第23話 球技大会:昼休憩 報酬は幕の内弁当
「しんどー」
「なんだー」
「おまえじゃねー」
ここまではどうでもいい。
「審判さぁ、思ったよりしんどいんだけど。特に上級生の試合でやんの怖いわー」
「詰め寄られてたもんな木村。オレやんなくてよかった。部の先輩に言われてたんだよな、球技大会の審判はキツイらしいって」
「早く言えよ! それをもっと早く!」
「うっせぇうっせぇ、おまえが審判に決まった後だよ!」
昼の休憩時間。
いつも以上に各々タイミングも場所も自由勝手に食事を摂っていて、一年三組の教室には十人未満しか人がいない。
俺と進藤は進藤の席周りに弁当を持ち寄っている。俺は審判員たちに配布された幕の内で、見栄えも量も進藤のコンビニ弁当と大差ない。
「お、やっぱ食堂激込みだと」
スマホをさくっと操作した進藤が教えてくれた。清川とか三峰とか、その他多くのクラスメイトは食堂に行っているらしい。
その中の誰かから人の多さを嘆くメッセージがなにかしらのトークグループに書き込まれたようで、たぶん俺のスマホに通知されたのも同じ文章なのだろうと思う。
「そりゃ行かなくてよかった。進藤はよかったのか?」
「どうせすぐ部室行くしな。移動も待ちも勿体ねぇ」
午後からは、だいぶ暇になる。
次の試合がない人が相当数生まれたからで、そういう人たちの、特に熱心に活動している部活の部員なんかが、なにかと手を貸してくれるからだ。多大な権限を有する生徒会に媚び売っておこうという思惑も、あったりなかったりらしいけど。
進藤もなにか作業で昼飯後には野球部の部室に召集を掛けられているらしい。
「くっそぉ、俺も勝ち進んでりゃなぁ。決勝戦、一番ショート進藤君、打ったー! 大きい! ホームランです! 大活躍で黄色い声援を浴びる予定がっ!」
「実況はねぇだろ」
と笑ったら「あるんだなこれが」ってのは完璧不意打ち。
「は? あんの? 実況? マジ?」
「ふはは、そのための野球部員っつーわけだ」
「いや野球部は野球やれよ。はー実況、えぇ、そんなん絶対女子がやった方がいいだろ」
個人の感想です。ということで許して欲しい。プロの実況とかなら別として、レクリエーションの実況なんて可愛い声が聞きたいですよって。
「バッカおまえ、女子がやんに決まってんだろ。実はさ」
それはそんなに、顔を寄せてひそひそと語らなければいけない情報なのか?
「放送部と一緒にやんだよ。オレらはサポート」
なんで進藤がドヤってんだかって話だが、それはたしかに盛り上がりそうなサプライズだ。
「知らなかったなぁ。面白いことやるもんだな」
「ああ。今の生徒会って、特になんかそこらへんすげー、柔軟? 融通きくとかなんとか、先輩が言ってたわ」
「あー……なるほど」
思い当たることばっかり。生徒会長さん筆頭に生徒会役員のみなさんの顔を思い浮かべる。せんきゅー生徒会。ふぉーえばー生徒会。
「他の種目もやんのかな」
「ほうは……どうだろな、体育館系はちょっち厳しいんじゃね。あっちこっちうるさいだろ」
進藤は箸の進みが早い。いつものペースか、急ぎ気味かは知らないが。
「バスケとバレーと卓球の実況がいっぺんに聞こえるとかなに言ってんだかわかんなくなりそ」
進藤も「な」と言うように、そんな状況はカオスなだけだ。
「実況はないかもだけど、勝ってくれるといいな」
少し考える。というか思い出す。思い出そうと試みる。
「女子のバスケと野球、ハンドと……男子がバレーとサッカーと、あとなんだっけ」
「バスケもハンドボールもな、男子の方は。つか男子で決勝リーグいけなかったの野球だけだ……野球だけ」
「どんまい」
卓球は個人だから何となく別枠だし、男女とも誰だったか勝ったと聞いた気がする。平田と杉谷でないのだけは知っている。
「女子はバレーも勝ってるしな。たぶん、うちのクラスが一番多いぞ、午後も試合すんの」
「へぇ、すげーじゃん」
「他人事か」
進藤が笑い飛ばすけど実際、俺としてはどうにも実感がない。
少し、クラスを外から眺めているような心持ちなのは、事実だ。
「よっ、と。じゃな」
「おう。しっかりやってこいよ、実況のサポート」
「任せんしゃい」
進藤が空の弁当箱を持って立ち上がる。そのまま教室の隅に設けられたゴミ袋に投入しようとするので「進藤! 洗えー!」とは言っておいた。「そだったわりわり」で一旦教室を出ていくところは見送って。
「放送部か……」
俺も弁当を空けるべく手を動かすのだった。
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