第46話 なにはなくとも決定権の所在

 スタンスとしてはだから、『ウォーラップ』プロリーグへの参入を目指したいというのが『eXsite』の三人の意見であり。


「高校生でプロリーグってのは、無理があるんじゃないか? 実力云々以前に、平日日中にだって試合あるよな? 学校休むわけにもいかないし、無理だよ、俺たちは」


 渋る理由に学業を挙げるのが俺で。


「それに……プロゲーマーに懸けられるほど、おれたちは自分の実力を過信していない」


 純粋な実力不足を挙げるのが杉谷だ。


 俺たちという三人であり、おれたちという二人。

 

 一つ、はっきりとしていることがある。


 『トップオウス』内において、俺が一番弱いということ。杉谷が二番目に弱いということ。


 試合に求められる要素は様々だけれど、評価にどんな偏差をつけようと覆らない、明確な実力差。


 そして。


「おれも、木村君たちと同じ意見だよ。きっと、本当に本気で、それこそ学校にも行かないくらいに『ウォーラップ』漬けで練習すれば……きっとおれたちはプロにもなれる。でも、そんなこと出来ないんだって……何度も言ってるよね?」


 チームで最も強いプレイヤーにしてリーダー、平田が告げる。


「プロは目指さない。『トップオウス』は、カジュアルチームだよ……そうやってはじめたんだから」


 その意思が、確固たるものではないのだと、滲ませながら。


「うんうん。言いたいことはわかった。そう、そうだよね……いつもと同じ平行線になっちゃうね、このままじゃ」


 奈多さんが苦笑するように、おおよそ同じような内容を、もっとずっと迂遠に言い回してぶつけ合うことが今までも何度もあったわけで、だからこうして抜き差しならない顔を突き合わせての話し合いの場をわざわざ設けたのだから。


「ヘタレー」


 土方さんの呟きは逆にありがたかった。たぶん対面だからなのだけれど、ボイスチャットとはずいぶん雰囲気が違うのだ。三人が三人とも。


 奈多さんは少し間延びした口調ではないし、土方さんはネットに染まった語彙……は若干出てたか。それと渡さんも気が短めなのは見え隠れしている。もうすでに眉間に少々、皺が刻まれていますからね。


 とはいえ普通に普通な感じであり、それはたぶん、奈多さんたちから見た俺なんかも同じなのだろう。


「学校だけど……それはたぶん大丈夫。私たちだって、私たちなんて、高校生でアイドルで、その上プロゲーマーまで目指しちゃうんだから」


「それは君たちの通う高校がそういうことに理解があるからなんとかなっているだけで、おれたちの通う紀字高校ではそうはいかない」


 杉谷が反論するがそれは当然、あちらさんもわかっているはずで、それでも大丈夫な可能性というのが、何か見えているのだろう。


 芸能の専門学校みたいなもの、と話に聞く高校に『eXsite』の三人は通っている(どのくらい登校してるんだろうか?)はずだ。そんなところの生徒と同等とは無理でも、紀字高校だってお固い学校ではない。


 例えばそう、芸能事務所から直接に交渉があれば、前例は作られるのかもしれない。


「そうだね。でも、きっと大丈夫だよ。だよね、みどりさん」


 奈多さんはやはり桐生さんに話を振った。


「ええ。まだ調査の段階ではあるから確約は出来ないけれど、紀字高校さんはかなり融通の利く校風みたいね。月に3、4回、休む程度なら公休扱いにしてくれるよう私たちからもお願いできると思うわ。平田君たちには授業、それとテストなんかでかなり頑張ってもらうことになるとは思うけれど」


 本分を疎かにしないという前提、それと何より俺たちの意思、あとは保護者の理解か、それらを満たせばなるほど、その改定は俺もいけそうな気はする。


「え、そんなこと、大丈夫なんですか?」


 平田も驚いている。それがどちらに対してかはわからないけれど。


「十中八九は通ると思うわ。実際に八年前、紀字高校在学中にインディーズデビューした歌手がいるの。今はもう、歌手業からは離れたようだけれどね。その人に対しても、仕事関係の公休が認められていたそうよ」


 それは知らなかった。二回も生徒が総入れ替えするくらいには前の話とはいえ前例が既にあるなら、それなら九分九厘、学校を休む事になるのは問題なさそうだ。


「それと安心してね。紀字高校の関係者、先生方なんかに話を聞いたわけではないわ。だからいま平田君たちが抱えているこの問題について、知られたわけじゃないから」


「そう……ですか。それならよかった」


 平田がほっと息を吐き出す。


「それはわかりましたが、年間を戦うとなればオフラインの試合も多い。下世話ですが金銭面など」


「まどろっこしいのは、なしにしない?」


 杉谷の発言を遮って、渡さんが机に身を乗り出して言う。


「学校のこととか、お金もそう、問題は全部……解決する目処はつけてきた。だからさ、問題は一個だけ、やるかやらないか。それだけなんだって」


 俺はそれを訂正する。


「いや、どっちが『トップオウス』に残るかだ。俺は、絶対にプロを目指さない」


 どうやらもう、とっくに事態は煮詰まっていたらしい。


「平田」


 そうであるなら。


「平田が決めろ。プロを目指して俺をチームから、『トップオウス』から抜けさせるか、初心のカジュアル精神を貫いて『eXsite』の三人を抜けさせるか」


 決めるべきは平田ひらたゆうという男であるはずだ。

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