第一章 エーファ王国編 「冒険者ギルド」

「ミクよ、私達は屋敷へと戻る。なにか必要な物があればルーカス商会へ来なさい。」


ダインは街へ着くなり、急いで屋敷へ戻るようだ。どうやら夜通し旅を進めた理由がそこにあるみたいだ。

俺は頷くと、ダインからルーカス商会の紹介状を受け取った。


「それがあれば、店の者が親身に世話をしてくれる。多少は値引きもしてくれるだろう」


ルーカス商会はダインのお店で、国内の数ある街に支店も出している商会らしい。

エーファ王国内でも指折りの商会だと、ライが耳打ちしてくれた。


「ミクさん、また会いましょうね。今度は王国以外のお話もしますわ」


ローラが満面の笑みをみせてくれた。うん、可愛いなぁ。


俺はダインさん親子に丁寧にお礼を言って別れたのだった。


「よし、じゃぁ俺たちは冒険者ギルドへ向かおう。ミクも一緒に来てくれ。門の衛兵から先にギルドへ伝わっているはずだしな」


ノエルにそう促され、冒険者ギルドへと向かう。ここから歩いて数分の距離のようだな。

疾風の狼の面々の後を歩きながら、街へ着くまでのことを振り返る。


目を覚ましてから、街へ着くまではおよそ半日の道のりだった。

道中特に何かに襲われることもなく、とても無難だったと言える。

俺の体力を気にしてダインさんから馬車内に入るよう声かけられたのも有り難かった。

馬車内でローラから貨幣のことを聞いたり、王国の話・これから訪れる街(ダインさんとローラが暮らす街だった)を聞いては忙しなく頷く。

俺の反応が嬉しかったのかローラの説明にも熱が入る。

そんな愛娘の様子を嬉しそうに、ダインさんは優しく見守るのだった。


街に着くと疾風の狼とダインさん親子は身分証を衛兵に提示し、門を通過する。

俺はと言うと、迷い人として保護された人物として事も無げなく通過した。

きっと一人だったら、事情を話しても詰め所へと連れられ、尋問を受ける必要があっただろうな。

冒険者と一緒だったことは本当に幸いだった(そもそも異世界転移の自体で不運なのか・・!?)


疾風の狼の面々に心の中で感謝しつつ、冒険者ギルドへと歩を進めた。


ギルドに着くなり、ノエルが代表して受付へ依頼達成の報告をしに行く。

その様子を見ながら


「今回の依頼は楽だったわね、まぁちょっと大きな荷物を拾っちゃったけど」


俺を見ながら、レイラがそう口にすると


「もう、お姉ちゃん。そんな言い方しちゃ駄目だよー!」


セイラが頬膨らます。


「ふふ、冗談よ。大人しく旅に同行してくれたし、冒険者としてミクを保護できて良かったわ」


俺を見つめながら、セイラをあやす。

なんだ、もっと怖い子かと思ったけど年相応な表情もするんだな。


「レイラは妹っ子だからなー。いつも妹に危害が及ばないように目を光らせているのさ。だから周りによく誤解されがちだ。」

ここでもそっと俺に耳打ちするライ。いいねライ、そのアシスト機能とても助かるよ。


ノエルが受付から戻ってきた。


「ミク、受付嬢に事情を話しておいた。これからの事を彼女に相談するといい」

ノエルから受付嬢を紹介してもらう。


「私はここの冒険者ギルドで受付をしている、エリザといいます。ミクさん、大変でしたね。ノエルさんからお話を聞きました。先に通達があった衛兵からも話は聞いています。今後のことをご説明しますので、今からお時間頂いてもよろしいでしょうか?」


エリザと名乗る受付嬢からギルドの奥へと案内される。


「ご丁寧にありがとうございます。はい、大丈夫です。」


「ミク、俺たちは"木枯らし亭"という宿にいる。用事済ませたらそこに来るといい。一緒に飯でも食べよう」


俺が頷くと、疾風の狼の面々はギルドを後にした。


「それではミクトーマさん、こちらへどうぞ。ギルドマスターがお話になります。」


おお、いきなりボスの登場か!? ちょっと緊張してしまう。。


「ふふ、大丈夫ですよ。ちょっと顔は怖いですけど、とても面倒見がいい方ですから」


エリザさんは微笑みながら話してくれた。

しかしエリザさん、すごい美人だ。

緑髪の髪はとても美しく、サラリと腰まで垂れる。

服装はギルド職員の制服を着ているようだが、どう見てもその辺の町民には見えない。

いいとこのお嬢さんじゃなかろうか?

