マリアンヌを投獄すると、サイモスはすぐに重臣と側近を集めた。

 まずは今回の事件の首謀者がマリアンヌであることは、何があってもアメリアには知られないようにする、というのが、サイモスの一番の要望だった。

 無論、クラウスをはじめサイモスを慕う側近たちは言われるまでもなく心得ていた。たとえ母娘関係が悪かったとしても、実の母に命を狙われた、と知って平然としていられるはずがない。まだ幼いうえに、その容姿のせいで人一倍臆病なのだ。


「では私はこれからサドベリー侯爵家へ向かいます。事情説明もありますが……」


 厳しい表情のクラウスに、サイモスも同じく顔を固くして頷く。


「あの侯爵は、先王に対して反抗的だった。それもあって娘を妃に迎えたのだが……。冷静に受け止めることが出来るか危うい」

「万が一の事態も?」

「無論、こちらも準備をしておく。ただし極力内乱は避けたい。クラウス、お前に侯爵との交渉についての全権を授ける。頼んだぞ」

「っ、お任せを!」


 膝をつき、主君に対する最上礼をする。彼に同行する騎士たちもそれに倣った。

 ふっ、と、サイモスは微笑む。


「ステラは置いて行ってくれ。アメリアのために」

「我が娘が姫様の支えになるなら、いかようにでも」


 そして立ち上がると、足早に広間を出て行った。

 残った者たちの中で、シャルドン伯爵が挙手した。


「陛下は、この後どうされるか、お考えを伺ってもよろしゅうございますか?」

「我が国の法では、王家、特に王位継承権を持つ者を害そうとする行為は死罪と決まっている」


 背を真っすぐに伸ばし、玉座に座ったまま、サイモスは一切の感情を消し去った声で答える。

 シャルドン伯をはじめ、その場にいた者は、想定していたとはいえ王が迷うことなくその結論を示したことに身震いがした。


「……実行犯の侍女は」

「法の通りだ。アメリアだけでなく、ハウエルにもマリアンヌの所業を知られるわけにはいかぬ。両名とも数日中に刑を執行する、内密に」

「他の関係者については」


 シャルドン伯の問いの意味を、分かっている、というように、サイモスは瞬きで頷いた。


「私が直接調べる。そなたたちは、クラウスからの連絡を待て。サドベリー候の反逆に備えよ」


 ざっ、と音が響くような一同の叩頭を見渡すと、サイモスは立ち上がり、広間から出て行った。


◇◆◇


 サイモスはまず、アメリアを襲った侍女が捉えられている牢へ向かった。

 ここ数年、城内で罪人を捕らえたことはなかったため、牢内は空気が淀み、埃が厚くたまっていた。

 最奥の牢の前に兵が立っている。王の訪いに驚いて敬礼した。

 サイモスは彼らの背後に声をかけた。

 牢内のルイーズは、サイモスから顔を背けたまま、深々と頭を下げた。


「お前が、妃の手の者か」

「……国王陛下でいらっしゃいますね」

「なぜ妃はこんな真似をした」

「アメリア様、初めて間近でお会いしました。本当に美しい銀の髪で」

「妃一人ですべて考えて実行したわけではあるまい」

「ほとんど口がきけないというのは本当だったのですね。私が手をあげたときも悲鳴一つあげないで」


 ガァンッ! と、地下全体を揺るがすほどの音響と衝撃が広がった。サイモスが力任せに牢の柵を殴りつけた音だった。


「本当は誰の指示だっ?!」


 ルイーズは暗闇の中、その白い顔をゆっくりと動かした。


「陛下が思い描いている方ですわ」


 サイモスは驚くよりも納得した。そして振り返ることなく、その場から立ち去った。


 本当の首謀者を糾弾するために。

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