第一章 エーファ王国編 「教会」

カツンカツンカツン・・・

足音が室内に広がる。真っ白な大理石を基調としたこの部屋は

厳かな雰囲気を感じる。

奥にいるのが司祭だろうか?水晶と思われる球体の前に、片手には厚みある本を持って佇んでいた。


「こちらが、司祭のクォーツ様です。」


シスターより紹介を受ける。なんか気難しそうな顔をしているおっさんだなと俺は心の中で呟いた。

シスターは手短に俺のことを司祭へ伝えると、足早に去っていった。


あれから俺は冒険者ギルドをでて、すぐにこの教会を訪れたのだ。

スキルの確認ができるまでは仮の身分証明書しか保持できず、証明期間はわずか3日間だけ。まぁ身分証がなくとも街の中へいる間は何も問題はなさそうだったのだけど、なにかトラブルに巻き込まれた時に、自身の証明ができるものがないのはさすがに不安になる。ここは異世界だし、慎重に行動すべきだからな。

それに俺は”更新切れ”という言葉にめっぽう弱い。なぜなら過去に運転免許の更新切れを起こし、死ぬほど後悔した経緯がある。・・トラウマなのだ。


「"迷い人"、ミクトーマさんですね? 冒険者ギルドより話は伺っています。私は、ネルソン街にて司祭を務めている、クォーツといいます。この度は災難でしたね。」


クォーツと名乗る司祭は外見とは違い、丁寧な口調で話始めた。


「大方の記憶を失っていると聞いています。スキルの確認をする前に、すこしこの世界のことを話しましょうか?」


世界?っと、疑問符に俺は首をかしげる。


「本来は幼い頃に、親から昔話のように聞かされるので、皆この世界のことを知っているのですが、あなたはきっとそれすらも忘れているでしょう。」


なるほど、その展開は話が早くて助かる。

記憶喪失の設定は、異世界鉄板だな。ははは!


「司祭様のおっしゃる通りです。何も思い出せなくて」

俺は話をあわせた。


司祭は頷き、淡々とこの世界"MONDO"のことを話していく。


この世界は、人類種・亜人種・魔人種に分かれており、

それぞれ住んでいる大陸も違う。


人類種と亜人種は仲が悪く、魔人種は他種族に興味を示さない。

興味は示さないが、害をなせば即座に牙をむく。


争いは絶えず、それは同種族間でも同じだ。


平和とは程遠い世界なのだ。


利に敏い一部の”商人”は、種族にとらわれずに交易を行うことで、富と権力を握る。お金を第一の信用としている商人には、種族間の垣根など無いに等しいため、しがらみが少ない。貴族よりも富豪商人の方が力をもっていることもしばしばだ。


さてそんなこの世界は、”スキル”と呼ばれる力が生物の生きる力の根源となっており、皆平等にスキルの恩恵を受けて生活を送っている。人類・亜人・魔人・魔物全てにおいて。(やっぱり魔物とかもいるのか・・)


スキルは才能だ。その才能は伸ばすことができ、一つのスキルからツリー上に枝分かれし、新たなスキルを得る。これをサブスキルという。

(サブスキルは、スキルの専門性を磨くことで生まれるようだね)


「・・というように、スキルなくしてこの世界ありません。神が創りしこの世界を”MONDO”と、遥か昔より呼ばれているのです。」


ちなみになぜ"MONDO"なのかは、理由がある。それは司祭がもつ本の署名に"MONDO"という記載があるからだ。

この本にはスキルの英知がつまっているそうだ。"英知の書"だと司祭が話してくれた。


この本は貴重な本で、出どころも不明らしく、教会に古くからある。

(ちなみに司祭が持つ本は複写で、原典は聖王国にあるという。)

本の重要性から著者の"MONDO"は神でないかと言われ、それ故にこの世界も"MONDO"で表現されている。


そんな話を長々と聞かされた。


「ではミクトーマさん、手をこの水晶にかざしてください。さすればこの鏡にあなたの持つスキルが現れるでしょう。」


司祭はそういって鏡を指差す。


鏡にスキルが表示されるんだ。なるほどなるほど。


手をかざす前にふとその鏡を見てみる。


「・・うん?んんんー????!」

なんと言うことでしょう。その鏡に写っていた俺は、"35歳の俺”ではなく、

25歳ぐらいの時の俺がいた。


「ど、どうしましたか?」

司祭が驚きの声を上げる。


「いや・・・ちょっと久しぶりに自分の姿見てびっくりしちゃって。」

あははと、笑ってとりあえず誤魔化す。


「(そうかー。やっと納得だ。ノエルと最初にあった時の反応や、ダインさん・ギルマスの反応に。ダインさんやギルマスは、俺と同年代のはずなのに、やたら若造に話しかける感じだったからなー。)」


突然の事に焦ったが、気を取り直して、手を水晶にかざす。

すると水晶が淡く光ると、目の前の鏡に文字が浮かびあがる。


ミクトーマ/レベル1

25歳

スキル「クラファン」


「レベルとかあるんだなー。ってかレベル低っく!まぁ初期値だから仕方ないのか?」


レベルはあれど、細かい身体ステータスはないんだな。さすがにゲームのようには行かないか。


「そしてスキルが、・・・クラファン?」


クラファンってクラウドファンディングのことか?

