第11話
楽しみにしてた日曜日が来た。
なんと彩さんから直接チャットアプリに連絡が来た。
新宿駅東口で待ってるから。11時に集合。かわいいスタンプが三個くらいセットでついてきた可愛らしい内容だった。
永久保存したいくらいに尊い。
なんかこのチャット、良い匂いがする気がする。
なんかふわふわしたオーラも漏れ出ている。
女子とのチャットアプリってこんなにも楽しいのか。
ただの時間の約束がこんなに楽しいだなんて、陰キャの僕は知らなかったよ。
新しい扉を開いてしまった感じがする。これが、大人への一歩ってやつか。
新宿駅の約束の場所に着くと、そこには既に彩さんがいた。
制服姿は清楚な感じだったけど、今日はショートパンツにブルゾンを合わせており、いかにも最近の若者って感じがする。
僕は母親が買って来たパーカーに長ズボンと、どこにでもいる陰キャスタイルである。
「あっ、彩さん。お待たせしまた」
「待ってないよ。私も今着いたところだから」
そう言って貰えるととても気が楽だ。
彩さんと待ち合わせだというのに、僕のほうが後についてしまうとはなんという不覚。本来なら先に到着して、ドリンクのカフェのドリンクでも渡せれば僕も陽キャという人種になれるのだろうか。
これだから陰キャってやつは。と自分を責めておく。
お小遣いも母親から貰っているので、今後の気配りでかっこいい男になろうと思います。はい。
「ねえ、キャロちゃんは?あの日、5時間くらいで魔界に帰っちゃったみたいで」
「そのくらいでいつも強制的に帰らされます。良かったら後で召喚します」
「おっ、わかってるー」
彩さんが嬉しそうに僕の肩をぽんと叩いてくれた。
これがボディタッチというやつか。
女性と待ち合わせに引き続き、ボディタッチまでも。僕はもう引き返せないところまで来たかもしれない。
彩さんの周りの空気を精一杯独占しようと深い呼吸をしていると、人混みから一人異質なオーラを纏った人物が出てきた。
全身デニムコーデの長身イケメン、連君だった。
何を着ても様になる顔とスタイルの良さだけど、デニムコーデは男の僕から見ても惚れ惚れする格好だった。
レトロなのに、なんか新しい。
かっこいい!これが陽キャの上を行く、孤高の男=孤キャなのか。
僕の2段上にいる人は流石に違うな。
いつか僕も孤キャになりたい。
「すまん。電車が遅れた」
「ったく、それも想定して早めに出てよね」
「想定したんだが、それを上回る遅延だったんだ」
「それを更に想定して、もっと早くでるのよ!」
「無理を言うな」
なんだか二人は仲が良さそうだ。
美男美女同士で、お互い高魔力同士だ。そりゃ仲が良くても不思議ではないか。
ちょっと嫉妬である。
陰キャが孤キャに嫉妬とか、なんておこがましいのか。
「それじゃあ、揃ったし行くよー。遅れたら連れてかないからー」
「はいっ!」
彩さんの従順な僕となっているので、小走りでついていった。
連君は遅れた責任を感じているのか、黙って着いてきてくれた。
彩さんの隣は僕が貰う!悪いね。
目的のビルまで隣を確保したけど、会話が弾まなかったのは陰キャの定めでして。
ちょっと気まずいので、キャロに助けて貰った。
話しが弾まないなら、工夫が必要だよね。
キャロを召喚して彩さんの気を惹いておいた。
ご機嫌になってくれるし、僕との気まずい時間を苦痛に追わないですむし、流石キャロである。
到着した会場はビルのワンフロアを貸し切った広い部屋だった。
会場は立食形式で、中にはダンジョン冒険者たちが既にいた。
それぞれに伝手を利用して集まり、ここで目当ての人材をスカウトするつもりなのだろう。
100名はいるだろうか。
僕たちが到着すると同時に、視線が多く集まった。
キャロの可愛さや、彩さんの美しさに目を引かれたわけではなかった。
