十
一通りの相談が済んだステラ達は、再びアメリアの許へ戻る。部屋の扉をノックすると内側からソフィが応えた。
中へ入ると、髪の色を元へ戻し着替えも終えたアメリアがソフィに髪を梳いてもらっていた。
たった数時間ぶりなのに、落ちかけた陽の光を反射して輝く銀の髪と青い瞳の色に近い薄いブルーの部屋着姿のアメリアに見惚れ、ステラはしばし言葉を失った。
黙って入り口で立ちすくむステラに、アメリアは首を傾げながら笑いかける。ソフィはステラの心境を察して、少しだけ意地悪く笑った。
「姫様に見惚れているだけです、きっと。お気になさらなくていいと思いますよ?」
言われてハッとしたステラは慌てて傍近くへ寄る。カルロスもそれに従った。
「ステラにも散々言いましたが、今日は先日のような暴漢はおりませんでしたか? ステラがいくら腕が立つとはいえ一応女なのですから、もしもの時のために」
自分もお供を、と続けようとしたところでカルロスはステラに投げ飛ばされた。一応主君の私室内のため、調度類にぶつからないよう配慮して投げたが、不意を突かれたカルロスは無防備に床にたたきつけられ無様なほどの悲鳴を上げた。
「痛っっってぇーーー! おいこらステラ! なにすんだ!」
「お前が余計なことを言うからだ」
「俺は心配してやってるんだろう?! 姫様に何かあったらどうすんだって話だよ!」
「二人ともうるさい」
冷静なソフィの声に、ステラ達の動きがぴたりと止まった。
「今のは兄さまが悪い。一応って何、ステラ様は女性でしょ? それに姫様のお部屋で暴れてケンカするなんてありえない。続きはお外でやってください」
両手を腰に当て睨み上げる顔は若干十四歳の少女とは思えない迫力で、二人は小さくなりながら『申し訳ありません』と頭を下げた。
それを見てもまだ言い足りない様子のソフィの服を、後ろからアメリアが引っ張った。それくらいでいいよ、という合図らしく、ソフィは肩を竦めてアメリアの髪結いに戻った。
ソフィに怒られた勢いで床に正座した二人は、改まったようにアメリアに問うた。
「姫様、先ほど街で二人にお薬を渡していらっしゃいましたよね。あれは何ですか?」
アメリアが、ああ、と頷くのと同時に、ソフィが代わりに答えた。
「それは、私とローラさんで作った飴です。姫様に相談されて……」
アメリアは、街の人たちが困っていて自分の力が及ぶものであれば助けたいと考えて街へ下りるようになった。
ただ、自分の身分と力が広く知られることだけは避けたかった。
王女だと分かれば当然民は遠慮をする。壁が出来る。そうすれば困っていることをそのまま相談してもらえなくなる。
そして何より自分には呪いの伝説がある。アメリア自身や父王がどう思おうと、民にとっては関わりたくない存在だろう。それでは救うことなど叶わない。
「だから、姫様が治したんじゃなくて、お薬が効いたってことにしたらどうかって話になって」
「それで……あの飴を?」
「はい。もちろんお薬でも何でもないですけどね」
そしてアメリアに促されてソフィが小箱を持ってくる。その中には色とりどりの真珠大の飴が山ほど入っていた。
「これは……綺麗なもんだな。それに飴とは、一石二鳥だな」
感嘆しつつカルロスが感心する。ステラも頷いた。意味が分からないアメリア達が顔を見合わせるのでステラが説明を加える。
「甘いものは糖分が多いでしょう。体力が落ちた時や疲れているときは直接栄養として吸収されやすいんです。何も食べたくないときも、飴なら口に入れておけばいい。軍でも行軍するときには必ず持参します」
アメリアとソフィは嬉しそうに顔を見合わせる。見た目と味だけで思いついたものにそんな効果があるとは知らなかった。
(もっとたくさん作って配ることは出来ないかしら……)
アメリアは新しいアイデアに没頭し始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます