第22話 球技大会:午前② 失敗? 間違い?
てかね、普通に眠い。
朝のホームルーム自体が一時間繰り上がっていた上に個人の事情で更に早く登校していたせいで、お昼になるより前におねむちゃんだ。
そういうわけで小休憩のタイミングに、鮫島に頼んで開けておいてもらったテーブルトーク部の部室で仮眠をとってみたりする。
10分、10分だけだから。
大丈夫、ちょっと寝てすぐ起きるのは得意なんだ。寝すぎたらほんとごめん。
という感じで。
ハッ、と目覚めてスマホに時刻を確認し、予定通りであることに安堵の息を吐き出した。
のびのび伸びして、うん、スッキリって感じだ。
「やべ、ドア開いてる」
それは些細で重大なミスだった。どうやら俺は眠気に負けてドアも閉めずに横になっていたらしい。
先生方は基本的に職員室で仕事だけど、たまに見回りしているという話だった(審判の先輩談)。危ない危ない。
サボりがバレてどうなるかは定かじゃないから、気を付けなければ。
「いやもう寝ないけど」
誰がいるでもないのにそう否定して部室を後にする。
いや、やっぱ閉めた気がするんだけどなぁ。
ドアを閉める感覚が、内か外かの違いはあれど、さっきも行った気がするんだよなぁ。
覚えていたら、訊いてみよう。部の先輩たち、あと鮫島に。部室来ましたかって。
○
それからあっち行ったりこっち行ったり、体育館でバスケの審判やってグラウンドでサッカーの駆け引きに目を凝らし、卓球は非接触だからやりやすいなと思ったり。
そして午前の最後の役目として、二年男子のバレーボールの試合を見下ろしている。
審判台の上、俺の一挙手一投足を、多くの人間が見ている。
「タッチネット」
を声にも出して、ジェスチャーに表す。とても簡単でとても難しい。
大丈夫だ、正しいはずだ。
少し触れるくらいなら見逃しても、がっつりネットを揺らすほどの接触は、見過ごせないはずだ。
それで終わりだとしても。それで敗退が決まるとしても。
「触ってねぇって!」
なにを言われようとも。
首を横に振り、公式じゃないから「触ってました」と言葉でも伝えて、納得してくれないだろうか。
相手チームは既に勝利を喜び集まって肩を背中を叩き合っている。「勝ったじゃんおれたち!」「奇跡だろ」「ようやった、ようやったおまえらっ」。
そして喜んでいるのは彼らだけだ。触れていないと主張する先輩やチームの人たちは当然として、観戦していた人たちも誰一人、歓喜を声にすることはない。
試合前からわかっていた。
熱くなり過ぎだ、と宥められる先輩が、スポーツのできる人だと、顔のいい人だと、人気のある男子なのだと、理解させられていた。
「触ってたいま?」
「えーわっかんない。てか触っててもよくない、ちょっとくらい」
なんとか、納得はともかく、覆ることはないとは伝わったようで、選手たちはコート中央、ネットの下に握手を交わす。
「終わっちゃったー」
「んだよ、グループで敗退かよ」
大丈夫だ、間違っていないはずだ。
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