そんなのスキルって言わないだろ。何の役にたつんだよ。

現代ならまだしも、この異世界には無意味だろ!?


「司祭様・・このスキルは・・?」

焦る思いでクォーツに目を向けると


驚愕した顔をしている。


「何ですかこのレベルは・・!? ミクトーマさん、あなたどのような生活を送っていたのですか!!?」


どうやら余りのレベルの低さに驚いたようだ。

聞けばこのレベルは赤子か幼児並みらしぃぃ・・

洗礼式を受けた後は、成長と共に自然とレベルが上がり、

俺ぐらいの歳になると、レベル15は超えているという。


レベルは身体的な強さを表す指標だ。

今の俺では、その辺の子供と喧嘩しても簡単に失神することだろう・・・


洗礼式(スキル鑑定)、今初めてやったんやもん。

しょうがないじゃないか。


「とても信じられませんが、5歳の洗礼式を受けずに今に至ったようですね・・。こんなこと、初めて聞きましたよ。」


とても哀れむように俺を見る司祭。

や、やめてくれ!そんな目をしないでくれ・・・


「あとこのスキル クラファン?ですが、初めて聞くスキルですね・・」


六法全書のような英知の本を高速で捲りながら、クラファンについて調べている。きっと司祭は速読のスキルを持っているに違いない。


一通りページを捲り終えた司祭は、そっと本を閉じた。

目を閉じ、口をキュッと食いしばり出た言葉は、


「残念ですが、ハズレスキルかと・・・・」


しばらくの間俺は、ぽっかーんとしてしまった。


何だよそれ!? この世界はスキルを平等に分け与える世界じゃないのかよっ!?


「そ、そんな馬鹿なっ! 司祭様、俺はこれからどうして生きていけというんですか!?」

司祭の襟を掴みかかりながら必死に迫る。


「お、落ち着いてください。もしかしたらスキルが成長し、サブスキルとして何か役立ち能力を生むかもしれません。可能性としては十分にあります。」


スキル自体が不明のため、どのようにスキルを駆使して経験値を積むかは解らないが、サブスキルが生まれれば、有用なスキルになることがあると司祭は話す。


「ハズレスキルとは、英知の書に載せるまでもない、単なる"特技"何ですが(一応くくりとしてはスキルですが)、稀に"特技"から派生するサブスキルが、レアスキルになる可能性があります。」


じっと司祭は考えると、


「そうですね、"鑑定"が最たる例でしょうか? このスキルはレアスキルで国がとても重宝していますが、本来は特技の"人物観察"から派生したサブスキルなんですよ」


なるほど・・そんなこともあるのか。ならスキル・・もとい特技クラファンが、これから先で有用なサブスキルを生み出すことを祈るしかないな・・


俺は祈るように司祭を拝む。


コホンと、「私に拝まれてもどうしようもないのですが。。」

と苦笑されながら、


「・・ここにある英知の書は、あくまでも複写本です。それも随分前に複写されたものです。聖王国にある"原典"を読めば、もしかするとあなたの特ぎ・・もとい、スキルの記載があるかもしれません。数百年前までは、"原典"には自動でスキル名が追加されていたと言われていますから」


ほう、そんなことがあったのか。

うーん、ならその原典とやらは俺でも見ることができるのかな?

とりあえずクラファンの使い方を知らなければ、何の成長もできない。


司祭に尋ねると


「残念ながら、教会の一部の人間にしかその原典は閲覧ができません。いつか最新版の複写がなされ、各教会に配布されるのを待つしかありませんね。」


そんな悠長なことは言ってられんん! 再び司祭に迫ると


「ま、まずは私から聖王国に原典の複写が近々で行われる予定がないか、お伺いを立ててみます。それまでどうかお待ちください。」


司祭に必死に諭されたのだった。


もう1度、鏡の自分のステータスを確認する。

なんでこんな世知辛い世界に、特技扱いされるようなスキルを授かってしまったんだろうか・・?

力なく項垂れると、まだ鏡に記載があることに気づいた。


ミクトーマ/レベル1

25歳

スキル「クラファン」

(隠しスキル)ウィンドウ


うっすらと、記載がある。

何だろこれは?司祭も気付いてないようだ。

ただ、漠然と感じたのは

これは知られない方がいいという、根拠のない直感だ。


そしてこのスキルなら使い方がわかる気がする。

だってこれは、パソコンのウィンドウなんだろう?


—ならきっと、これは"開く"ことができるはずだ—










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