第10話

楽しい時間が過ぎるのはやはり早い。


金曜日に学校へ行くと、周りの反応が今までとは全く違うものだった。

教室に入った瞬間、集まっていた陽キャグループがザっと離れていき、僕の席の周りが静かになった。


ささーと陽キャグループが僕から離れたところで再集結して、また楽しそうに会話し始めた。

気持ち声が控えめなのがなんとも可愛らしい。


僕としては絡んでくれさえしなければ、今までのように騒いで貰っても問題ないんだけど。

けれど、誰にも気兼ねなく自分の席に座れるのはありがたい。

常日頃から陽キャに席を搾取される陰キャはたくさんいるのだ。


そういえば、ライガー君が居なかった。

怪我してこれていないのか少し心配になった。


やはり気になって、陽キャグループさんたちへと歩み寄る。

ザザッと教室の隅に詰め寄る姿がなんとも面白かったけど、今日はからかいたいわけじゃない。


「ライガー君は?もしかして怪我でもしたの?」

屋上から落としておいて、こんな質問をするのもおかしいけど、あの超人具合を考慮するとそんなに変でもないか。


返事がないので、もう一歩近づいてみた。

これはただの意地悪だ。


もう奥なんてないと思ったけど、陽キャグループが更に小さくまとまった。

「し、知らない」

知らなかったか。それなら仕方ない。解放してやることにしよう。

意地悪はちょっとだけ面白いので、今後も何かと機会をみつけてはやるかもしれない。


解放してあげる際に、もう一回フェイントをかけて陽キャグループを驚かせておいた。やはり楽しい。


この日、結局ライガー君は来なかった。

用事があっての欠席らしいけど、まあ気に掛ける必要はないか。正当防衛だと思っているので、気に病むこともなく一日を平穏に過ごすことができた。


僕を裏切ったクラスメイトは許しておいた。

これが仏の心。


金曜日の放課後と土曜日も動画を投稿したけど、ネタはもちろんヴァネだ。僕も知らないことだらけなので、検証も兼ねての動画だからお得だ。

視聴者はヴァネを見れるだけで嬉しいし、僕はヴァネのことを知れるし。


ヴァネはキャロと結構性格が違っていて、面白い。

同じ魔物でも性格が違うというので、当然っちゃ当然なのだが、対照的な性格なので面白い。


キャロは懐いていこうずっと僕にべったりなタイプだ。撫でて撫でてとすり寄ってくる姿は愛くるしくて万人受けする性格だ。

大好きなチョコレートをあげると、ぴょんぴょん跳ねて喜ぶのだ。


ぴょんぴょんしている短い動画をSNSに上げたら万単位のいいねがきた。

やはりあの可愛さは正義だ。


一方でヴァネはずっとマイペースである。

室内をパタパタと飛び回っており、油断するとカブっとかみついてこようとする。

噛まれても一時的にヴァンパイア化するだけ問題はないのだが、現状ヴァンパイア化する必要はないし噛まれるのも痛いので躱している。


ヴァネの好物は何かといろいろ試しているけど、あまり興味をそそられないのか何も食べてくれない。

キャロのときは何をあげてもパクパク食べて、チョコレートを食べた瞬間に目がキラキラと光っていたというのに。

キャロが特別食いしん坊なだけで、魔物としてはこちらの方が普通なのかもしれないな。


何に興味を持つかわからないうちに、なんども噛まれそうになった。血にしか興味がないみたい。

食費が浮いていいけど、つれない態度だなー。もうちょっと構ってくれてもいいのに。


そういえば、動画投稿後に実家に大量の段ボール箱が届いた。

全て僕宛てで、変な詐欺にでも引っかかったのかと心配したのだが、段ボール箱を開けて真相がわかった。


中身は全てチョコレートだったのだ。

しかも、僕がいつもキャロに食べさせている100円くらいの安物じゃない。

なかなか手が出ない高級品や、海外のチョコレートまである。


ごくり。

キョロへの供物だというのに、めちゃくちゃ自分で食べてしまいたい。


一度蓋をして心を鎮める。

うむ、やっぱりちょっとは食べてもいいよね。


段ボールいっぱいにあるんだもの。見たことないやつをつまむくらいしてもキャロには怒られないだろう。

送り主に感謝して、チョコレートをパクリと食べた。


ガツンと来る甘さがなんともうまい。うますぎる。


まだ部屋でパタパタしているヴァネのもとにチョコレートを運んで行った。

後でキャロが美味しそうに食べている写真を撮って、感謝の呟きをしておこう。

僕も美味しく食べましたってとこは隠しておこうと思う。


部屋のチョコレートにも興味を示さないかと思ったけど、ヴァネはパタパタと段ボールの端に飛び降りてきた。


「興味あるの?」

さっき安物のチョコレートをあげてみたんだけど、興味をしめしていなかった。

もしやこいつ!?


いかにも高級そうなのを開けて、ヴァネに差し出してみた。

パクリと食べて、キャロと同じように嬉しそうに部屋をパタパタと飛び回る。


明らかにさきほどのゆったりした飛び方とは違う。

思いっきり喜びの舞である。


安物のチョコレートは食べられないってか!?

なんという高級魔物。


能力も凄いぶん、食べるものも厳選されるのか。

良い魔物を手名付けたいなら、それなりの対価は必要というわけか。僕もダンジョンに入れるような人になって、これから知り合う魔物への供物を稼がねば。


キャロも呼び寄せてることにした。

この供物たちはもともとキャロのものだ。キャロに食べさせる前に俺とヴァネで食べちゃったからそこは謝っておこう。


「召喚――」


いつものゲートから飛び出たキャロは、部屋に入ってきた瞬間から鼻をひくひくさせ始めた。


『甘いいい香りがします』

「さすがだね。実は視聴者さんからチョコレートがたくさん届いているよ。僕とヴァネが先に食べちゃったけど、残りは全部キャロのもの」

『きゃきゃきゃきゃ、チョコレートが一杯です!』

ダンボールに入ったチョコレートに気づいたみたいで、キャロが飛び付いた。


さっそく何個か開けてあげて、食べさせてあげる。

魔物にも食べ過ぎとかってあるのだろうか?


そんな疑問はすぐにキャロの態度からわかった。


『ううっ、食べ過ぎて気分が悪いです』

苦しんでいる姿もなんかかわいい。

「高級チョコレートは脂肪分も凄いっていうから。今後はちゃんと管理してわたすからね」

『あい、うぷっ。でも明日も食べる』

「明日ならよし」


ヴァネは流石にエリートらしく、一個食べたあとは手をつけようとしなかった。

自己管理能力が高い!


ヴァネとキャロが食べている姿はきっちりと写真に収めて、SNSに投稿しておいた。

チョコレートを贈ってくれた人に感謝のコメントをして、チョコレートはもう当分の間不要だということも書いておいた。


一人目から気合の入った人で、ダンボール一杯に送ってきたんだもん。

キャロとヴァネに食べる限度があると分かった今、これ以上のチョコレートは必要ない。

一か月はもつ気がした。


けれど、書き込むのが遅かった。

僕はキャロの人気を舐めていた。


家のチャイムが鳴って、玄関に出てみるとそこには更なるダンボールが届いていた。

それも5箱。中身は当然、全てチョコレートだった。


「ああ……」

時すでに遅かった。



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