第九章 邂逅
一
アメリアとステラは、宿へ戻る前にギレームの街はずれにある礼拝堂に立ち寄った。
休日でもないからか、真新しい建物には人の気配がなかった。
大きな扉を二人で開ける。その奥には午後の日差しを浴びて輝くアリオスの石膏像が見えた。静かに歩いて近づき、跪いた。
「そうよね、普通はこうよね」
「頭部と瞳の色が変わったんだね?」
確かめるステラにアメリアは頷いた。
「いつも通り祈りを捧げたの。丁度朝だったし。だけどあの時は……」
思い出せば、何故か『我らが英雄アリオス』と呼びかけるところで『真の王ヘリオス』と置き換えたのだった。
「どうしてそんなことをしたのかしら……。確かに直前まで、ヘリオスのことを考えていたのだけれど」
ステラは首をかしげるアメリアの隣で、同じように祈る姿勢を取る。そして同様に、アリオスの名を呼びかけるところを『ヘリオス』に置き換えてみた。
その時、二人の目の前でアリオス像が突如強く輝き始めた。
あまりに強い光で目を開けていられない。ステラは思わずアメリアを庇うように腕の中に抱きしめた。だが光は強くなる一方だった。
『待っていた』
確かに聞こえた声に、二人はハッと顔を見合わせる。だが御堂の中に人影はない。
『待っていたぞ、共に現れることを』
尚も響き続ける声を、ただ聞き続けるしか出来ない。
『白銀の双剣が、メラルドを救う。共に手を取り合い、この地を清め、改めよ』
音としてではなく、強く脳に刻み込まれるような声だった。二人はしっかりと互いの手を握り合い、目がつぶれそうな光と体の内側から響いてくるような声に耐え続けていた。
『戻れ。そして導きを待て』
最後にそう言い残し、声は途絶えた。それに合わせるように光が少しずつ小さくなって、やっと普通に目を開けることが出来た。
ただ目を開けた二人の前には、驚きの、いやむしろ予想通りの情景が広がっていた。
「これ、って……」
立ち上がって呆然とつぶやくステラに、アメリアは深く息を吐いた。
「そう、こんな風になったのよ」
御堂に入ってきた時には白灰色だったアリオス像が、銀髪の青い目に変わっていたのだった。
「しばらくしたら元に戻るんだよね」
「うん、あの時はあっという間だった気がするわ」
そうか、と少しだけホッとする。しかし見張りも兼ねて三十分ほどその場にとどまったが、元へ戻る様子はない。
「どうしよう……。そうだわ、あの時は他の人が入ってきて、そしたらもとに戻って……」
「戻らなかったら? 大騒ぎにならないか?」
「そ、それもそうよね……」
うーん、と悩むアメリアにステラが一つ提案をする。
「私たちがここにいるからいけないのかもしれない。一度出て、扉の前で他の人が入らないようにして、少ししたらまた戻ってこよう」
それが一体効果があるのか、とも思いつつ他に試せることも無かったため、アメリアは頷いて一緒に実行した。
結果、意味はなかった。
戻った後も先ほど同様、像の色は変わったままだった。
「どうしよう……。放っておいて逃げるわけにはいかないわよね」
「仕方ない……。一旦椅子の影に隠して、夜取りに入ろう」
「盗る?!」
「し、仕方ないだろう! そして持ち帰って父上に相談しよう。この教会には像を壊してしまったから、とでも言って新しいものを弁償すればいい」
「そういう問題かしら……」
だがこれも他に方法を思いつかない。そしてクラウスに相談する、と言うのは当然の提案だった。
夜陰、人目を避けて御堂に忍び込みながら、アメリアは不思議と恐怖はなく、逆に楽しくなって笑い出しそうになって困ってしまった。
◇◆◇
宿へ持ち込んだ像は、相変わらず色が戻っていなかった。
そして二人は声の内容について話し合う。
「戻れ、って、皆の許にってことよね」
「恐らく……。だけどそれ以外のことが全く意味が分からないね。白銀の双剣、って何だろう」
「もう一度マインダートに戻って、ハンスのお父様に聞いてみたほうがいいかしら」
「そうだね。だけどまずは……父上に相談かな」
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