第24話 球技大会:午後① 言ってしまったからには取り消せないこともある
つつがなく進行する限り、午後は試合間に時間的余裕がある。それは選手たちの休息のためであり、観戦する者たちの移動のためであり、そして単純に試合数が少ないためである。
残念ながら副部長のクラスが準決勝で負けてしまい、テーブルトーク部全員が決勝進出ならずという結果に終わってしまった。
一緒に観戦していた鮫島が、汗を拭う副部長に駆け寄っていく。それで別になんの挨拶もなしに俺たちは解散で、一人で大会本部へと足を向けた。
入室しても誰に何を言われることもないくらいには顔見知りばかりで、その中の新参者が少し緊張している様子に笑みを浮かべる。というのは人が悪いか。見つかって「笑うな」と言われるくらいには。
「うー、緊張する~」
「意外とビビりなのな」
「そういうこと言う~? 木村くんは緊張しないの?」
「あんまり。一言貰うだけなんだから気楽にいこう。みんな勝ってるんだから、悪い気分じゃないんだし」
というわけで、決勝進出チームのリーダーへのインタビューというか本当に一言、喜びでも意気込みでも頂戴しよう、というだけの話だ。
クラスでアンケートとるのと変わらん変わらん。というのは、話を持ち掛けた時点で否定されているが、そのくらいの気持ちで臨めばいいと思う。
「てか言うほどは緊張してないだろ」
「まーねー。緊張はしてるよ? けっこう。心臓バクバクってほどじゃないけど~……やっぱ知らない先輩とかはね、話すだけでも緊張はするよねー」
「わかる」
「緊張しないって言ってた癖に~」
「あんまりな。一緒だよ、少しくらいは緊張してる。お、来たな、ほら」
結果報告後に案内されてこちらに向かってくる人、準決勝の勝利者、決勝進出チームのリーダー。ちなみにだけど、さきほど三年女子バレーボールの準決勝で副部長のいるクラスを破ったクラスの人である。
「どうも、すみません放送部です。決勝戦に向けて一言、いただきたく。向こうの教室で少しお時間良いですか?」
大会本部には人がそれなりにいる。そんな場所じゃインタビューされる側の緊張も大きい。なので向かいの空き教室を利用する段取りにしていた。
急な企画なのでざっくりとだが、スペースを空けてある。
○
時には知り合いにマイクを向けることもある。
「なにかアンケートでもとってるの?」
「そーなのー! ってちがーう! 御堂さんわかってるでしょー」
「ごめんなさい、なんか二人だとアンケート委員っていう印象強くって。インタビューだよね、うん、聞いてるよ」
御堂さんは俺の方に「さっき聞いたばかりだけど」とも言う。そりゃそうでしょう、昼休憩の間に急遽実施が決まったのだもの。
○
時には思いがけない言葉が飛び出してくることもある。
「では、決勝戦に向けて一言。どうぞ」
「ああ。決勝に進めることを嬉しく思う。決勝戦も全力でプレーし必ず勝利したい。……それと、んん……松下、もし優勝出来たら、いや優勝したら……いつもの場所で待ってる」
……。
……え?
「以上だ」
……え?
「え……と、ありがとうございます? ……あの、ほんとにそれで」
いいんですか? というのは、顔を真っ赤にさせて腕組み目を瞑る先輩男子に言えないよな。
「ありがとうございました。決勝、頑張ってください。では、はい、ありがとうございました」
ささどうぞどうぞ、と俺が出しゃばって出口に案内して一旦、一旦ドアを閉めさせてもらう。
「……マジかぁ……」
「こ、こ、これ、これこれ、だ、大丈夫? ほんとに放送して大丈夫かな!?」
「まぁ……なるようになるだろ」
ちなみにこれ、優勝後にもインタビューする予定なんだけど……どんな顔で今の人に会えばいいんだろうか。
……いやマジで!
最悪優勝したのに振られたりしたらおまえ、これ、誰か責任取ってくれますかね!?
○
普通はこう。
「いえぇー勝ちましたー! 決勝も勝つから見に来てねー! 応援待ってるよー! らびゅー!」
いやこれはちょっと軽すぎるけど大体こんなもん。
勝利の余韻もあってか少々テンション高めで自信ありな感じの発言が多かった。
あの、待ってる宣言の先輩ほど重いのは……。
……三件あったんすけどね……。
二回目が来たときはやはり驚きドギマギしつつなんとか対応した。
三回目はもうさらりと流させてもらった。
なんかすまん、三回目の人。
「これも一つのノリと勢いか……こわぁ」
「ねー」
早送りで映像を確認する間、気疲れにため息が漏れた。
あと実は映像も撮っていた。音声しか流さないけど。
「大丈夫そう、かな~。もう時間もないよね」
「そうだな。……あとはよろしく」
「任された~。ありがとねー、声掛けてくれて、手伝ってくれて」
校内放送で、全ての準決勝が終わったこと、決勝戦を順次、15時から開始すること、対戦カード、そしてコート整備のため全員教室に戻るようにと伝えられる。
放送室に。体育館に。
やるべきことをやりに行く。
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