第2話
カメラスタンドにスマホをセットして、カメラを回す。
スマホの記憶容量は大きいし、動画も都度消していくので機材はこのくらいで十分だ。というか、高校生の僕にこれ以上のものは揃えられなかった。
「えーと、始めまして。シロウです。召喚魔法の便利な使い方講座をやっていきます。新しい発見があると思いますので、最後まで見て行ってくれると嬉しいです」
僕の名前は晴海幸四郎なので、そのままシロウをチャンネル名にさせて貰っている。
紹介する魔法は、僕の使える数少ない魔法の一つ、召喚魔法だ。
魔力も低い僕がこの魔法を使ってもあまり強くない。
未だ評価の低い召喚魔法だが、意外と便利な使い方が出来たりする。
召喚魔法の使い手自体少ないので、ニッチな需要があるんじゃないかと思ったわけだ。
単純に強い魔法で夢想している動画や、派手な演出をする魔法など、そもそもの魔力量が違いすぎて到底まねできない。
おまけにそういう魔法も得意ではないので、地味になってしまうが、僕らしい動画になりそうだ。
「召喚魔法って魔界から魔力を持った生物、通称魔物を召喚するのが一般的な使いかたですが、その使いづらさは皆さん既に知っている通りだと思います」
そう、この一般的な使い方が結構厄介なのだ。
魔力量に応じたレベルの魔物を召喚できるので、魔力量が低い者はそのまま弱い魔物しか召喚できなかったりする。
弱い魔物は戦闘で役に立たないどころか、知能が低いので使い手の言うことを聞かないことが多々ある。
そのためこの魔法の評価は非常に低い。
個人戦においても、集団戦においてもとても活用の難しい魔法となっている。
召喚魔法の使い手でもダンジョンに行くような猛者はいる。当然だが、そういう人たちは魔力量が段違いなわけで、召喚する魔物も桁違いに強く賢い。
別次元の方たちの話は一旦おいておこう。
「今日紹介するのは魔物の召喚ではなく、物の召喚になります」
そう、これに僕は気づいてしまった。
魔物だけを召喚できる魔法と思いきや、実はそうではなかった。
魔力を持った生物の召喚はその操作性の難しさ故に実用性が乏しい。ならば、一層のこと物を呼び寄せてしまえばいい。
なんと召喚魔法は魔力を所持しているものならなんでも呼び寄せることが可能となる。
そして僕が今回引き寄せるものを頭の思い浮かべる。
「召喚――」
僕の手に現れたのはマジックアイテム。
異世界のアイテムだ。
「勝手に名付けたんですけど、『修理の金槌』って呼んでいます。僕が呼べるものはこの程度の物なんですけど、結構便利なんですよ」
一見普通の形の金槌なのだが、目を凝らしてみると確かに魔力が流れている。
魔力がこもっていれば、なんだって呼び寄せられるのが召喚魔法の強みだ。
僕にはこれがいったい何なのか、どういう仕組みなのかはわからない。
分かることは、これがめちゃくちゃ便利だってことだ。
たまたま召喚できたものだったけど、こんな便利なものでよかった。
「壊れたものをこの金槌で叩くだけで直せちゃうんです。マジック武器なんかはおそらくレベルによりますが、修理可能なものもあると思います。けど、もっと身近なものへの活用をお勧めします」
フリマアプリで買ったボロボロのスマホを片手に持つ。
結構新しめの機種なのだが、高いとこから落としてしまったみたいで派手に壊れていた。
既に修理不可能な状態だったので、破格の値段で手に入れることが出来た。
「じゃあいきますよ」
修理の金槌でスマホを叩くと、金槌がはじけ飛び光の粒子となって消えた。
その代わりに、ボロボロだったスマホが、時間の逆再生をされるようにみるみると綺麗になっていき、完璧に直ると同時に画面にあの有名なマークが浮かぶ。
お尻みたいな桃のマークが。
ピーチフォン、通称尻フォンが綺麗に直ってしまった。
「はい、こんな感じですぐに直りますし、機能も完璧な状態で使えるようになります。不思議なことに、これで修理したものって、データとか消去できて初期化されているので変なロックがかかっていたりもしません」
プライバシーに配慮したマジックアイテムだ。
異世界もそういった倫理観には敏感なのかもしれない。
この新品になったスマホは自分で使ってもいいし、またフリマアプリに戻してやってもいいだろう。
金欠高校生の僕はおそらく、いや確実に後者を選ぶことだろう。
「魔力量が平均以下の僕はこれを一日一回程度しか使えませんが、結構便利ですので、興味が出た方はやってみることをおすすめします。気をつけないといけないのが、魔物同様に時間制限があることです。召喚して大体5時間くらいで、元の世界にかえりますので、はやめに使用して下さい」
説明はこんなところだろうか。
初めての投稿だからな。段取りが少し悪いかもしれない。
すこし悩んで、召喚の仕方を伝えていないことに気づいた。
けれど、動画を最後まで見て貰うには、この情報を最後に持ってくるのはありだなとポジティブにとらえておく。
「最後に召喚の仕方を伝えておきます。魔物を召喚するときって意識しないとおもうんですけど、物の召喚は明確に欲しいものを意識してください。修理の金槌以外にも便利なものはたくさんありますが、修理の金槌から試すのはありかもしれません。名前と、形、性質まで理解していたら召喚しやすいのではないでしょうか。僕は最初はへんなものを召喚していましたが、今は確実に狙ったものを召喚できています」
こんなところだろうか。
伝えたいことは全部伝えたので、最後に御礼だけ言っておいた。
「今日はここまでです。最後までお付き合いありがとうございます!この動画が人気でしたら、引き続きシリーズ化していきたいと思います。では、さようなら~」
画面から外れ、スマホのスイッチを切った。
無料編集アプリで不要なところを削除し、BGMも入れてそれらしい動画にしよう。
ソフトも無料だし、技術力もないので、大した動画にならないだろう。
けど、情報はしっかりと伝えられたし、結構便利な内容に仕上がったのではないかと思った。
世の中の不遇を味わっている召喚魔法使いの同志たちに、少しだけ勇気と人権とお小遣いを手渡せたのではないか。
僕はスマホを修理したけど、もっと高価な高級時計や車なんかも修理できたりするのだろうか。
まだ試していないけれど、流石に限界はありそうだ。
マジックアイテム自体に流れる魔力量が少ないのが原因だと思う。
おそらく許容量を超えると修理できずに、修理の金槌が壊れる。
まあ、そこらへんはまだまだ予想なので動画には入れなかった。
この世界の魔法はまだ始まったばかりで、いろんなことがわかっていない。
誰にでもできるわけではないが、こういった便利な知識動画は需要があるのではないか。
明日には視聴回数とか確認できる。
リアルタイムでも追えるが、こちらは学生だ。
あまり勉強ができる方ではないが、ある程度やっておかないと赤点で追試なんてことになりかねない。
学生の本文である勉強に、僕は精一杯集中することにしたのだった。
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