三
シエルという少女に見送られ、アメリアは雑貨店を後にした。あれこれ聞きたそうにしているカルロスを制してステラと二人は距離を置いてからついていく。
「……姫は何をしていらっしゃったんだ?」
「戻ってから説明する」
「だって髪が……」
「仕方なかろう」
カルロスを煩がりつつも、ステラも心の中では同意していた。そしてアメリアの心中も。銀の髪に対するアメリアの複雑な思いは、とても一言では言い表せない。
街から大分離れ人影が見えなくなったところで、アメリアがくるりと後ろを振り返った。そして二人に手招きをする。ステラより早くカルロスが駆け寄った。
「どうして街へ行かれていたのですか? 初めてではなさそうでしたね? あの少女たちとは顔見知りのようでしたが、いつお知り合いに? 街は危険では? いつもステラがお供しておりますか? まさかおひとりということではありませんよね? どうして髪の色を変えていらっしゃるのですか? 陛下はご存じなんですか?」
怒涛の勢いで問いかけ続けるカルロスに、アメリアは目を白黒させる。そもそもアメリアはカルロスと直接会話が出来ない。それなのに懸命にカルロスに答えようと身振り手振りで手足をパタパタさせている。
ステラはカルロスの首根っこを掴んで後ろに引き倒した。油断していたらしいカルロスは、そのままひっくり返る。
「うおっ?! おい、ステラ、何するんだ!」
「控えろ。姫様を怖がらせるな」
抗議するカルロスを見下ろして切り捨てながら、アメリアに近寄る。
「私もお話伺いたいです。このままお部屋へ伺ってもよろしいですか? おまけもついてきそうですが」
おまけ扱いされて口をへの字にするカルロスと、ほっとしたように笑って頷くアメリアと三人で城の中へ戻って行った。
◇◆◇
ローラが出してくれた茶に口をつけながら、アメリアが先ほどのカルロスの質問に一つずつ答えていった。
答えるといってもアメリアがステラへ話し、それをステラがカルロスへ伝える。カルロスが追加で質問をすれば、それをステラが仲介してアメリアへ伝える、という伝言ゲーム状態だった。
「はじめはね、ローラに聞いた話がきっかけなの。ローラから、街には病院が少なくて怪我や病気をしてもお医者さんにはかかれないから、小さな子供やお年寄りが亡くなることが多い、って聞いて。私、自分の国のことなのに全然知らないんだなぁって思って、抜け出したの」
「市場とか、食堂とか、仕立て屋さんはあるの。でもローラが言う通り薬屋さんや病院はないの。あってもすごく値段が高いみたいで……」
「お父様に相談したの。もちろんご存じだったわ。だけど医師をすぐに増やすことは出来ないからもう少し待って欲しいって言われて。でも、怪我をして痛い人は今もいるでしょう? 私でも出来ることがあるんじゃないかって思ったの。私が街に行くなんてお父様が許してくれるわけないから、一人で、黙って……ごめんなさい」
ステラもカルロスも、アメリアの行動力と視点に驚く。
二人とも将来は国を支える有力貴族とならなければいけない立場として、民の生活状況は理解しているつもりだった。医師不足、衛生状態、経済の停滞も分かっている。それに対してサイモス王が打てる手を打っていること、軍費を減らして医療制度の充実を図ろうとしていること、更にそれに反対する勢力がいることも。
しかしアメリアはそれを一人であっという間に飛び越えた。国の思惑、貴族たちの力関係など民には関係ない。今困っている人がいるなら助けるべきだ。それだけで、乳母の世間話に真摯に耳を傾けて、出来ることをしようとした。
「しかし、その髪は……」
「これは……ローラとソフィに手伝ってもらって染めてるの。銀の髪なんてあまりいないでしょ。私だって知られたら怖がられるかなぁって思って」
「ソフィ? まさか我が妹のソフィのことですか?」
カルロスは目を丸くする。アメリアは彼を見てニコリと笑い、ステラへ答えた。
「あとね、この服と靴も用意してくれたの。皆には内緒にしてって私がお願いしたから、ソフィのことは怒らないでね」
ステラもカルロスも、何も言えなかった。
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