第47話 知らないままでは進めないから

「それは少し……結論を急ぎすぎじゃないかな」


 奈多さんの指摘には首を横に振って応える。


「はっきりさせといた方がいいだろ? 『トップオウス』は平田のチームなんだ。最終的に決めるのはやっぱ平田だろ」


「別に、自主的に辞めてくれてもいいけど……」


 土方さんの発言に場が緊張する。その機微もわかるが、このくらいは遠慮なしの方がやり易い。


「嫌だね。俺はこのチームでゲームするのが楽しいんだ。辞める理由がない」


「楽しいだけなら、たまに遊ぶくらいはフツーに出来るじゃん。辞めたって。それでよくない?」


「あ、海羽ちゃん、それは」


「ん? ……あ、そっか」


 土方さんはフツーに遊べると言ったけど、奈多さんが気まずそうにするように、それは間違いなのだろう。


「ごめん、えーと、そういうことなら……どっちにしろもう……一緒にゲームするとかは、出来ないかなぁ……って」


「そりゃそうだよな。わかってる。奈多さんたちはアイドルで、プロを、プロゲーマーを目指してるんだもんな。どう転んでも、俺が同じ志を持たない限り……今までの関係は終わりだっていうんだろ?」


「う、うん。……さっき木村君が言った通りだね。私たちは絶対に意見を変えない。木村君も。それならそうだね、どちらかがチームを抜ける以外に、ないんだね。……本当に、意見を変える気はない? その可能性は全然ないの?」


「ない。俺は、ゲームが一番……じゃない。一番やりたいことが、他にある。ゲームに本気で取り組む気はない」


「なにそれっ!」


「祥子ちゃん!」


 渡さんが腰を浮かせるのを奈多さんが制止した。沈黙が場を覆ってしまう。この静寂を破るのは少々骨が折れる。そう思っていると右隣、杉谷が先に口を開いた。


「もっと、ゆっくりと話さないか。おれたちはまだ、お互いを知らなさすぎる。木村の一番やりたいことだって、おれは知らないんだ。ゲームに本気にはなれない理由を。奈多さんたちがどれだけ本気なのかも」


「そうだな。それじゃ納得できないか」


 こう思っている、と叩きつけられるだけでは納得などできるはずもない。思うに至った理由を、経緯を、知るべきなのかもしれない。語るべきなのかもしれない。


 俺について、俺たちについて。


 平田について、杉谷について、『eXsite』について、俺について、どう思っているのかも。


「俺は」


 言いかけて、遮られる。


「待って。……それなら、おれから話すよ。『リーダー』は、おれなんだよね?」


「……あぁ」



「『トップオウス』は……『トップオウス』は、みんなで楽しくゲームをやりたくって、作ったんだ。作ったというか、みんなで作ったわけだけど……だからそういう意味じゃ、やっぱりカジュアルな、楽しむことを前提としたチーム、なんだ」


 その理解は、俺や杉谷にしてみれば、そうでしかない、というもの。


「愛生ちゃんや海羽ちゃん、祥子ちゃんのことは少し……ううん、裏切るような話だよね」


「そんなことはない……けど、少し残念なのはほんとかな」


「あ~、やっぱそうだよねー。優がそんな、強気なわけないかぁ」


「祥子だってわかってたでしょ。薄々、さ」


 そして『eXsite』、平田の幼馴染三人にとっては、一つの側面だったのかもしれない。


「えーと、木村君たちには、言ってなくって……前からずっと、チーム組もうって言われてたんだ。でもおれ、それは拒否……じゃないな、曖昧にしたままにしてて……それで四月の、あの校外学習で、木村君と杉谷君に助けてもらって、誘われて、それで今のままじゃいけないなって思って……それで声掛けたんだ、みんなに。その……おれが、なんていうか、信じられる? 信頼してるみんなに」


 平田は照れくさそうに忙しなく手を動かす。手を交互に摩ってみたり、組んでみたり。照れだけじゃないか、緊張もきっとあるのだろう。


「だからほんとは、ずっとこのまま出来たらなぁって思ってた。ちょっと色々、思ってた以上に口が悪いとこあったけど」


 俺と奈多さんと土方さんと渡さんがサッと顔を逸らす。いまこの瞬間に、すみませんでした、という心境だけは完全に一致しているはずである。


「でもそうはいかないよね。『eXsite』がesportsを目指してる、違うか、愛生ちゃん、海羽ちゃん、祥子ちゃんが本気だっていうのは、おれはちゃんと知ってるから……今日は、そう、まずそこを木村君たちに伝えてあげた方がいいんだと思う。どれだけ本気なのかってこと。子供の遊びでプロを目指してるんじゃないってことを」


「それは何度も言っているように」


「愛生」


 奈多さんに続きを言わせず、渡さんが首を横に振る。


「そうじゃないんだと思う。目指してるとか、頑張ってるとか、そういう言葉だけじゃなくって……」


 では言葉以外でどうするか。なんて、きっとすぐに思いつくものでもないから、渡さんもそこで続きが出てこないらしかった。


「言葉でいいよ。あーいや、本気だのなんだの、そんな単語並べるってんなら、それは違うけど。……それに、整理が追いつかないなら、先に俺が話させてもらっていいか? 俺が本気じゃない理由ってやつ」


 平田が頷くから、少し昔話をしようと思う。

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