三
フラトンの街に入り、予め決めていた分担通りに必要物資の買い出しをする。その間にサイモス、クラウス、アメリア、ステラはこの先の行程を再確認する話し合いを行った。
「季節が良かったですね。好天が続くうちにどんどん進みましょう」
クラウスの言葉に皆頷く。だがその中でステラの表情が厳しいことにクラウスが気づいた。
「何か気になることでもあるのか?」
「はい、実は」
そして先日オリビエから聞いた話を、先ほど同行した紳士の見解を付け加えて伝えた。
「魔物か」
「直接見た人の話や、誰か襲われた、という情報もないようです。ですが実際にオリビエはその風聞のためにコランダム奥へ進むことを止められて断念したそうです」
「サイモス、あなたは何か聞いたことはありますか?」
「いや……私はヴァルツノルデンの手前までしか行ってないからな。行軍中で現地の人と話す機会もなかったしな」
クラウスは頷いて、ステラに言ってオリビエを呼んでこさせた。そして五人になり改めて情報を確認する。
「確かにあの紳士の言う通り、あやふやな噂話に過ぎなくても、いる、と想定しておく方が無難だと俺も考えます」
「だが想定していても、普通の軍隊とは違う。準備のしようがない」
考え込むクラウス達に、オリビエが片手を挙げる。
「コランダムでは親しくなられたヴァードの民と合流するために向かわれるのでしょう? ならば魔物がいると言われる山の中まで進まなければよいのでは?」
「それでは駄目です」
それまでずっと黙っていたアメリアが、オリビエの提案に反対した。
「私はキングさんと約束する以前からコランダムに行きたいと思っていました。そのためにマインダートを出て旅をしてきました。魔物がいるというなら、私にとってはむしろ手がかりです。避けるわけにはいきません」
「手がかり?」
横から問いかけるサイモスにアメリアが頷く。
「私の、この銀の髪と青い瞳に纏わる呪いの真偽をただすためです」
「それは……私が話しただろう、真実はアリオスではなくヘリオスの言葉だと」
「その証拠が欲しいのです」
「証拠……」
「はい。お父様と、それからマインダートで学院の先輩のお父上から伺ったお話は私に大きな勇気をくれました。私の心一つの問題ならそれだけでも十分です。しかし呪いを信じているのは私じゃない、ユーグレス叔父様です」
アメリアは自分を奮い立たせるために、ユーグレスの青白い面影を思い浮かべた。
「言い伝えだ、というだけで叔父様が引き下がるはずがありません。あの叔父様すら説き伏せられるだけの、呪いの伝説の反証が欲しいのです」
「しかし殿下……、お気持ちはわかりますが、何せ千年も昔の話です。危険を冒して魔物の棲む地へ踏み入っても何もないかもしれませんよ?」
クラウスの足止めをするような意見に、しかしアメリアはニコリと笑った。
「魔物がいるなら、むしろ話は早いのでは?」
アメリアが言っていることの意味を誰も理解できず、首をかしげた。
「千年前に、ヘリオスが魔物を斃して建国の加護を得たんですよね。なら、もしまた本当に魔物がいるなら」
「まって、アメリア。まさかあなた……」
青ざめるステラにアメリアが頷く。
「私たちで斃せばいいでしょ? それなら伝説の真偽を問うまでもないわ。私が国を亡ぼす呪いを受けてはいない、ということを証明できるでしょ」
四人は正真正銘絶句して、何も言えなかった。
だがそれは、本当に誰も思いつかない、誰もがアメリアを認めざるを得ない方法だった。
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