第一章 エーファ王国編 「歪み」

歩くこと二時間、日が少し暗くなり始めてきた。

馬車が停車し、今日はここで野営をするようだ

日が落ちる前に早めにキャンプの準備が始まる。

さすが冒険者、手際がいい。

ものの10分で焚き火を起こし、軍幕などを設営していく。


準備が整うと、ノエルが荷馬車中へと乗り上げ

中から話し声が聞こえてくる

そうだ、護衛だから中に人がいるんだよな

あまりにも荷馬車から気配がしないもんだから、気が付かなかったよ


「昨日は夜通しの移動だったからなぁ。ダインさんとローラさん、気が張って寝れなかったんだよ。」


そう答えるのはライ。後頭部に手を交差しながら呟く。

どうやら日中はずっと横になっていたようだ。

しかし夜通し移動とか、何か訳ありな気がするな。


荷馬車の中で俺の説明などをしているのかな?

そう思っているのとノエルに率先されて

上質な服を纏った男と少女が降りてきた。


「君がミクトーマさんかね? すまないね、挨拶が遅れてしまって。私はダインという商人だ。そしてこの子は娘のローラだ」

「初めまして、ローラです」


商人という親子が挨拶をしてくれた。

ダインと名乗る男性は、俺と同じぐらいかな?30代半ばぐらいに見える。

女の子は小学校高学年ぐらい、多分11・12歳ぐらい。


「ミクトーマです。すいません、見ず知らずの私を旅に同行させてもらって」

「ああ、気にしなくていい。迷い人なのだろう? 困った時はお互い様さ」


そう言って背中をバンバンと叩いて心よく迎入れてくれた。

しかしそうは言っても、見ず知らずの人間を同行させるなど危ないことだと思うんだが・・

そんな表情をしていると、レイラが口を開く。


「妹のセイラは、魔眼スキルを持っていてね。人の善悪を見破るのよ」


さすが異世界、そんな特殊能力があるのか。。きけば俺を遠目で見かけた際に

魔眼スキルで確認しておいたようだ。その結果を確認してから、ノエルは俺に声をかけたそうだ。


「そうだったのかー。便利なスキルとやらもあるんだなー。」

「勝手にされて怒らないの?」


レイラは俺の真意を確かめるような眼差しをみせるが、


「そんなことはないさ。言葉で弁明するより、サクッと理解してくれるのは有り難いよ。」


これは本心だ。人間てのは嘘をつく生き物だし、人の良さそうな人が実は悪人だった。ってのはよくあることだ。

ましてはここは異世界。常に疑心を抱く必要がある世界で、言葉を交わすことなく短時間で相手の善悪を見破れるのは重宝する力だろう。

そうとなるとスキルと言われる力は気になるなー。

何を隠そうこの手の異世界を舞台にしたライトノベルの話は、以前の世界では良く目にしたものだ。

時間を見つけては小説の世界にふけっていた。

俺にも何かスキルがあるのだろうか?


「スキルってみんな持っているものなのか?」


そうレイラに聞いてみると


「5歳の洗礼式で、人はみな自身のスキルをみつけるわ。ミクは洗礼式を受けていないの?」


聞けば教会でみな洗礼式を受け、自身のスキルを確認するそうだ。

ここは定番の記憶喪失ということで話を合わせた方が良さそうだな。


「過去の記憶がどうもあやふやでさ。生まれと名前はわかるんだが、どうやってここへ来たのか、どんな生活を送っていたのか、細かいことが思いだせなくてね。」


それを聞いていたダインが口を開く。


「ふむ。もしかしたら”歪み”に巻き込まれたのかも知れないな。そうとなると・・ミクの故郷は・・」


最後は言葉を濁すように話した。


「”歪み”とは何ですか?」

俺がそう聞くと


「”歪み”というのは、突然目の前に黒い穴が生まれ、そこに吸い込まれる現象です。大きな力がぶつかりあった際に、まれにその”歪み”が生まれて、そこに吸い込まれることがあって。」


