七
「君、誰?」
アメリアは突然現れた青年に驚いて声も出ない。それはおそらく相手も同じだろうに、青年はアメリアの様子を伺ってはいるが驚いているようには見えないことにもまた驚いていた。
そして声も出ないほど驚いた理由はもう一つあった。
青年は大きく目を見開くアメリを見て、自分の頭を指さしながらくすりと笑った。
「君、僕と同じだね」
青年はアメリアと同じく、銀の髪と青い瞳だった。
◇◆◇
クラウスとサイモスが相談し、安全な場所を探して一行を避難させる。くれぐれも動かないよう、そしてその取りまとめをサマルとソフィに任せると、アメリア捜索隊が編成された。
主となるのがサイモス。その下にクロフォード、オリビエ、カルロス、ステラ、アルヴァが選ばれる。
どうしても行くと言ってきかないニコルとライラも追加された。
クラウスは連絡役として両方の中間地点で待機する。
「アメリアを見つけることが第一目的だが、お前たちの誰か一人でも失うわけにはいかない。絶対に無理をするな。幸いあの子は怪我をしても治すことが出来るだろうから」
「あっ、サイモス、それ、ダメなんだ」
途中でライラが慌てて割って入る。
「駄目、とは?」
「あいつ、自分の怪我、治せないみたいなんだ」
ライラの言葉にサイモスだけでなく彼女の治癒能力を知っている者は皆驚いた。
「本当か?」
「ああ。ほら、前にあたいら二人が山で襲われたことがあっただろ。あたいの怪我はあっという間に治してくれたのに、あいつの怪我は全然治せなかった。だからあんな連中に好き勝手されたんだよ」
ライラは当時を思い出して悔しそうに顔を歪めながら話した。ステラはアメリアが自分を癒せないということを初めて知って、その事実に青ざめた。
(だとすれば、もし今怪我をしているとしたら……)
みるみる顔色を失うステラの前で、パアン! と大きな音がした。ニコルが手を叩いた音だった。
「しっかりしろ、さっき公爵に言われたばかりだろう。お嬢ちゃんが心配なのは皆同じだ。心配するより今は見つけるんだ。やることがあるんだから思いを巡らせるのは後だ」
驚いたままのステラの隣で皆が頷く。そしてサイモスが立ちあがる。
「ニコルの言う通りだ。ではまず一時間だ。私とライラが北、カルロスとアルヴァが東、クロフォードとオリビエが南、ステラとニコルは西を探してくれ。時計回りに回ってまたここへ戻ってくるんだ。いいな」
往時を思い出させるようなサイモスの凛々とした号令に、かつて配下にいた四人だけでなくライラ達も背筋が伸びる思いがした。
威勢よく返答すると、サイモスの命じたとおりの布陣でアメリアの捜索が開始されたのだった。
◇◆◇
「同じ……」
「うん、君も銀色の髪だね」
そう言って青年はアメリアに歩み寄って、彼女の髪を指に絡ませた。
息が触れるほど顔が近づく。そうすると暗闇の中でもその顔がはっきりと見えて、驚きが倍増した。
「あなた、ヘリオス……」
青年の顔は、メラルド国中に祭られている英雄アリオス像に酷似していた。だが髪の色が銀色であるために、トーリアの街で見た変化した像と同じに見えた。
「ヘリオス? 違うよ、僕はシン」
「……シン」
「うん、シン。君は?」
「わ、私はアメリア」
「アメリアか。よろしく、僕の初めてのお友達だ」
「と、友達?」
今名乗り合っただけなのに友達と言われてアメリアはたじろぐ。だがシンの表情は小さな子供のように無邪気な笑顔で、友達じゃない、と言って水を差すのは躊躇われた。
「嬉しいな。君はどうしてここに来たの? 僕に会いに来てくれたの?」
「私は……」
仲間たちとコランダムへ向かう途中で、足を滑らせて転がり落ちて来た。
そう言えばいいだけなのに、何故かアメリアはそれを言えずに口ごもってしまった。
「ま、いいか。せっかく会えたんだもんね。ここは暗いからつまらない。あっちへ行こう」
そしてシンはアメリアと手をつなぐと、まるで宙に浮いているかのように軽やかな足取りでぬかるんだ道を歩き始めた。
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