当然だが、今日の目玉である連君に注目が集まる。
ダンジョン冒険者たちはスカウトに来ているので、連君の情報を下調べしていてもおかしくない。
ダダっと駆け寄るダンジョン冒険者たちだったが、主催者らしき男性に間に入られて順々に声をかけるように伝えられていた。
人気者も大変だ。
「シロウ、私たちはこっち」
彩さんに手をギュッと握られて、会場の隅へと連れていかれる。
連君が別格の評価をうけることは知っていたみたいで、僕たちは別のグループと接触するのが目的らしい。
連れていかれた先にいたのは、30代の男性二人と、20代くらいの美人さんがいる3人グループのところだった。
「彩ちゃん、いらっしゃい。連君を連れてきてくれてありがとう。それと、もう一人いるみたいね」
「あっ、はい。こんにちは」
一日で二人の美人と話してしまった。もう僕は陰キャでいられないかもしれない。
陰卒である。
「おう、彩。お前、そろそろうちに入れ。連のやつと一緒にな」
「はーい、でも一応他のチームも話を聞くよ。イケメンいるかもしれないし」
イケメン!?
そんな判断基準でダンジョンに入るチームを決めるの?
いや、ダンジョンの探索は数日間に及ぶと聞くし、実際そういうった点で決めたりするのだろうか?
嫌だあああああああああ。彩さんがイケメンにとられるなんて嫌だああああああ。
「で、そいつはだれだ?学校のつえーやつを連れてこいって言ったよな?」
彩さんに高圧的に話しかける男性がいた。
リーダーっぽい人と、美人さんは感じの良い人なのに、この人はなんか嫌な感じだ。
陰卒できたはずなのに、僕はこういう怖い人を目の前にするとちょっとだけ気圧されてしまう。まだ陰キャのままらしい。
「彼強いとおもうよー。なんとなく感じるだけだけど」
「おう、強者の感ってやつだな」
リーダーっぽい人の補足が入った。強者同士はそういうテレパシーが使えるみたい。あれ、僕全然わからないんだけど。
「お前、魔力値はどのくらいだ?」
「……13000くらいです」
ちょっと盛っておいた。
ライガー君に力で勝ってたし、たぶんこのくらいだろう。
「くらいってなんだ。自分の魔力量を正確に言えないやつなんていんのかよ」
「成長期だからってことでしょ?」
美人のお姉さまがフォローしてくれた。
本当にたすかる。
「成長期だからです。今はもう少し増えているかもしれません」
「まあどうでもいいわ。俺が言いたいのは13000の雑魚を連れてくるなって話だ」
13000が雑魚っていう情報がびっくりである。
平均値以下の僕からしたら化け物みたいな数値なのに、ダンジョンに入る人たちからしたらこの数値は雑魚になるのか!?どんな世界だ。
本当にとんでもないところに来てしまったかもしれない。
「魔力値が低くてもダンジョンで役に立つやつは多い。特殊な魔法を使う子かもしれないしな」
厭味ったらしい男以外はみんないい人だ。
こいつ嫌い。でも陰キャだからなにも言い返せません。
「ちょっとこい。魔力測定値がある。最新のやつだからよ、正確にかつ詳細に調べられるぜ。ただの雑魚だったら蹴飛ばしてやるからな」
襟首を掴まれて、僕は測定器まで連れていかれる。
カプセル型の測定器で、そこに体を入れてスキャンすれば測定できるのだ。
測定に使われる物質もダンジョンから得たもので、今なお世界中から需要のある物質である。だからこそ気軽に測定できないのだが、ダンジョン冒険者たちの集会には最新のものがあった。流石というほかない。
「魔力量だが、彩が4万。連のやつは10万あるぜ。13000そこらの数値のやつが来てんじゃねーよ。測定して、恥でもかいてな」
僕はそう言われて強引に測定機に入れられた。
……恥をかく未来が見えます。
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