第63話

チーム1の稼働日がやってきた。


学校じゃ常に3軍の陰キャである僕が、冒険者チーム『ローストーン』の1軍になる日がくるなんて。

今頃家で海外ドラマを見ているお母さんも感動して涙を流してくれているはずだ。


「おすっ、シロウくん」

「おはっ、瑠璃さん」

最近じゃあプライベートで連絡を取り合うようにもなった瑠璃さんとハイタッチをかわして挨拶をする。

僕がハイタッチをする日が来ようとは、今頃家で海外ドラマを見ているお母さん……以下略。


「バンガスさんが後で来るようにって言ってたよ。シロウには大事な仕事があるからって」

「大事な仕事……」

チームの顔としての記念撮影だろうか?たぶんそうなんだろうな。照れるけど、仕事なら断れないよな。やれやれ。


「変なこと想像してない?」

また!?いつもばれる。僕が調子に乗ったことを考えると、すぐにばれてしまうのはなぜか。

気づいていないだけで、滅茶苦茶顔に出るタイプなのかもしれない。


というか、今までの見抜かれている結果から考えるに、間違いなくそうだ。


ローストーンの本拠地に集まった僕たちは、いよいよでかい作戦に向けて動き出すと聞いてる。

成神さんやアスナロさん、ウェズリーさんの姿も見える。

みんななんだかんだでチーム1に合流していた。あれだけの実力があって、チーム2で腐らせるなんてことはないと思っていたけど、やっぱり上がってきたか。


集められた数は30人にも上る。

この大人数でビンゴ大会とかやったら盛り上がりそうだけど、流石にそれはないだろう。


49階会議室に入った僕たちは、会議室にある長い机に各々着席していく。

前方にある大きなスクリーンの前にはバンガスさんとアイリスさんが立っていた。

近くでPCをいじっている博士の姿もある。中心人物が勢揃い。いよいよ、ローストーンが本格的に動き出す。


「みんなよく来てくれた。ではさっそくだが、『東京第8ダンジョン占拠戦』についての会議を始める」

バンガスさんが言っていたでかい仕事というのは、これのことだった。


まず僕のように新規加入かつ知識の乏しい人向けに簡単な講習が行われた。

占拠戦とは、その名の通りダンジョンを占拠することである。


今回のターゲットとなる東京第八ダンジョンは、日本の繁華街新宿歌舞伎町のど真ん中にあるダンジョンだ。

ダンジョンはその特性上、ずっと放っておくと魔物が外に溢れてくることがある。

大都会の真ん中に魔物が現れるなんてことが起きてはいけないので、東京第8ダンジョンのようなダンジョンは常に徹底的な管理が必要とされる。


以前までは国が管理していたのだが、今後は積極的に民間の冒険者チームに任せていこうという政策が先日決まったばかりだ。国会で満場一致の拍手で決まった政策らしい。


そこでダンジョンの管理に名を挙げたが、我らがローストーン、そして同じ規模の『青龍会』である。


どちらも大手冒険者チームだ。

バックに大きなスポンサーがついており、共に強力な冒険者を要する。


ダンジョンを占拠する条件は、ダンジョンボスの攻略。今回は青龍会とのタイムアタックになるらしい。


どちらが先に獲物を仕留められるか。それで勝敗が決まる。


「ダンジョン占拠は旨みがでかい。ダンジョンからとれるものを独占できるし、ダンジョン名をスポンサーの名前に変更できる。ダンジョンを把握しきれば、人材の育成にも役立てることができる」

なるほど。結構すごい話だった。

ダンジョンの私物化か。考えてみれば、恐ろしいことだ。

絶対に取りに行くというチームの気迫を感じる。


相手の青龍会って、名前からするに結構イケイケなチームを想像してしまう。

まさか、陽キャか?陽キャ許せねー。僕は何がなんでも陽キャには負けられないんだ。


こちらの作戦は先手必勝。

ダンジョン最奥まで先に辿りつき、ダンジョンボスを先に葬る。

言ってしまえば、シンプルな仕事だ。


「しかし、想定されるトラブルは多い」


一覧にして出される。

単純にフィールドに苦戦しての足止め、通常の魔物での時間の浪費、さらには青龍会からの妨害が大きな項目としてあげられる。


そして、一番の課題だと思われるのが、このダンジョンとんでもなく深い。

地下へと続くダンジョンは、下手すれば往復するだけで1週間を費やしてしまう。


とんでもない規模のダンジョンだ。そりゃでかい会社を背負っているローストーンが欲しがるのは無理ない。

占拠後は、たぶん会社ごと乗り込むんだろうなー、ダンジョンに。


鉱石があれば重機とか使って掘り出すのだろうか?いろいろ想像しちゃう。

僕たちに大金を費やしているので、企業側も当然でかい見返りを求めるはずだ。


「今回の占拠に成功した暁には、でかいボーナスが待っている。みんなそれを楽しみに頑張ってくれ」

なんともわかりやすいモチベーションだ。

気持ちで応えるなんていう組織はあまり好きじゃない。ブラックですよね!それって!


