第3話
なんだか今朝は目覚めが良い。
体が軽くて頭がすっきりする。
そうそう、魔法が使えるようになったこの世界では、当初へんな説が唱えられていた。
その人間の元々のスペックが魔力数値として表されているのだと。
まことしやかに言われていた情報だったけど、いつしか聞かなくなった。
魔力は魔法を頻繁に使うことで、筋トレや勉強のように伸ばしていくことが出来る。逆に何もしなければ下がってしまったりする。
なぜこんなことを思ったかというと、もしかしたらこの好調さは魔力量が伸びているかもしれないと思ったからだ。
最近は動画投稿用にたくさん魔法を使っていた。
魔法は疲れるからあまり使いたくないという層もいるから、ダンジョンに潜るわけでもないのに毎日使っている僕は結構頻繁に魔法の鍛錬を行っている部類になるのではないだろうか。
前回計ったのは学校の定期健診のときだ。
次はどのくらいになっているか楽しみだ。平均は行きたいよな、平均くらいは。
学校は魔法の使用が禁止されている。
旧来のスポーツなんかも当然禁止だ。魔法をしようした新しいスポーツなんかは登場しているけど、結構旧体制っていうのは残っているみたいだ。
そんな魔法が禁止された学校は、以前より明確にスクールカーストが定まっている感じがする。
イケイケな陽キャグループはより一層イケイケに、僕みたいな陰キャたちはより一層居場所がなくなっている感じがする。
魔法が禁止されているからといっても、そもそも魔力量が多い連中は肉体への強化も凄く大きい。
先日クラスで3番目に魔力が多く、将来はダンジョンに行くと豪語している陽キャA君がトラックに轢かれて、かすり傷で済んでいた。
信じられないが、これが魔力の暴力。
クラスではしゃいで話していた会話を横からこそこそと聞いていたのだけど、マジで!?とその凄さを心の中でなんど唱えたことか。
いくら優位性の高い魔法を使えても、頭が良くても、魔力量の多い者の振りかざすパワーは絶対の正義である。
この世界に魔法が誕生して以来、人間の本質的な格差というのは広がったように思う。
退屈な授業を終えて、僕は急いで家に帰った。
どれくらい視聴者がいたか気になって仕方なかった。変に生真面目なところがあるので、ずっと見ていなかったのだが、流石に一日経つと気になって仕方がない。
家に返ってマイページを見た。
アップした動画の一番見やすい部分に、視聴回数が見える。
驚いたことに、視聴回数が5000回を超えていた。
「げっ!」
声が出た。
50回行っていたらよしっ!100回行ってたら飛び上がって喜ぶレベルだったのに、5000回行ってしまった。逆に引くやつ。
しかも嬉しいことにチャンネル登録者が56人もいた。
すんごいことが起きている。
コメントも信じられないほど書き込まれている。
そのほとんどが上手くいかないだとか、もっと具体的に教えて欲しいとかの内容だった。
少なくはあったけど、感謝のコメントや、出来ました報告なんかもある。
気分が高揚し、心臓の鼓動がはやくなる。
なんだこれ。
まるで僕、世界の役にやっているみたいじゃないか。
うおおおおおおお、って叫びだしたくなる。
制服を脱いで、身軽な格好になって外を一周走ってきた。
うおおおおおおお、世界がようやく変化した気分だ。
魔法が使えるようになったあの日より興奮している。
あの時も興奮したけど、みんな使えると知ってすぐに冷めちゃったからな。
今度は違う。しばらく興奮していた。
けれど、いつまでも叫んでいても仕方ない。
こうなったら、また動画を投稿しなくては!
自分の意外な才能に気づいてしまったので、僕は新しい動画作成に入った。
やはり要望が多かった補足についてだろうか。
見てる感じ失敗している人が多いので、具体的なやり方の動画をもう一本作っておくべきだろう。
さっそくスマホをセットして、撮影に入る。
コメントにあった失敗談から、僕は召喚したいもののイメージをより鮮明にするように再度述べた。
一度召喚したものは、直に見て、直に感じることができるのでより一層簡単に召喚ができることも伝えておく。
僕が初めて何かを召喚するときは、こんなものがあったらいいなというアバウトなイメージで召喚したりする。
そしたらそれに近いものが召喚でき、それが気に入ったらまた同じものを召喚すればいい。
気に入らなければまた抽象的なイメージ戻して、より求めているものへとフォーカスしていくのだ。
「ちなみに、魔物の召喚も同じようにできます。呼び出した魔物をイメージし、それを呼ぶだけ。違えばまた修正して、理想の魔物が出るまでやるだけです。僕はそれを繰り返してお気に入りのパートナーと出会いました」
そう言って、さっそく実演に入る。
俺のパートナー魔物を召喚した。
「召喚――」
黒いゲートが生まれてきて、その暗い穴から額に赤い宝石のついた白く小さい狐のような魔物がヒョコッと顔をのぞかせる。
全体的なシルエットは狐だが、目が大きくて猫にも見える。
どちらにせよ、かわいくて最高だ。
「僕のパートナーのキャロです。魔物の種族名とかは知らないので、名付けはオリジナルです」
僕の顔の周りを浮遊してはしゃぐキャロはとても可愛らしい。
戦闘向けじゃないし、一回呼び出しちゃうと結構疲れるのであまり呼ぶことはないが、僕の使い魔と呼べる存在はこの子くらいしかいない。
使い魔は戦闘で負けるか、5時間くらい経つと元の魔界に戻ってしまう。
この可愛さも時間制限つきなのだ。
「凄く元気で、人懐っこい魔物です。魔物かな?ペットと呼んでもいいくらい可愛くて無害です。おすすめですよ。昨日の修理の金槌とこの子、呼び出せる人は試してみて下さい。召喚魔法は便利に使えば、結構楽しいですよー」
動画はこれで締めた。
補足と、新しい内容も含めた動画となっている。
最後に御礼も言っておいた。
これだけ見られて、コメントも沢山あったからとても嬉しい。
本当に感謝の気持ちで出した補足動画だった。
それがまさか。
まさか、まさか。
僕の信じられないことが目の前で起きてしまっていた。
「げっ」
動画出してすぐに視聴回数がうなぎ登りし始めた。
ぐるぐると上がる数値のカウントに、すこし混乱しそうだ。
上がる上がる、補足動画だったはずなのに、なんか最初の動画よりも数値が既に上回ってしまった。
なんだこれ。誰かが宣伝でもしているのか!?
原因が分からないが、数値のカウントは毎秒事に増えていった。
更新すればするほど、数値が跳ね上がってしまうのだ。
僕の周りでキュンキュンと鳴いてはしゃぐキャロが唯一心を落ち着かせてくれる。
とてもかわいい。
もう画面と睨めっこはやめておいた。
数字が上がり続けるので、もう結果を追うのはやめた。
ずっと見ていたって意味がないことに気づいてしまったからだ。
そしてそのまま風呂に入って、寝て、朝を迎えてまた驚きの結果が待っていた。
視聴回数が5万を超えていた。
「げっ」
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