二
アメリアは慣れた足取りで街道を歩いていく。見失わないように、アメリアに危険が及ばないよう周囲に気を配りながら、ステラは少し離れて後ろをついていった。
しばらくすると雑貨屋らしき店に到着し、扉を開けて中へ入る。少し躊躇したが、店だから客を装えば大丈夫だろうと、ステラも中へ入った。
「おや、エイミィちゃん、今日も来てくれたのかい?」
中にいた女主人がアメリアを見てすぐ声をかけてきた。アメリアは頷いて、手元の紙を見せる。
「ああ、シエルの心配をしてきてくれたんだね。ありがとう。奥にいるから、入っておくれ」
アメリアは頷いて奥の扉を開けて中へ入っていった。
アメリアは今でも父王とステラ以外とは会話が出来ない。それは街の民とも同様らしく、筆談で通しているのだろう。
じっと奥の扉を見つめ続けているステラに、女主人が声をかけてきた。
「いらっしゃい、ここらでは見ない顔だね。ここは何でも揃っているよ。入用のものが決まったら声かけとくれ」
ステラは頷いて、時間つぶしも兼ねて店内を見回す。折角だからアメリアが使えるものを、と、髪飾りやショール、使いやすそうなポーチを選んだ。
「おやまあ、可愛らしいものを選んだね。もしかして好きな娘さんへの贈り物かい?」
ステラは思わず顔を赤らめる。その反応を見た女主人は明るい笑い声を立てた。
「いいねえ、若い人は。じゃあ綺麗に包装してあげるから、ちょっと待ってな」
そう言ったとき、店の外で数人の叫び声が聞こえた。驚いて外へ出ると、剣を振り回す数人の男に、一人の騎士が囲まれていた。
「おいおい、いくら騎士様でもさぁ、五対一で勝てるわけねぇだろお?」
「俺たちの得物のほうがお前さんの綺麗な剣より強いしな!」
「あんなの飾りだろ? どうせならそれも置いて行けよ、なぁ!」
一人が叫んだのを合図に五人が一斉に騎士にとびかかった。遠巻きに見ている群衆から再び悲鳴が上がる。だが金属がぶつかり合う音が数度聞こえた後は、五人が地面に転がっていた。
「たとえ一人だとしても、ならず者数人程度を倒せなくて騎士は名乗れないさ。さあ、あの女性から奪った金を返してもらおうか」
どうやら連中はかっぱらいだったようだ。騎士はそれを咎め、奪い返すための一戦だったらしい。
「ちっ、……つってよお、正直に渡すわけがねえだろうがっ!」
叫んだ男が手に持っていたナイフを投げ、その隙を狙って逃げようとした。
それを先読みしたステラは、店から飛び出して男に足払いをかけた。ぐぇ、と無様な声を立てて地面に転がった男の背に馬乗りになり、両腕をねじ上げて身動きを封じた。
「これはすまない……、ってなんだ、ステラか」
「何やってるんだ、カルロス」
「何ってそりゃ……お前こそ」
件の騎士は、フローベルグ伯爵家の長男でステラの友人でもある、カルロス・ラ・フローベルグだった。
暢気に会話を交わす二人の目を盗んで逃げだそうとする男たちに気づき、ステラは目配せをする。それと同時にカルロスが四人に小石をぶつけた。後は見物人の男たちが縄で縛りあげてくれた。
ステラが仕留めた男を、カルロスが引っ張り上げて街の男衆に引き渡す。やっとひと段落着いたところで、先ほどの女店主が歓声を上げて拍手した。
「すっごいじゃないか、あんた達! 最近ここらは治安が悪くてねぇ、ありがとうね」
豪快に笑ってカルロスとステラの肩をバンバン叩く。二人としては当然の役目を果たしたまでだったが、こんなに直接的に感謝されることは少ない。
気恥ずかしくも嬉しく感じていると、店の扉がカランと音を立てて開いた。
店から顔を出した人物を認めて、カルロスが驚きの声を上げる。
「ア」
続きを叫ぶ前にステラがカルロスの向う脛を蹴っ飛ばした。
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