第12話

公開処刑とでも言おうか。


嫌味な男が荒っぽく事を進めるものだから、会場の視線がこちらに集まってしまった。

連君は相変わらず人気だから、7割くらいの人はこちらを見ていた。

野次馬や、単純にどのくらいの魔力量なのだろうという純粋な興味を持った人たちなのだろう。


これで本当に低い魔力量だったらどうしよう。

そんな恥ずかしい瞬間を迎えるくらいなら、セミにでもなってコロリとこの世から消えてしまいたい。


カプセル内に入った僕は、後は測定結果を待つだけだった。

外に数値が0から上がるように表示されているはずだが、僕からはどうなっているかわからない。


しばらく待って、カプセルの蓋に備え付けられたガラス部分から外の様子を伺うほかなかった。

しばらく経つと、先ほどの嫌味な男性がカプセルを開けてくれた。


「ちっ、まあ悪くねーんじゃね?」

なんか納得いっていないような反応だな。

それはつまり!僕の公開処刑が失敗したことを意味する。


この人が笑っていれば僕が死ぬ。この人がこんな態度なら僕の勝ちだ!ざまぁ!!!

などと心では思っているが、口には出していない。

出せるわけもない。


カプセルの外側にあるモニターには、僕の魔力量が表示されていた。

「うわっ」

思わず僕も声が出た。

『21567』


そこに表示されていた数値は、僕の想像をはるかに上回っていた。

13000でもあったら公開処刑は免れると思っていたが、まさかまさかの2万越え。信じられない。

これだけ魔力量の差があれば、そりゃライガー君を殴り飛ばすくらいできるかもしれないな。

ここ最近の好調具合がこの魔力量で全て説明がついてしまうが、肝心な魔力量の説明がつかない。


成長期にはグイグイ伸びると聞いたが、こんな例は聞いたことがない。

いくらわからないことが多いと言われる魔法や魔力でも、こんな成長なんてあり得るのだろうか?

いや、起きているからあり得るのか。


だれか詳しい人はいないのだろうか?

僕自身が一番信じられなくて混乱いるので、周りに説明を求めても無理な気はするけど。


「やるね君。しかも成長期なんだって?3万を超えたら結構引く手数多だよ。うちのチームの話も後で聞いていきなさい」

紳士風の男性が近寄って名刺を渡してくれた。

なんだかさっきとは違う意味合いで僕に視線が集まっている。


このただの陰キャの僕に。

いや、ただの陰キャではないのか。魔力量2万越えの陰キャだ。パワー系陰キャ。

陰キャでも魔力量さえあれば存在意義があるみたい。


「うちもどうだね」

「こっちも良かったらどうぜ」


イケメンで10万越えのレン君、美人で4万越えの彩さんがいるのに、2万越えの陰キャにこんなに人気が集中するなんて。

いや、ざっと見た感じどこも見聞きしたことのないダンジョン冒険者チームだ。

さては連君や彩さんを鼻から諦めているチームだろうか。そうに違いない。


やたらと高級スーツを着ている人たちは今も連君の周りに集まっているからね。

あちらは有名チームばかりな気がする。雰囲気からして少し別格だ。


「ありがとうございます!全部貰います!」

しかし、よそはよそ。うちはうち。貰えるありがたいお話は全て頂きます。あとから選別するためにも名刺は全て貰っておいた。


その中でも一人、掘り下げて話しかけてきた人がいた。

「君、もしかして召喚魔法の人?」

「はい、見てわかるものですか?」

質問に質問で返す陰キャムーブ。けど、気になったので仕方ない。


「いいや、見てわかる人はいないと思うよ。僕はほら、こっちで知っただけ」

スマホをかざして僕に何かを見せようとしていた。

そこに移っているのは、僕の動画投稿サイトのアカウントだった。


「うちは召喚魔法使いを探しててね。おすすめにシロウ君のチャンネルが出てきたよ。アイデアが素晴らしくて何度も見させて貰った」

視聴者いたあああああ。


「凄いよね、再生数は軒並み10万越えだし、チャンネル登録は1万人に迫る勢いだ。SNSのほうと合わせると、もう1万2000弱か。こっちでもやっていけそうだね」

「はい!」

いや、はいじゃない。

「違います。今のは。僕もダンジョンに行ってみたいんです。それで通用せず駄目そうなら、また動画投稿者の道も考えてみます」

「そうか。ダンジョンに憧れる若者が増えているのは知っているが、厳しい道だよ。魔力量3万を超えるような人でも苦労する世界だ」

噂では聞いているが、実際にダンジョンに行っている人が言う言葉は重みが違う。


それでも、せっかく得た機会だ。

ただの陰キャに幸運のチケットが舞い降りたのだ、参加するのが筋ってもんでしょ。

「それでもやってみたいです」

「いいね。私はバンガス。本名は別にあるけど、ダンジョンでは皆ダンジョンネームを使うんだ。今じゃバンガスを名乗る方が好きでね。君もいずれ決める機会があると思うから、今のうちから考えときなさい」

