頷き合う。


「呪いをもたらす王女を野放しにしていたからさ」


 カルロスは驚きと怒りでその場に棒立ちになってしまった。

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