第45話 『eXsite』

 本気ではないけれど。


 それはもちろん、『eXsite』のメンバーはこう、だと本気で決めつける気はない。決めつけるほど知らないし、入れ込んでもいない。俺は俺でこの事態に混乱しているだけのことだ。


 ……ありのままを受け入れよう。


 俺と杉谷(と平田)は、近頃調子が悪いし険悪気味なチーム『トップオウス』の面々とついに顔を合わせるべく、話し合うべく、指定されたビルへと学校帰りにやって来た。


 で、そこにいたのは今を時めくアイドルグループ『eXsite』だった、と。


 なるほど。……なるほど。……なるほど……。


「桐生さんは、『eXsite』のマネージャーってことでいいんですよね?」


「ええ。『eXsite』のというより彼女たち三人の、と言った方が正確ではあるけれどね」


 現状、俺のすぐ近くに桐生さんが居て、平田杉谷『eXsite』が色々と自己紹介みたいなことをしている。すまんな杉谷。


「他に、俺や平田、杉谷のことを知っているのって……事務所の方とかですか?」


「ふぅん」


 桐生さんの冴えた瞳が僅かばかり細められる。


「そうね、私の他には社長だけよ。だから今ならどうとでもなるわ」


「俺たちが誓約書にでもサインすればですか?」


「いえ……信用するわ。平田くんのお友達だし、ね」


「そうですか。……桐生さんは、マネージャー、長いんですか? 『eXsite』のじゃなくて、マネージャー業が」


「ええ、まぁ。もう五年ほどは……」


 平田たちはひとまずの会話を打ち切ったようで、各々に椅子に座り始める。コの字に組まれた長机に、やはり来た組と居た組で対面になる形に。察して桐生さんも離れていった。


「じゃあ……どこから話そうか」


「俺からいいか?」


 本当に、いざ話し合おうと言って、なにから話していいものか難しい。もうすでに色んなこと置いておいてるしな。この場所このビルについてとか俺たちはここにいていいんですかというか『eXsite』と会ってしまって大丈夫だったんですかとか。


「うん。お願い」


 平田から発言権を譲ってもらって、俺はまず確認しておきたいことがあった。


「どんな結論になったとしても、『トップオウス』は『平田をリーダーとしたチーム』、ってのは、絶対って認識でいいよな?」


「もちろん」


 奈多さんが答え、土方さんと渡さんも首肯する。「ならいい、です」桐生さんの目が気になって敬語に修正しておいた。


 今更ながら、アイドルさんたちに過ぎた口きいていたと反省反省。俺は有名に弱いぞ。


 平田に目で俺からの確認は以上だということを伝える。


「ありがと。最初は……いや、うん、最初にはっきりとしちゃおう。みんなわかってると思うけど、今日は、今日、『トップオウス』の在り方を、おれたちが何を目指すのかを、決めたいと思う。つまり、カジュアルに遊ぶ仲間としてのチームか……本気でプロを目指すのか」


 バカげた話だ。


 高校生が六人集まって、プロ? プロを目指す? 夢物語も大概にしろと、そう笑われるような話だ。


 それを笑わせないのが『eXsite』であり、その成り立ち。


 そもそもとして『アイドル』ではなく『アイドル性』を謳う『ロッカクデジタル』という芸能事務所が、10年も続けているesports方面へのアプローチ、その4代目となるグループが『eXsite』である。


 たしかに歌って踊るし、アイドル活動も行う。けれど、あくまでメインは個性の発揮としての、esportsへの参戦。それはグループのお披露目以前から周知されている『4代目『e』系アイドルグループエクスサイト』の存在意義と言っていい。


 そのために彼女たちは公式にゲーム配信を行っているし、新しいファンとの交流としてゲーム大会なんてリアルでのイベントを実施したりもしている。


 そしていつかアイドルではなくなる。


 プロになるのか、辞めていくのか、別の道へと進むのか。その過程の若い熱量が『『e』系アイドルグループ』他、『ロッカクデジタル』の打ち出す『アイドル性』の魅力なのだと、ものの本に書いてあった。


 同時に、うら若き少女たちの青春を食いものにする悪辣であるとも。


 桐生さんの様子を窺う。渡さんの後ろ、壁際で椅子に腰を下ろしている。組んだ足に両手を添えて誰ともなく、場の全体を見渡しているといった感じか。『eXsite』に対しての責任としてこの場にいるだけで、『トップオウス』のことには口出しするつもりはなさそうだ。


 美人で、仕事の出来る雰囲気があり、優しそうではないけれど冷たい印象もなく、そんな人が目の前の三人の少女をどう思っているのか。


 『3代目『e』系アイドルグループエコーズ』を、どう思っていたのか。

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