「はい、わかりました」

バンガスさんから名刺を受け取り、一度握手を交わした。


僕の能力を知り、魔力量を知り、その上で僕を必要としてくれている。

こういう人に着いていきたい。そう思った。


そう思った自分がいるのは確かだった。

けれど、僕は大量の名刺をポケットにしまって、従順なる僕らしく彩さんのもとに駆け戻った。

バンガスさんのような人に着いていきたい自分もいるけど、彩さんのような美人さんと同じチームになりたい自分もいる。

人はなんて難しい生き物なんだ。僕はこの世の難しさにまた触れた気分だった。


「シロウの魔力見たよ。2万越えだったじゃん」

「はい、彩さん程ではないにしろ悪くない数値でした」

いいじゃん、と彩さんが笑顔でグーサインをくれた。

僕もぎこちない笑顔と震える指でグーサインを作った。

……これがリア充の世界か。なんて気持ちが良いんだ。


「シンヤさん悔しそうにしてたよ。あの人25000しかないから、いっつも弱そうな学生さんを見つけては虐めてるんだよね。シロウがあんまり魔力低くなくて威張れないと悟って隅っこと大人しくしているわ」

先ほどざまぁを決めてやった嫌味な男性、しんやさんは会場の隅で佇んでいた。

彩さんの言う通り少し寂し気な姿にも見える。


ざまぁを決め過ぎたかもしれない。

「でも25000って凄いんじゃ」

「シロウは成長期でしょ。すぐに追い越されると思ってビビってるのよ。25000じゃトップ層でも通用しないし、ああやって下の連中イジメて楽しんでる哀れな人なの。今日のことは許してあげて」

優しい。なんて優しいのだ。彩さんの優しさに免じて、嫌味なしんやさんのことは許してあげることにした。


「おい彩、全部聞こえてんだよ」

しんやさんが不機嫌そうな顔してこちらに歩み寄ってくる。

「聞こえるように言ったからね~」

彩さんが飄々とした態度で言い返した。かっけええ、彩さんかっけええ。


「調子に乗るなよ、陰キャくさいガキ。お前なんて魔力が俺を越しても魔法の差で俺には勝てねーよ。なにせ俺の魔法は最高評価の炎魔法だ。てめーらのしけた魔法とは違うんだよ」

しんやさんの言う通り魔法には確かに優劣がある。

少し魔力が違う程度なら、優れた魔法を得意とする人の方が、僕のような召喚魔法より強かったりするのは前々から知っている知識だ。


「大丈夫よ、シロウ。魔力量3万もいけば、その優劣も関係なくなるから。5000も開けば、あんたがしんやさんに負けることはないわ」

「……くっ。行けるわけねーだろ、こんなガキがよ」

しかし、ここでしんやさんが妙に冷静になった。


僕は魔力量13000だと名乗って、今日は21567だった。この成長力を今一度冷静になって振り返ったのだろう。本当はもっと伸びているけど。

もしかしたら3万を超えると思ったのかもしれない。

しんやさんが今一度僕に一瞥くれて、悪態をついて離れていった。


「てめーみたいな魔力量だけが高いやつなんてダンジョンじゃ通用しねーよ。馬鹿が」

何も発することなく嫌味なしんやさんを退かせた。

これが僕に備わる覇気なのだろうか。成長力の恐ろしさで他人を退かせるとは、僕もなかなかではないか。

今日二度目のざまぁを決めて、美味しい立食パーティーを楽しみ、ダンジョン講習会を終えた。


今日はいい出会いに恵まれた。

家に帰った後に、彩さんから送られて来た『今日は来てくれてありがと!シロウを連れてきた私の株も上がっちゃった。また今度遊びにいこうね』というチャットも最高だった。

モテ期は陰キャにも来るらしい。そろそろ玉砕覚悟で彩さんにアタックしてもいいかもしれない。

……絶対に無理そうだから、やはりやめておこうと思う。








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