銀の髪、青い瞳。

 久しぶりに見る本来のアメリアの姿に、ステラは言葉を失う。

 おそらく髪の色を元に戻したのは、ライラ少女に詰め寄られたこともあるだろうが、何よりもこの後サイモスと会うために偽った姿のままでいたくなかったのだろう。本当ならトーリアを出る前にそうしておきたかったのかもしれない。

 だがまだ、アメリアが本来の姿を多くの人の目に晒すのは危険が大きすぎた。


(いつか必ず、名も姿も偽らなくてよいようにする)


 ステラが心の中で何度目か分からない決意を固める横で、キングが感嘆の声を上げた。


「これは見事な……。伝説の通りですな。まさかこの目で見られる日が来るとは」

「伝説、ですか」


 アメリアは思わず問い返す。キングはアメリアの不審げな表情に、ああ、と首を振った。


「この先の話はサイモスもいる場のほうが相応しい。では、ご案内します」


 歩き出したキングとその後ろに従ったアメリアに、ハッとしたようにライラが駆け寄ろうとするが、アルヴァがそれを引き留めた。


◇◆◇


 一行は、先日クロフォードが案内された家の前に到着した。


「こちらです、どうぞ」


 キングが木製の扉を手で示す。アメリアは大きく息を吸い、内側へ声をかけた。


「お父様、いらっしゃいますか。……アメリアです」


 自分の声が震えているのを、他人のそれのように聞きながら返事を待つ。

 そして声はないまま、内側から扉が開いた。


 アメリアが会いたくて会いたくて、だが二度と会えないと思っていた懐かしい笑顔が出迎えた。


「よく来た……すまなかったな」


 アメリアはその場に泣き崩れた。膝をついてしまう前に、サイモスの右腕にしっかりと抱き留められた。


◇◆◇


「どうぞ」


 サイモスが使っている家は二間続きの平屋で、入口近くにはある程度の人数がすわれる大きなテーブルがあった。

 そこに総勢七人が腰かける。

 中にはもう一人、女性がいた。ヴァードの民の女性の様で、キングを見ると深く頭を下げ、無言で全員分の茶を用意すると音もなく部屋から出ていった。


「コレットはお役に立ててますかな」

「とても。不自由な体なので助かっています」


 キングは嬉しそうに頷く。先ほどの女性がコレットという名でキングの気遣いでサイモスの世話をしてくれていることをアメリアは察した。

 そして父王の左腕があるはずの部分を見遣る。


「お父様、お怪我は……」

「ああ、今はもう大丈夫だ。本当なら片腕でも出来ることを増やしたいのだが、私の師匠は過保護でね」

「師匠?」


 首をかしげるアメリアに、サイモスは目でキングを示す。二人が師弟と呼ぶような関係だと知り驚いた。その表情を見て、サイモスが言い返す。


「私も驚いた。一体いつ言葉が出るようになった? 私やステラ以外とも普通に会話出来ているではないか」


 アメリアはハッとして自分の口元を押さえる。そしてその理由を話そうとしてまた涙があふれた。話したいことが多すぎて、こうして父と話せる現実が夢かと思うほど幸せだった。


 俯いてしまったアメリアの肩に、サイモスはそっと手を回した。


「もう日が暮れる。今日は皆ここに泊まりなさい。クラウス」


 再会後初めて名を呼ばれて、クラウスは飛び上がるようにしてサイモスに向き直る。


「君がアメリアと共にいてくれて、これほど頼もしいことはない。今夜は飲み明かそう」


 今度はクラウスが感極まる番だった。是非、と言おうとして先に涙がこぼれた。


◇◆◇


 ユルトにアルヴァと共に残ったライラは、まだ苛立ちが収まらない様子でぐるぐると歩き回っていた。アルヴァはため息をついた。


「いい加減にしろ。彼らはキングの客人だぞ」

「分かってるっ!」

「……何が気に入らないんだ。あの女の子はサイモスの娘だろう。会う資格はあるじゃないか」

「それは、そうだけど……」


(気に入らない、わかんないけど、気に入らないんだよっ)


 ライラは必至で心の中だけで舌打ちをする。アルヴァがいなければそこら中のものを蹴倒して回っていたかもしれなかった。


 

 

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