レイラの妹、セイラが答えてくれた。金色の大きな瞳が心配そうに俺を見る。

”歪み”に飲まれると、記憶の大半を失い、全く別の土地で目を覚ますようだ。

確かに俺の境遇に似ているな。まぁ俺には記憶はあるし、別世界からだし。。

ここは神妙な顔で話を合わせるように頷いておこう。


「戦争の多い地域では、大きな魔力がぶつかりあうことがあるからな。周辺の村や街で”歪み”が生まれる。ミクのような境遇の人がたまに現れるのさ」


ノエルの話だと、”歪み”に飲まれた人は辺境な地へ現れることが多く、運が良ければ冒険者が見つけて保護するのだという。領都や王都では、常時結界と呼ばれるものが張られていて、"歪み"は起きないという。


「ミクよ、我々はネルソン街へ向かっている。そこのギルドなら君を保護してくれるだろう。彼らは仕事を斡旋する傍ら保護機関としての役割もあるからな。」


ダインさんがそう話した。


ギルドというのは冒険者が所属しているあのギルドだろうか?

俺が?マークを頭に浮かべていると


「はは!ギルドってのはあらゆる国家から独立した機関で、俺ら冒険者とかに仕事を斡旋してくれるとこだよ。主に冒険者ギルド・商業ギルドがあるぜ」


ライが笑いながら説明してくれた。


「うむ、まずは街へ着いたらギルドへ訪れるといい。そこで保護申請をすれば、身分証を発行してくれる。今回は迷人での申請になるから、登録費用は免除されるな」


ダインさんの説明によると、通常は両ギルドとも銀貨数枚の登録費用が発生するが、それが特例として免除されるとか。

それは助かるなぁ。だって文無しなので。

あ、でも街へ入るにもお金が必要なのでは?


「街へ入るのにお金は必要ですか?」

俺が質問すると


「身分証がない場合は、通行税で銀貨3枚が必要だ。手持ちがないのか?」

心配そうにノエルに聞かれ、


「恥ずかしながら文無しなんだよ・・・」

バツが悪そうに俺は答えた。


「ふむ。であれば、私が何かミクの所持品を買い取ろう。そのネックレスなんかはどうだ?」


ダインさんが俺の首元を指差す。これは夏祭りに露天で買った一品だな。

たしか少しボッタクリ気味に2000円で購入してしまったやつだ。

どうやらダインさんは最初から買い取るつもりで俺を物色していたようだ。


「ええ、買い取っていただけると有り難いです。」


俺は首からネックレスを外し、ダインに手渡した。

ダインさんはそれを入念に確認し、


「細かい細工が見事に施されているな、なかなかいい代物だよ。金貨3枚でどうだ?」


貨幣の価値がわからないから、ノエルらを見渡すと


「良い値だぞ! それだけあれば、贅沢しなければ一月は暮らせるぜ!」


ライが驚きの声を上げる。

おお、そんな大金なんだ!きけば平民の一月の収入と同等のようだ。


「ははは、それだけこのネックレスには価値があるさ。しかし、ミクには貨幣の知識も欠如してしまっているようだな?」


ダインさんにそう聞かれ、元からないんだけどね・・と思いつつ頷く。


「ローラ、ミクに貨幣のことを後で教えてあげなさい」

「はい、お父様。わかりました!」


元気よくローラが答え、俺に微笑みかけてくれた。

可愛い笑顔だなー。癒されます。


「すっかり話こんでしまったな。また続きは明日にでも話すとして、さっさと食事を済ませて横になるとしよう。」


ダインさんの言葉でみんな手早く動きだし、食事を済ませる。

スキルに関しては街の教会に行けばわかるのかな?


ついつい質問する機会を失ったな・・そう思いつつ軍幕の中で横になり、

眠りにつくのだった。

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