六
戻るつもりはない、というサイモスの意図はあるものの、会いたいと望むアメリアの願望を咎めることはできない。
(そもそも今この国に王女殿下に異を唱えることが出来る者など……)
クロフォードが視線を彷徨わせたとき、静かな声が響いた。
「アメリア、気持ちは分かる。けれど陛下はあなたの期待していることは望んでいないよ。どんな理由であれ、お父君のご意思を尊重する覚悟はあるんだね?」
アメリアは想定外だったステラの反対意見らしき言葉に目を見開く。一番に味方してくれると思ったのに、釘を刺されるとは思わなかった。
「それは……」
「事は国の命運を左右するんだ。昔のように我儘を言って甘えるわけにはいかない。あなたは本来なら現国王なんだ。そのつもりでお会いする覚悟はあるのか、と聞いているんだ」
「ステラ」
娘の強すぎる言葉に思わずクラウスが二人の間に入ろうとした。だが首を振ってその手助けを拒否したのはアメリアだった。
「大丈夫よ。私は……お父様に会いたいの。会って、これからのメラルドについてご相談したい。お父様を無理に王都へ戻そうなんて思ってないわ」
当初の動揺は収まったアメリアの静かな答えにステラは頷いた。
「じゃあ、決まったね」
そしてクラウス達に向き直る。
「お手数ですが、陛下の許へご案内いただけますか。私も護衛として同行します」
クラウスもクロフォードも、その決定に頷かざるを得なかった。
◇◆◇
翌日、クラウス、クロフォード、アメリア、ステラの四人はトーリアからリムリットへ向けて出発した。
ほとんどとんぼ返りのように旅立つ面々を、ソフィはいささか寂しそうに見送る。キャロルがそんなステラを無言で労わった。
ニコルとカルロスは少し離れたところから遠ざかる馬車を見送る。
「うーし、じゃあ残った俺たちは今日も頑張りますか!」
威勢よく掛け声をかけるカルロスにニコルが問いかけた。
「なあ、お前とステラに結婚話が出てたって、ほんとか?」
「え、ええ?! な、なんでお前がそれを……」
「少し前に公爵から聞いた」
「そ、そっか、秘書やってたもんな……。うん、そういやそんなことあったな。忘れてたけど」
「忘れてた、って……」
「親同士がノリで決めたみたいな縁談だったし、俺もステラも全然乗り気じゃなかったしなぁ。幸か不幸か色々あってうやむやになったままだよ」
「お前たちがそういう関係だった、っていうんじゃないのか?」
「俺と?! ステラが?! んな馬鹿な」
心底驚いたようにカルロスは両手をぶんぶん振って否定する。しかしニコルはまだ得心が行かない顔をしていた。
「あいつが女に見えたことなんかただの一度もないぜ。っていうかガキの頃からステラは姫様第一で、他の事なんか見向きもしなかったさ。俺なんか幼馴染っていうより使いっ走りみたいなもんだろうよ」
「幼馴染なのか?」
「まあ、俺達皆な。俺とステラと、姫様と、ソフィと、ハウエル様とな」
「ハウエル、って、今の……」
「ああ、国王陛下だ。ソフィとハウエル様は同い年でな。大人しいハウエル様にとってソフィはたった一人の友人だったんだ」
初めて聞く話にニコルは少し驚いて、キャロルと笑い合うソフィを見た。
「王宮に出入りしてる頃からソフィは姫様と仲が良かったから、ハウエル様はそれもお気に召さなかっただろうな。今はそのソフィも城にいないから、本当にお一人きりなんだと思うよ」
さすがのカルロスも声のトーンを落とす。そして色白の線の細い少年を思い出していた。
誰もがアメリアを労わり、庇い、慰める。だがアメリアには先代国王の庇護と、常に影のように寄り添うステラがいた。そしてローラやソフィもいた。
本当に孤独だったのはむしろハウエルかもしれない。唯一の救いはそのことにアメリア自身が気づいて心配していることだった。
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