十ニ

 カルロスに教えてもらって飴が緊急時の栄養補給になる、ということを知ったアメリアは、さっそく翌日からソフィや乳母のローラと相談を始めた。


 もっとたくさん作ることは出来るか。

 可能なら本当に体に良い材料で作れないか。

 子どもも食べられるよう、今の甘さは残したままで。

 そしてできるなら、今のようにごく一部のアメリアが直接会える人たちだけではなく、必要とする人たちが手に入れやすい方法を考えられないか。


 アメリアの夢は膨らむばかりだった。


「たくさん作るとしたら、やはりある程度の規模の工房が必要になりますね」


 この中で一番料理料理の腕が立つローラが言った。


「今の状態なら手が空いた時に私やソフィ様で作ることが出来ますが、もっと大量に、となると人手が必要です。その分の広さのある場所も。そして材料とそれを購入するための費用もかかります」


 アメリアは手書きで、自分の財産を提供することを提案したが即座にソフィに却下された。


「姫様のお気持ちは尊いですが、これはゆくゆくは国家事業にもなりうるものです。それに姫様がこそこそ城を抜け出されるのも限界があります……。計画が形になった時点で国王陛下にご相談してお力をお借りするほうがよろしいと思いますよ」


 国家事業、と言われたアメリアは目をぱちくりさせる。自分が勝手に始めたことがそこまで大きな話になるとは想像も出来ない。


「ステラ様だけでなく、あの兄にまで知られてしまっているのですから、隠してどこかで露見するよりは姫様から陛下にご相談されるほうが、その後も滞りなく進められます。そうすれば少しでも早く必要な民の手に届けられます」


 ソフィの意見を聞きながら、アメリアは急にドキドキし始めた胸をそっと抑えた。


(私一人じゃできなかったことが、ソフィ達やお父様のお力で実現するかもしれない……)


 アメリアは、自分の第一王位継承者という立場を重荷に感じていた。

 父を見て、人伝に父王への尊崇を聞くたびに自分がその後を継げるとはどうしても思えなかった。

 ただ、自分のような者を愛してくれる人は少ない。中でも父王は数少ないアメリアが心を許せる相手でもある。

 父の気持ちをありがたいと思うからこそ、その望みから逃げることは出来なかった。

 無いと分かっていても、王位継承権を返上することで父から見放されるのでは、という恐怖もあった。


 王家に禍をもたらす者、と言われる一方で次代の王になることを期待されている矛盾。王になる自信はもてないが、国のために出来ることをしたい気持ちが日々大きくなっていく葛藤。


 相反するものを持て余す中で、その逃げ道が一人で街へ下りて行う治癒魔法だった。


 それが、魔法などという不確かなものではないやり方で民を救う力に変わるかもしれない。そう思ったら今まで感じたことのない熱に全身が支配されるような気さえした。


「あの兄、ってソフィ様、相変わらずカルロス様には辛辣ですこと」

「だってローラ、騒々しいし口は軽いし嘘はつけないし……。兄さまとステラ様が仲がいいのが不思議だわ」

「まあ、それはご両家が」


 そこまで言ったところで、ローラは口を押える。こっそりアメリアの様子を伺うが、アメリアは違うことを考えているのかこちらの会話は聞こえていないようだったのでホッと胸をなでおろす。


(ブーランジェ家とフローベルグ家の間で婚姻話が持ち上がっていることは……姫様はまだご存じないのかしら)

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