四
買い出しが完了したことをカルロスが五人に告げに来た。クラウスは昼食を終えたらまたこの街から出発する予定であることを伝えた。
「姫様のお考え、というかお覚悟は分かりました。ここにいてもこれ以上の情報は得られませんから、まずは真っすぐコランダムへ向かいましょう。もしかしたらすでにキングさんたちは到着しているかもしれませんしね」
アメリアは頷いた。その通りだった。魔物、といっても現地ならもっと詳しいことがわかるかもしれないし、それによって今より手立てが思いつくかもしれない。それにキング達を待たせるわけにもいかなかった。
食事の調達にステラとクラウスが向かった後に、アメリアがサイモスに声をかけた。
「お父様、ちょっと……」
娘の改まった様子に、先ほどの魔物との戦いの件に関する相談課と思って身構えたが、アメリアの顔は笑っていた。
「どうした?」
「コレットさんですが、年が変わる頃には赤ちゃんが生まれるかもしれません」
サイモスは想定していなかった話題に目を丸くする。そしてアメリアの笑顔の理由が分かった。
「そうか、それは嬉しい。しかし年が変わる頃となると冬だな。寒さには気をつけないとな」
「そうですね。それに私は身籠っている間の体調管理には対処出来ますが、さすがに子を取り上げることは出来ません。そこはキングさんにお願いして、ヴァードの民の女性達のお力を借りることになると思います」
「そうだな。それが安心だな」
「それと……これはルトからの報告なのですが、コレットさんのお腹にいる赤ちゃんの性別が分かったそうです」
「っ、なんと、まだ生まれていないのにか?」
「ルトは人の心がわかります。私と一緒にコレットさんのお世話をしながら、胎児の気持ちを読み取ったのかもしれません。ただ当然ながらお医者ではないので、確実ではないですが」
「それはもちろん……それで?」
慌てふためく父が珍しく、アメリアはくすりと笑った。
「知りたいですか?」
「え? あ、いや……うん、そうだな、楽しみに待った方がいいかな、どうだろうか」
「コレットさんとご相談なさってください。ルトには口止めしてありますので」
「わ、分かった……」
サイモスは一人になって、再び我が子を授かることを実感した。
アメリア達の時は王としての義務を果たせたこと、アメリアの髪色に仰天したことと側近たちの動揺を収めることに奔走し、喜びに浸る間がなかった。
(私の子、か……)
遠ざかるアメリアの背がひと際頼もし気に見える。出来ることならこれから生まれてくる子には、玉座や国とは関係ない人生を送らせてやりたいと思った。
◇◆◇
一足先に食事を終えたクラウスは、再び昼のメンバーを呼び集めた。
「次に目指すのはコランダムの入り口に当たるノーコアの森です。かなり木が生い茂っていて昼間でも日が差さない真っ暗な森らしいので、用心して進みましょう」
「父上、その森を迂回することは出来ないのですか?」
「出来なくはないが、その時は崖のように急な坂を上り下りすることになる。森を抜ける以上に危険だし時間もかかるし、体力も消耗するだろう。今までよりは速度は落ちるが、この森は暗いだけあって獣もいないそうだ。ゆっくりまとまって行動すれば問題はないだろう」
ステラは納得して頷いた。
「この先は私が先頭に立とう。私の代わりにニコルをサイモス達の側においておきます。何かあれば彼に確認を」
それと、と、アメリアを見て続ける。
「今後クルタの公子とお話をなさるときは、必ずニコルを同席させてください。いない時はステラでも構いません」
「えっと……わかりましたけど、どうして?」
「念のためです。よろしくお願いしますね」
そう言うとクラウスは、自分と一緒に先頭に立つ予定のクロフォードやカルロス達の許へ向かった。
「父上はニコルを本当に信頼しているんだな」
思わずつぶやくステラに、アメリアも同調した。
「本当ね。ニコルは口数は少ないけれど色んなことに気づいてくれるわ。そういうところ、おじ様とよく似てるわよね」
だからご自身の代わりも任せられるのね、と続いたアメリアの言葉に、ステラは自分でも驚くほど同様していた。
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