十三
道に転がるように倒れていたレイモンを、黒装束は肩に担ぎあげて運んだ。自分達のアジトにたどり着くと、配下たちが一斉に挨拶をする。
「おかえりなさい、頭領!」
「おかえりっす!」
「お疲れ様っす、兄貴」
耳が痛くなるほど大きな声で四方八方から呼びかけられるのを頷きながら通り過ぎる。肩に担いでいる男はピクリとも動かないから、やはり死んだか、と思いながらたどり着いた部屋の床に下ろした。
「頭領、そいつは?」
「道に落ちてた。もしかしたら死んでるかもしれねえな」
「怪我してる感じじゃなさそうですが、一応手当てしますか」
「頼んだ」
そう言うとまたふらりと外へ出て行った。
◇◆◇
レイモンが次に目を開けた時、最初に見えたのは天井だった。アメリア捕縛のために王宮を出てから屋根のある場所で寝たことが無かったため、状況を理解するまでにしばらく時間がかかった。
(ここは……どこだ?)
体調の悪さも手伝って記憶がつながらない。ぐらぐらする頭をどうにか働かせていると、扉がギィ、と開く音がして人が入って来た。
「お、目開いてるな」
「たまに開けるんですよ、でも呼び掛けても返事しないんで、ちょっとやばい状態かもしれないですね」
会話の内容から自分が半死人のように思われていることが分かったレイモンは、残っている体力を振り絞って声を出した。
「す……すみません、が、み、水を、もらえ、ますか……」
意識がないとばかり思っていた病人がいきなり声を上げたことで、男の一人が飛び上がるように驚いて
「やっぱり生きてたか。しぶといな、そういうのは嫌いじゃないぜ」
これは誰だ、と考えるが、元々思考に回すほど体力が残っていない上にどう見ても見知らぬ人物だった。
黒装束はもう一人の男に水を持ってくるよう指示すると、レイモンが寝ている寝台の横にある椅子に腰を下ろした。
「街の外で倒れてたんで俺がここに運んだ。丸三日起きなかったぞ」
レイモンは瞼だけ動かして礼を伝える。その意思は伝わったようで相手も頷いた。
「俺たちの事情で、悪いがお前さんの荷物から身元が分かる物を探させてもらった」
黒装束の言葉にレイモンはビクリと肩を震わせる。そして予想通り、ユーグレスの親書を男が胸元から取り出した。
「こいつは摂政殿下の手紙だな。てことはあんたは王宮の人間か。貴族か?」
レイモンは返事が出来ない。ハウエル即位後にユーグレスの独断で爵位を授けられたが、無論生粋の貴族ではない。そして今の状態で貴族だと名乗る気が起こらなかった。容易に会話が出来る状態で無いことが幸いだと思った。
瞼での返答すらしないレイモンを見て、黒装束は面白そうににやりと笑った。
「まあいいか。お前さん、元気になるまで俺たちで面倒を見てやる。その代わりに俺たちの仲間にならないか?」
想定外の提案にレイモンは目を見開いた。
「王宮に
レイモンは少ない思考力をかき集めて考える。しかし今の自分に拒否することは不可能だった。そしてユーグレスかアメリアか、を天秤にかけた時点で自分の腹は決まっていた。黒装束の思惑は後で確認すればいい、とも思った。
先ほどと同じように瞼で返答をすると、黒装束は満足げに頷いて立ち上がる。
「俺の名はオルソンだ。お前さんは手紙に書いてあったレイモンでいいのか?」
黒装束の名を聞いて驚いたレイモンは腹からねじり上げるようにうめき声をあげた。
オルソンとは、メラルド王国を侵攻しようと機会を伺い続けている東の隣国リオールの領主の名だった。
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