さらに説明が続く。このダンジョンは不思議なゲートの性質があり、みんな同じ場所から入るにも関わらずスタート地点が違う。

広い一階のどこかにランダムで飛ばされるのだ。


そこから下層目掛けて下るのは一緒だが、合流までに一度段階を踏む必要がある。


「今回は総力戦だ。そのためほとんどをチーム1に引き上げている。全員の力が必要だ。抜かるなよ?」

会議が進んでいくごとに、空気が引き締まる。

みんな今回のでかい作戦の重要さを理解したようだ。


僕は800万円のジャージを購入したときから腹をくくっている。

悪いが、面構えが違う。

背負っているものの重さが違うんだ!


「それぞれの役割編成に入る」

ざっと大きく分けられたのは、先ほどの三つの役割だ。


青龍会からの妨害対策チーム。

主だったメンツは成神さんとアスナロさん。他は知らん。

妨害は表向きには禁止されているが、青龍会のチームカラーからしても避けては通れない道と思われているらしい。

ダンジョン協会の人間も監視で来るが、抜け目はいくらでもあるとのことだ。

特に、ダンジョン深くでは……。


次に魔物駆除チーム。

ここにアイリスさんとバンガスさんが入った。

うっそだろ!?アイリスさんそこ?


チームのナンバー2って話だよね?そっちなの?

ありえないって、ここに僕の名前がないのがありえない!僕もアイリスさんと一緒に行きたい!


心で苦情を入れている間に、最後の編成が発表される。最後に、僕たちボス攻略組にして、最速でダンジョン最奥を目指すチーム。

瑠璃さん、僕、ウェズリーさん、博士。そして、なぞの眼鏡の女性。


うっそだろ!?ウェズリーここ!?

ありえねーよ!この編成。やっぱり僕も魔物駆除チームがいいです。

ウェズリーとだけは嫌です!


「この編成は私が適正を見極めて勝手に決めたものだ。異論がない限りこれでいく。そして難易度、労力の都合上、やはりボス攻略組の報酬を大きくせざるを得ない。そこも不満があれば聞くが、今のところ変更する予定はない」


……なら僕はボス攻略組でいいかな。

任されたなら仕方ないよね!

ダンジョンボスの攻略もあるし、魔物駆除チームの援助も最後らへんは受けられないだろう。さらには、青龍会とのいざこざがなければいいけど……。


でも、ウェズリーとアイリスさんを交換してください!切実に!


会議が終わり、少し談笑する時間があった。

僕はこの時、瑠璃さんからとんでもない話を聞く羽目になる。

「ねえ、アイリスさんとバンガスさん、できてるって噂よ。あんまり言いふらしちゃ駄目だよ」

瑠璃さんにとんでもないことを耳打ちされた。

僕も、できれば聞きたくなったかな……あははは。


それもあって、二人は同じチームなのか。

「アイリスさんがバンガスのことを心配して魔物駆除チームに入ったらしいよ」

追い打ち!

別に良い雰囲気とかでもなかったけど、全然手の届かない存在だったけれど、でもなんかショック!


多少放心状態になりながら、会議後にバンガスさんの元へといった。

なにか僕に告げる大事な用事があるらしい。


「シロウ君、よく来てくれた。今回の作戦、頭に落とし込めたかい?」

「はい、でかい作戦で少し萎縮してますけど、やることは理解しました」

「そうか。助かる。君はボス攻略組だけど、ボスは博士、瑠璃、ミカンの三人が主な戦力なんだ。君とウェズリーにはほかに仕事ある」

な、仲間外れってコト!?


「特に、君の召喚魔法が今回の作戦では、青龍会を出し抜くための重要な力となる」

会議では伏せていた、作戦の全容を聞かされる。わざわざ個人的に伝えるとは、情報の漏洩を恐れたのだろうか?

それだけ今回の仕事にかけているのだろう。


バンガスさんの狙いを理解する。


僕とウェズリーさんはあくまで役割があってのボス攻略組か。

楽だからいいか。

陰キャは陰キャらしく、地味な仕事に邁進しよう。それがいい結果を生むに違いない。





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