背丈も俺とあまり変わらないから、175cmぐらいかな?女性ではきっと長身だと思う。


俺はぽやーとエリザさんにみ惚れながら、ギルドマスターのいる部屋まで案内された。


「ギルドマスター、エリザです。よろしいでしょうか?」


「おおー、いいぞ。勝手に入ってくれ!」


腹に響く声が聞こえ、腰がひけつつも恐る恐る部屋へと入る。


「お前が"迷い人"のミクトーマか? 俺はここのギルドマスターをやってる、ガインと言う。よろしくな。ガハハ!」


豪快に笑う筋骨隆々なおっさんは、握手を求めてきた。俺は手を差し伸ばすと上下に振り回すように熱い握手を交わされた。

馬鹿力だな。手がちぎれるかと思ったよ・・・


「さてとそれじゃ早速だが、これからのことを説明するか。エリザ、こいつに説明してやってくれ」


どかっとギルマスは椅子に腰掛けると、エリザさんが説明を始めた。


「はい、ギルマス。それではミクトーマさん、ここネルソン街へようこそいらっしゃいました。あなたは"迷い人"として当ギルドが保護いたします。これから仮の身分証をまずは発行しますので、その身分証を持って教会へと訪れてください。そこで記憶を失っているあなたの"スキル"を知ることができますので」


「教会でスキルを確認しましたら、運が良ければその時に今までそのスキルをどう使っていたか、思い出すことができるかもしれません。もし思い出せなくても、今後はそのスキルの使い方を理解していき、この街での暮らし方を考えていきましょう。」


スキルか・・・言っちゃ悪いが、俺は記憶を一切失っていないから、そもそも初物のスキルとなる。というか異世界人の俺にも、この世界のスキルなんてあるのだろうか・・

不安が顔に出ていたのかギルマスが口を開く。


「スキルは必ず誰でも持っているものだ。そのスキルを確認することで、自分がどう生きるか決める大事な指標となる。戦闘系スキルなら冒険者・騎士、生産系スキルなら鍛治・薬師・商人、というようにな」


「スキルを知ることで自身の才能を理解し、それを伸ばすことでさらに色々な能力を身に付けるだろうよ。それを知ってからこのまま冒険者ギルドに登録するか、商業ギルドに登録するか決めるといい。まぁ、ミクの体つきを見る限りは商業ギルドかな? ガハハ!」


うむむ、ごもっともだ。俺にはとても戦う力などありそうにない・・できれば穏便に日本と同じように商いでもして生活したい・・


コホンと咳払いをして、横目でギルマスを見ながらエリザが口を開く


「とりあえずこの後教会へ行って、司祭からスキルの鑑定を受けてください。洗礼式を行ったものは、定期的に教会で鑑定を受けて自身のスキルを確認していますので、ミクトーマさんも同じように鑑定して頂けますので」


俺、洗礼式受けてないのだけど、大丈夫かな?


「後日またギルドに来てくださいね。スキル内容を聞いて、その後のことをまた話しましょう。スキルについては、教会がその知識の第一人者です。色々と教えてくれるはずですよ」


エリザにそう説明され、冒険者ギルドを後にしたのだった。


そしてこの後俺は、スキルを授かることになる。


司祭に驚愕され、領主に抱え込まれそうになり、

しまいには国の王に呼び出しを受ける事態になるような

とんでもないスキルを。


"クラファン"から始まる俺の冒険は、ここから始まるのだった

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