七
リムリットへの道中、クロフォードが三人に知り合ったヴァードの民について説明した。
「キングという、ヴァードの民全体の指導者のような方が陛下と古い顔見知りのようです。その方がいたから、瀕死の陛下をお助けくださったようです」
「本当にありがたいことだ。我々が国民を代表して礼を尽くさねばならないな」
クラウスの言葉に皆が頷きながら、アメリアの表情が明るくないことにステラは気づいていた。だが昨夜自分が厳しい言葉をかけた手前、ここで中途半端な気遣いはしないほうがいいと思い、気づかないふりを続けた。
◇◆◇
四人がリムリットに到着したのは夕方に近かった。場所は分かっているので城門を通過した後はクロフォードが御者になり真っすぐヴァードの民の居留地へ向かった。
立派な馬車が近づいてきたことに気づいたトーイが駆けだしてくる。手綱を握っているのがクロフォードだと気づくと満面の笑みを浮かべて馬に飛びついた。
「クロフォードじゃん! どうしたんだよ? また会えると思わなかったぜ!」
いきなり飛びつかれて驚いた馬が嘶きを上げる。慌てて馬をさばきながらクロフォードが苦笑した。
「急用があって戻ってただけなんだ。アルヴァはいるか?」
呼んでくる! と叫ぶとトーイはまた駆けだしていった。ほどなくアルヴァがやってくる。
「よう、思ったより早かったな」
「それだけ俺たちにとって大ごとなんだ……。すまないが案内して欲しい。馬車は置いて行っていいかな」
「大丈夫だ、責任をもって預かる」
頷いてクロフォードが馬車の扉を開く。クラウス、ステラが降りて、最後にアメリアが降りて来た。
「ご案内いたします。どうぞ」
クロフォードが一番小柄な少女に真っ先に最敬礼したことにアルヴァは少なからず驚く。
その一行の様子を、離れた木陰からライラが見つめ続けていた。
◇◆◇
アメリア達が最初に通されたのはキングのユルトだった。初めて見る形の大きなテントを、アメリアは物珍し気に見回す。そして中の最奥に座るキングを真っすぐに見つめ、頭を下げた。
「急な訪い、非礼をお許しください」
年長者のクラウスでも、案内人のクロフォードでもなくアメリアが最初に挨拶をしたことで、自分がこの一行の代表者で責任者であることを表明したつもりだった。
そのメッセージを正確にキャッチしたキングは、柔らかく微笑みながら頷いた。
「ようこそ。私はキングと申します。ここの連中の、長老のようなものだと思ってください」
「私は……」
アメリアは一瞬ためらう。だがここで名を隠しては来た意味がないと思った。
「私は、アメリア・ルー・メラルドと申します」
その瞬間、ユルトの中の空気が揺らいだ気がした。アルヴァ達もその名を知っていたからだった。
だがキングは変わらず微笑みながら頷いた。
「お越しになると思っておりました。お父君に……お会いになるためにいらっしゃったのですね」
アメリアはしっかり頷き返す。
その時ユルトの入り口の幕が開いてライラが叫んだ。
「嘘だ! 王女アメリアは英雄ヘリオスと同じ銀の髪のはずだ。その女は褐色じゃないか。偽物だ!」
ユルトの外まで漏れ聞こえそうな大声にクラウス達は慌てる。アルヴァがすぐにライラの口をふさごうと飛びつくがライラは止まらない。カツカツとアメリアに歩み寄った。
「あんたなんかが救国の英雄のはずがない!」
そしてアメリアの髪を掴もうと手を伸ばす。驚いて身を引いたアメリアを庇いながら、寸でのところでライラの手を押さえたのはステラだった。
「我が主に触れるな。無礼者」
驚いたライラの勢いが止まったところでステラは軽く突き返すようにライラの手を放り出す。そのはずみによろけて後ずさったのをアルヴァが受け止めた。
「すまない、ライラの非礼は俺が代わりに謝る」
「アルヴァ! あたいは」
「黙ってろ! キングの前だぞ!」
叱られてやっとハッとしたライラは、だが悔しそうに唇を噛んで俯く。黙りはしたものの納得していないことは一目瞭然だった。
アメリアはステラの手を外してゆっくりライラに近寄った。
「髪の色を見れば納得してくれるのね?」
そして数分、髪の染料を落としたアメリアは、本来の美しい銀髪を輝かせていた。
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