十五
「呪いをもたらす王女……」
思わず呟くカルロスに村人たちは何度も頷く。
「でもその王女も死んじまったんだろ? なのにまだ龍が暴れてるんだから困ったもんだ。その王女を生贄にでもすればこんなことにはならなかったんだろうがなぁ」
一人の男の発言に、そうだそうだと同意する村人たちから離れて、カルロスは皆の元へ戻った。
「おう、どうだった、魔物の……」
そう声をかけたアルヴァだったが、カルロスらしからぬ暗く怒りを露わにした表情に言葉を失う。そしてカルロスはそのままサイモスやクラウスのいるところへ真っすぐ向かって行った。
◇◆◇
カルロスはその場にアメリアがいないことを確認して、今しがたの村人たちとのやり取りをそのままサイモス達に伝えた。
聞き終えたサイモスは無言で、厳しい表情で頷くだけだった。
代わりにクラウスがカルロスに問いかける。
「今の話、姫様には?」
「勿論お伝えしていません」
するつもりもない、と続けようとしたが、クラウスは振り返ってステラを呼んだ。
「姫様をお連れしてくれ」
「は? ちょ、ちょっと公爵、どうして……」
「姫様に関係することだ。お耳に入れないわけにはいかないだろう」
当たり前だ、と言いたげな普段通りのクラウスの表情にカルロスの焦りが強くなる。だが止めようとする間もなく、ステラがアメリアを伴って戻って来た。
「姫様、今カルロスが村人たちと話してきたそうなのですが……」
ちょっと待ってくれー、と心の中で叫ぶカルロスを完全に無視して、クラウスは聞いた話を一言一句違えずアメリアに話して聞かせたのだった。
話が終わったところで、ステラが今にも飛び出していきそうなほど怒りに震えているのが分かった。普段なら必死で宥めるカルロスだが、今は自分と同じ感想を持つ人間がいることに安堵した。
だが当のアメリアは、予想に反してクラウス同様平然としていた。
「私の呪いと、その魔物の存在が関係していると思われているのですね……」
「それは村人がっ……」
「ステラ、黙れ。……残念ながらそのようです。この村自体は今まで通り姫様の素性を隠して通過することは可能ですが、いかがされますか」
父公爵に一刀両断されて口をつむがざるを得なくなったステラは、やり場のない怒りと恥ずかしさで顔を伏せてしまった。
だがアメリアは引き続き冷静で、その動じない様子にカルロスだけでなくサイモスも驚いて見入ってしまっていた。
「今は村の人たちの動揺や反感を誘うような真似は避けた方がいいと思います。だから今まで通りアーノルドとして通過します。ただ」
「はい」
アメリアが言おうとしていることが、何故かクラウスには分かっているように見えてステラは驚いた。
「これはチャンス、ですよね」
アメリアの言葉に完全に同意したのはクラウスだけだった。
◇◆◇
クラウスはカルロスに指示を出す。曰く、皆と相談したが魔物がいるなら山には入らず村で仲間と落ち合いたい、ついては逗留できる土地を貸してほしい、と交渉しに向かった。
そして併せてクロフォード、オリビエ、ライラ、アルヴァ、ニコル、そしてヴィルマーを呼んだ。
集まった面々は、普段とは様子が違っていることに気づいていた。
今までならクラウスが何か話をするとき、その隣りにいるのはサイモスだった。それがサイモスが王位にいた時の二人の地位を彷彿とさせ、懐かしさと安心感を感じさせてくれていた。
だが今クラウスの隣にいるのはアメリアだった。
「来てもらったのは今後についてだ。カルロス、すまないが村人との話を皆にもう一度説明してほしい」
カルロスは一部の反応を心配しつつ、何度目か分からない状況説明をする。案の定ステラよりも激しい抵抗を示したライラだったが、アルヴァとニコルに抑えられた。
「本題はここからだ。姫様」
促されてアメリアが立ち上がる。
「本当に龍がいるかどうかは分からない。でも村の人たちはいると確信していて、呪いのせいで龍が怒っていると考えている。当然彼らは龍をどうにかしたいと願っていて、でもその方法が分からなずに困っているの」
そうだな、とニコルが頷く。
「だから、私がその龍を斃すか、大人しくさせることが出来れば、村の人たちも助かるし、私が呪われてなどいない、という証明にもなるわよね」
「はあ?! お前まさか」
真っ先に異を唱えたライラの声にかぶさるように、ヴィルマーが大きく拍手をした。
「素晴らしい! それでこそ正当な王位継承者です。是非協力させてください!」
アメリアはライラの肩を宥めつつ、ヴィルマーに笑顔で頷き返した。だが自分の背後で、クラウスが警戒の度合いをまたひと段階上げたことにも気づいていたのだった。
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